日本語の面白い語源・由来(は-⑲)破天荒・ハッスル・はにかむ・餞・バリカン・禿・疾風・ハイジャック

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破天荒

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.破天荒(はてんこう)

破天荒

破天荒」とは、「今まで誰も成し得なかったことを成し遂げること(また、そのさま)」です。前代未聞。未曾有。

破天荒は、中国『北夢瑣言』の次の故事に由来します。

唐代に荊州からは「科挙(高等官資格試験制度)」で合格者が出ず、「天荒(未開の荒れ地)」と呼ばれた。
大中年間、劉蛻という人物が初めて合格したため、人々が「破天荒(天荒を破った)」と言った。

四字熟語では「破天荒解(はてんこうかい)」と言います。「破」は、「成し遂げる」の意。「天荒」は、「天地が分かれる前の混沌としたさま。また、未開・不毛の地」の意。「解」は、「中国の官吏登用制度の科挙で、地方の予備試験に合格し、中央の本試験を受ける資格を得た者」のことです。

破天荒は、「破天荒な政治家」のように「大胆」「型破り」「豪快」といった意味での誤用が多い言葉です。

このような誤用が多いのは、前人の成し得なかったことを初めて成し遂げるという、破天荒の意味から連想される人物像。また、「破」や「荒」の字面からと考えられます。

2.ハッスル/hustle

ハッスル

ハッスル」とは、「張り切ること。頑張ること。気力・闘志をみなぎらせること」です。

ハッスルは、英語「hustle」からの外来語で、「振る」を意味するオランダ語に由来します。
昭和38年(1963年)の春、プロ野球の阪神タイガースが米軍キャンプへ行った際に日本へ持ち帰った言葉で、「ハッスルプレー」などと使われました。

英語の俗語では「hustle」に「売春婦をする」「売春婦が客引きをする」「押し売りする」などの意味があるため、日本に入った当初、NHKでは放送禁止用語としていましたが、民放が使用したため一般に広まり、当時の流行語にもなりました。

その後、死語となっていきましたが、平成16年(2004年)、プロレスラーの小川直也が「3、2、1 ハッスル!ハッスル!」と言いながらする「ハッスルポーズ」を流行させ、流行語大賞にもノミネートされました。

3.はにかむ

はにかむ

はにかむ」とは、「恥ずかしがる。恥ずかしそうな表情をする」ことです。

はにかむは、歯が不揃いに生えることをいった言葉でしたが、転じて歯をむき出す意味となりました。

歯をむき出した表情は、照れくさそうに笑っているようにも見えることから、恥ずかしそうにする仕草を言うようになりました。

一説には、「はじかむ(恥かむ)」が変化したとも言われ、歯をむき出した表情から恥ずかしがる意味に転じた際に、「はじかむ」が影響したとも考えられます。

照れくさそうにお礼を言う姿から、韓国語で「ありがとう」を意味する「カムサハムニダ」が「カムサはにかむダ」になり、「はにかむ」が残ったという説はありません。

4.餞/贐(はなむけ)

はなむけ

はなむけ」とは、「旅立ちや新たな門出に際し、激励や祝福の気持ちを込めて、挨拶の言葉・金品・詩歌などを贈ること」です。

遠方に旅立つ際、道中の安全を祈願し、馬の鼻先を行き先の方向に向けた習慣から、「馬の鼻向け(むまのはなむけ)」という言葉が生まれ、「馬の鼻向け」が略されて「はなむけ」となりました。

はなむけ
「むまのはなむけ(うまのはなむけ)」は、『土佐日記』『古今和歌集』『伊勢物語』など、平安前期の文献に使用例が見られます。

現代では「はなむけの言葉」というように、多くは旅立ちや門出の「挨拶」を意味します。

しかし、「うまのはなむけ」は「送別会」や「餞別(せんべつ)」の意味で多く使用されました。

「はなむけ」の漢字「餞」は、「餞別」の「餞」で、食偏に「少ない」を意味する「戔」から成り、ささやかな祝宴からと考えられます。

「はなむけ」のもうひとつの漢字「贐」は、お金や宝に関する漢字を作る貝偏に、「尽」の旧字「盡」で、お金を出し尽くして祝うという意味が含まれているといわれます。

5.バリカン

バリカン

バリカン」とは、「頭髪を刈る金属製の理髪用具」です。

バリカンは、フランスの製作会社名「Barriquand et Marre(バリカン・エ・マール商会)」に由来する語です。

しかし、フランス語では「tondeuse(トンズーズ)」、英語では「hair clippers (ヘア・クリッパーズ)」で、バリカンは日本独自の呼称です。

明治16年(1883年)に、フランス駐在の外交官だった長田桂太郎がバリカンを日本へ持ち帰り、明治18年(1885年)に、理髪師の鳥海定吉が使用してから普及したといわれます。

舶来品のバリカンは高価だったため、使用せず大切に保管する店もあったそうです。
この散髪器具はフランスから入ったものなので、本来「トンズーズ」と呼ばれるはずですが、なぜか日本では「バリカン」の名で広まりました。

そのバリカンの語源を発見したのは、言語学者の金田一京助氏で、それまで大変な苦労をしています。

金田一氏が三省堂にいた頃、「日本外来語辞典」の編集をすることになり、三年も費やしあらゆる文献を調べましたが、バリカンの語源だけが分かりませんでした。

床屋へ行った際、店主にあれこれ聞いても分かりませんでしたが、「バリカンの機械か箱にバリカンとは書いてないものか?」と言って手にしたところ、「Barriquand et Marre」の刻印を見つけました。

そこで、会社名の「バリカン」が商品名と勘違いされ、散髪器具の名前として広まったことを発見したのでした。

6.禿(はげ)

はげ

ハゲ」とは、「髪の毛が抜けてなくなっていること」です。

ハゲは動詞「剥ぐ(はぐ)」の名詞形です。
『浮世物語』には「さのみにはげをしかり給ふな はげをしからぬ本歌の侍(はべ)るぞかし」とあります。

「禿げ上がる(はげあがる)」という表現は、ハゲたために生え際が頭の上の方になることからです。

関西方面の方言「はげ散らかす(はげちらかす)」は、「ハゲて毛を散らかす」という意味ではありません。
「はげ散らかす」は、部分的に毛が残っている人に対して使い、ツルッパゲの人には使われません。

また「食い散らかす」の「散らかす」には、「荒々しくする」といった意味があります。
そのようなことから、「はげ散らかす」は荒々しく(無残に)ハゲた状態を形容したものと思われます。

7.疾風(はやて)

疾風

太平洋戦争中の日本陸軍の戦闘機に愛称「疾風」の「四式戦闘機(よんしきせんとうき)」(下の写真)がありました。

疾風

神風特別攻撃隊(特攻隊)」で華々しく活躍した日本海軍の「零式艦上戦闘機(れいしきかんじょうせんとうき)」(愛称「零戦(ぜろせん)」)(下の写真)ほど人気も馴染みもありませんが・・・

零戦

はやて」とは、「急に激しく吹き起こる風」です。

はやての「はや」は「早い」の意味で、「て」は「風」を表します。
漢字では「疾風」のほか「早手」とも書き、「はやち」とも呼ばれます。
「風」を「ち」と読む例は、「東風(こち)」に見られます。

江戸時代には、かかるとすぐに死ぬという意味から、疫病の異名としても「疾風」が使われていました。

8.ハイジャック/hijack

よど号ハイジャック事件

「ハイジャック」と言えば、1970年(昭和45年)3月31日に起きた「よど号ハイジャック事件」をまず思い出しますが、これが日本最初のハイジャック事件です。

1970年はちょうど「大阪万博」(「EXPO’70(エキスポ70)」)が開催される年でした。

ハイジャック」とは、「運行中の乗り物、特に航空機を乗っ取ること」です。

ハイジャックは英語「hijack」からですが、語源は以下の通り諸説あります。

あたかも知り合いのようなふりをして車に近寄り、「Hi,Jack!(ハイ、ジャック)」と呼びかけ、運転手を引きずりおろして車を奪う犯罪がアメリカで多発していたため、乗っ取りを「ハイジャック」と呼ぶようになったとする説。
駅馬車強盗が銃を突きつけ、「Stick’em up high,Jack(手を高く上げろ)」と脅し馬車を奪ったことからとする説。
追いはぎを意味する「highwayman」と、狩りをする人を意味する「jack(jacker)」から、「highwayman + jack(jacker)」が略されたとする説があります。

日本では「hi」と「high(高い)」を混同して「飛行機」を表す語と勘違いされたせいか、「ハイジャック」は飛行機乗っ取りの意味で用い、バスの乗っ取りには「バスジャック」というように、「ジャック」に乗っ取りの意味を持たせて呼びます。

また、「ジャックする」という表現も生まれ、乗り物以外にも「番組ジャック」や「サイトジャック」などとも言うようになりました。

これらの用法はすべて和製英語で、英語では飛行機の乗っ取りに「skyjack(スカイジャック)」を用いる以外、他の乗り物でも「ハイジャック」が使われています。

また、「jack」を「乗っ取り」の意味で用いることはなく、「サイトジャック」や「番組ジャック」などで言う「乗っ取り」の意味であれば「takeover」が使われます。