日本生命の詐欺まがいの募集行為による被害の実例

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日本生命

1.日本生命で保険募集におけるコンプライアンス違反事例が多発

以前、東洋経済オンラインの2022/6/30付記事で、『日本生命「9カ月間で34件の違反行為」の異常事態金融庁の立入検査に戦々恐々、不正はなぜ多いというのがありました。

以下に記事を一部抜粋してご紹介します。

日本生命の営業現場では保険募集に関わる重大な事故が毎年発生しており、同社からの事故の届け出を受けた金融庁が、とりわけ監視の目を光らせているからだ。

営業職員チャネルを持つどの生保会社でも同じだが、営業職員による金銭詐取やコンプライアンスに抵触する保険募集が発覚した場合、各社は地元の財務局へ事故の届け出をしなければならない。そして、届け出を受理した財務局が金融庁に報告する流れになっている。

日本生命の場合、2021年度は12月時点(2021年4月~12月)で34件の事故が発覚し、その旨を財務局に届け出ている。「重要事項の不説明」や「特別利益の提供」(契約者や被保険者に対して保険料の割引きなどを行うこと)など、保険募集に関わるさまざまな違反行為が報告されたが、特に目立つのが保険に加入意思のない人の名義だけを借りて作成する「名義借り契約」と呼ばれる不正契約の多さだ。

日本生命の全国99支社の1割に当たる10支社で名義借りが発覚しており、実際の不正契約の件数は100件以上に上る。

中には、1人で30件もの名義借り契約を作成した営業職員もいた。1つの営業部で営業職員9人が不正に関わるケースも発覚するなど、組織ぐるみの不正が疑われる事案もあった。金融庁は不正の件数だけでなく、事案の悪質性も問題視している。

また同じく東洋経済オンラインの2022/7/29付記事で、『日本生命「名義借り契約は日常茶飯事」の深い闇 営業職員が明かす営業現場の赤裸々な実態』というのもありました。

2.身近にあった日本生命の営業部長による不適切な募集行為

これらの記事を読んだ当時は「大手生保の日本生命でも、そんなことがあるのかな?」というのが私の率直な感想でした。

しかし最近、知人が日本生命の営業部長によるコンプライアンス違反の不適切な募集行為による被害に遭った話を聞きました。知人は契約後10年も経ってから詐欺のような被害に遭っていることを知り、何度も交渉した末に「契約取消」をしたということです。

最初契約した営業部長(すでに退職)は、「保険料金額の変更はいつでも自由にでき、もし保険料が払えなくなれば保険料支払いをストップして銀行預金と同じようにもできる」と、保険料金額の変更が非常に簡単なように説明したそうです。

そしてその営業部長は最初の契約時と保険料金額変更時に来ただけで、その後10年間来訪も電話連絡も全くなかったのですが、最近「契約内容確認活動」と称して別の営業所の職員の往訪があり、詐欺のような不適切な契約であったことが発覚したのです。

今回はこれについてご紹介したいと思います。

(1)保険契約に至った経緯

10年ほど前、知人が高齢の母親の「相続税対策」として、「孫への保険料贈与」による「年金保険」(ニッセイみらいのカタチ)を勧められました。贈与の相手を「子」ではなく「孫」にしたのは、相続3年以内の贈与でも無効にならないからです。

(2)高額な保険料金額の設定

「相続税対策」なので、最初の「保険料金額」は3百万円と非常に高額に設定されました。

しかし、高齢の母親が亡くなった後は、せいぜい「無税の年間贈与金額」の1.1百万円の保険料を知人が「孫」に贈与して支払うのが精一杯なので、その旨を営業部長に伝えました。

さらに知人が亡くなった後は、年収3百万円程度の30代の孫が1.1百万円の保険料を支払い続けるのは無理なので、さらに減額が必要になると伝えました。

(3)保険料金額変更についての営業職員の説明

営業部長は、「保険料金額の変更はいつでも自由にできる」、「もし保険料が払えなくなれば保険料支払いをストップして『払い済み保険』として銀行預金と同じようにもできる」と説明したそうです。

(4)1年後に高齢の母親が亡くなり、保険料金額を1.1百万円に減額

この時営業部長からは、「途中で保険料金額を変更すると、一部解約となって顧客に損失が発生し、満期日まで30年以上も保険料を払い続けても受取金額が支払保険料総額より少なくなる(数百万円の損失となる)」旨の説明は全くありませんでした。

(5)昨年秋の別の営業所の職員による「契約内容確認活動」で被害が発覚

「契約内容確認活動」で別の営業所の職員が持参した資料で、次の事態が発覚しました。

「年金受取総額」が「保険料支払い総額」より少ないこと

「65歳時点の死亡保険金」が「保険料支払い総額」より少ないこと

「途中で保険料支払いをストップ」すると、年金元金が「その時点の解約返戻金額」に減額されること

(6)日本生命との交渉の結果、「契約取消」し、払込保険料総額の返金を受けた

上に述べたような事情を「契約内容確認活動」に来た日本生命の別の営業所の職員に説明しました。

その職員は、「当時担当した営業部長の強引な契約のやり方や、顧客に不利益になる重要事項の説明欠如などの重大な過失があったこと」を認め、最終的には「契約取消」をして、払込保険料総額を返金したそうです。

(7)この募集行為の問題点

知人は最初から「保険料金額の変更」や「保険料支払いのストップ」があることを事前に伝えていましたが、営業部長は「その場合は顧客に不利益になるという重要で重大な事実」を説明していませんでした。

銀行預金なら、わずかでも利息が付き、元本保証です。株式投資の場合は、株価が下がれば損失を蒙ることはあらかじめ予想されています。

しかし、この知人が締結した保険契約の場合は、最初から損失の発生が確定していたことになります。

このような「契約者に不利益で、保険の意味やメリットが全くない契約」だと最初に知っていれば、契約する馬鹿はいないはずです。

知人は「顧客に不利益になる重要な説明を全くしていなかった」「詐欺にだまされた」と感じたそうです。

このケースでは、民法でいう「要素の錯誤」(*)があったと考えられ、「契約の取消」が可能になります。

(*)「要素の錯誤」とは

民法95条1項は、意思表示に対応する意思を欠く錯誤と動機の錯誤があった場合で、その錯誤が重要なものであるとき取り消すことができるとしています。 

  重要な錯誤とは、①錯誤が無かったら表意者が意思表示をしていなかった②一般人が表意者の立場であったら当該意思表示をしなかったと認められる場合をいいます。 

民法95条1項 「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」 

(1) 「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」 

(2) 「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」 

2項 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

(1)相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

(2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4項 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

そもそも、契約者が「年収3百万円程度の孫」なので、「年間保険料3百万円の保険契約」は「年間保険料金額の過大な超長期の保険契約」であり、保険会社としては「本来引き受けられない契約」のはずです。

これは日本生命の重大な「コンプライアンス違反」であり、「保険会社のモラル・道義的責任」の上でも問題のはずです。