日本語の面白い語源・由来(ひ-⑫)引っ張りだこ・百姓・ビリ・雛人形・ピンポン・ひもじい・雹

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ひっぱりだこ

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.引っ張りだこ(ひっぱりだこ)

ひっぱりだこ

ひっぱりだこ」とは、「多くの者が人気のある物や人を手に入れようと争うこと。皆に求められること」です。

ひっぱりだこは、タコの干物を作る際、足を四方八方に広げて干された形に由来します。
昔はその形から、はりつけの刑やその罪人を表す言葉として「ひっぱりだこ」が使われていましたが、いつしか現在の意味に変化していきました。

語源からすれば、漢字表記は「引っ張り蛸」が正しく、「引っ張り凧」は誤りですが、「引っ張り凧」も正しい表記として扱われています。

これは、特に漢字で書かれる言葉でなかったことや、凧も糸を引っ張ること、凧の語源も蛸に通ずることから、正しい表記として扱われるようになったと考えられます。

2.百姓(ひゃくしょう)

百姓

百姓」とは、「農業生産に従事する人。農民。農作業をすること」です。

百姓は「ひゃくせい」とも読み、姓を「しょう」と読むのは呉音です。
「百」は「たくさん」、「姓」は豪族が氏(うじ)の下につけた称号「かばね」のことで、古代において百姓は「もろもろの姓を有する公民」の意味でした。

やがて、「一般人民」や「庶民」の意味となり、社会的身分と職業が相応するようになった中世頃より、百姓は農民の意味に固定していきました。

その後、農作業をすることも「百姓」と言うようになりました。

かつては、垢抜けない人を罵って「百姓」とも言いましたが、差別用語に厳しい世の中になったため、そのような意味では滅多に使われません。

3.ビリ

ビリ

ビリ」とは、「最後。最下位。最下位の者」のことです。

ビリの語源は、「尻(しり)」が転訛して「ひり」となり、「びり」になったとする説が有力とされます。

「びり」の語は、江戸時代の歌舞伎にも見られ、「最下位」の意味のほか「尻」も意味し、「尻」から「男女の情交」を意味するようになり、そこから「女性の陰部」の意味で用いられました。

転じて、遊女や女郎の意味や、遊女などをののしる語としても用いられました。

これら全て「尻」が基点になっており、「ビリ」を強調して「びりっ尻(びりっけつ)」と言うことや、最後尾を「尻」と言うことからも、ビリの語源は「尻」の転訛と考えられます。

「屁を放る(へをひる)」の「ひる」と「尻」が混ざり、「尻」が「ひり」になり、「びり」になったとする説もありますが、こちらの説は考え難いものです。

4.雛人形(ひなにんぎょう)

雛人形

雛人形」とは、「ひな祭りに飾る人形」です。おひなさま。ひな。内裏雛・三人官女・五人囃子・随身・衛士などを合わせて一組とします。

雛人形の「雛」は、「小さい」や「愛らしい」の意味からの呼称で、元々はひよこをかたどった人形であったということではありません。

雛人形の起源は、平安時代に始まった、けがれや災いを移して流す「人形(ひとがた)」とされます。

当時の雛人形は、紙や土で作った立ち雛で、座り雛になったのは室町期頃からです。
3月3日の桃の節句に雛人形を飾るようになったのは、江戸時代以降のことです。

「雛人形」は春の季語で、次のような俳句があります。

・雛人形 めぐる故郷の 露地遊び(市川伊團次)

・茶を点(た)つる 雛人形に 見つめられ(大石よし子)

・本棚に 一刀彫の 雛人形(稲木款冬子)

・輿入れに 付き添ふ京の 雛人形(松田明子)

5.ピンポン/ping-pong

ピンポン

ピンポン」とは、「ネットを張ったテーブルを挟んで競技者が相対し、ラケットでセルロイド製のボールを打ち合い得点を競う球技」です。卓球。

ピンポンは、1890年代にイングランドのジェームス・ギブが、アメリカでセルロイド球を見つけて持ち帰ったことが始まりです。

ギブは上流階級の間で流行っていたバドミントンの前身にあたる「バトルドア・アンド・シャトルコック」のラケットで、セルロイド球を打ってみたところ、テーブルに弾めば「ピン」、ラケットに当たれば「ポン」という音がして、打ち合うことを非常に面白いと感じました。

ギブはこれを、遊技用品とスポーツ用品の会社を経営していた隣人のジェームス・ジェークスに紹介しました。

ジェームスもこれを絶賛し、「ピンポン(ping-pong)」という名を世界中に商品登録し、1898年にはボールとラケットをケースに入れて、「ピンポン・セット」と名付け発売しました。

つまり、ピンポンは商品名であり、語源は「ピン(ping)」と「ポン(pong)」という音です。

6.ひもじい

ひもじい

ひもじい」とは、「ひどく腹が減っている。空腹で食べ物が欲しい」ことです。

ひもじいは、空腹を意味する名詞「ひ文字(ひもじ)」が形容詞化した語です。
ひ文字は、形容詞「ひだるし」の文字詞(もじことば)で、19世紀初頭の『続膝栗毛』に「ひもじき時のまづいものなし」の例があります。

文字詞とは女房詞の一種で、ある語を直接言うことを避けるため、語頭の一音か二音だけを残し、「文字」という言葉を添えたものです。

文字詞には「はずかしい」をいう「は文字」、「髪」の「か文字」などがあり、現代でも使われている「しゃもじ」も文字詞です。

ひもじいの漢字には、「饑文字い」「餓い(餓じい)」「 饑い(饑じい)」「 飢い(飢じい)」などがあります。

しかし、いずれも当て字で、一般に使われる表記でもないため、ひもじいはひらがな表記するのが無難です。

7.雹(ひょう)

雹

「雹」とは、「積乱雲から降る直径5mm以上の球状や塊状の氷の粒のこと」です。

「雹」の語源は、「ヒョウウ(氷雨)」です。氷の雨。氷の粒が雨のように降る気象現象です。これは、一般的に、平凡に言われている語源説です。

古くは「へう」や「ひやう」と表記しました。これは「よ」を小さく書く習慣のなかった時代に工夫された表記です。「きょう(今日)」も「けふ」と書かれたりしました。

気象学的には、「あられ(霰」と「ひょう (雹)」はただ氷塊の大きさで分けられています。直径5mm以上が「ひょう (雹)」で、直径5mm未満が「あられ(霰)」です。

「雹」は積乱雲の中でできるのですが、冬場はあまり大きいものはできません。冬場は積乱雲もほとんどなく、氷塊の生成も小さいためです。そして気温が低く、溶けもせず小さいまま落ちてきます。

古くはすべて「あられ(霰)」だったのですか、冬場以外の氷は珍しく、特に「ヒョウウ(氷雨)→ひょう」と言われ出したようです。言われ出したのは室町時代ごろのようです。

「雹」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・魚降りし 市の噂や 夏の雹(内藤鳴雪)

・雹の音 こころに昏(くら)く 麦ありぬ(臼田亜浪)

・烈日や ころげし雹に 草の影(原石鼎)

・石楠花(しゃくなげ)の 紅(べに)迸(ほとばし)る 雹のあと(岡田貞峰)