日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.水菓子(みずがし)
「水菓子」とは、「果物」のことです。
本来、菓子は「果物」を指しましたが、「食事以外の全ての間食」を広く意味する言葉となりました。
そのため、現在「菓子」と呼ばれるような嗜好品と「果物」を区別するために、果物には「水」を付け加えて、「水菓子」と呼ぶようになりました。
しかし、菓子が「食事以外の全ての間食」を意味する言葉だったことも忘れられ、「水菓子」の語を用いなくとも「果物」で済むようになっため、「水菓子」は菓子の種類と誤解されるようになってきました。
そして、水羊羹、ところてん、わらび餅、ゼリー、ババロアなど、みずみずしい菓子類や、アイスキャンディーやシャーベットなど、水分を凍らせて作る菓子を「水菓子」と呼ぶことが多くなっています。
2.水(みず)
「水」とは、「水素と酸素の化合物。液状のもの」です。
水の旧カナは「みづ」で、語源は以下のとおり諸説あります。
朝鮮語で「水」を意味する「ムル」からとする説。
「満・充(みつ)」に通ずるとする説。
その他、「満出(みちいづ)」「充足(みちたる)」「実(みのる)」などで、「満・充(みつ)」の説がやや有力とされますが、正確な語源は未詳です。
水は生命を繋げるものであることから、「み」が「身」のことで「生命」を意味し、「ず」は「繋げる」を意味するといった説もありますが考え難いものです。
3.苗字/名字(みょうじ)
「苗字(名字)」とは、「その家に代々伝わる名。姓。家名」です。
みょうじは、元来「名字」と書きました。
平安中期頃から、武士などが「名田(みょうでん)」にちなんだ「字(あざな)」を作るようになったことから、「名田の字」で「名字」となりました。
「苗字」の表記は江戸時代以降で、「苗」の字は「苗裔(びょうえい)」の意味からです。
江戸時代には「苗字」でほぼ固定してきましたが、『苗字帯刀』によって武士と一部の庶民を除き、名乗ることが許されていませんでした。
平民の使用が許されたのは、明治3年(1870年)の『平民苗字許可令』ですが、当時の国民は政府を信用していなかったため、苗字をつけることで余分に課税されるのではないかと警戒し、名乗る者は少なかったそうです。
すべての国民が名乗るようになったのは、明治8年(1875年)、名乗ることが義務付けられた『平民苗字必称義務令』によります。
1875年の法令で「平民は必ず苗字を称するよう義務付けた」背景は、1873年1月の「徴兵令」により国民に兵役が義務化され、苗字のある兵隊と苗字のない兵隊がいると、「点呼」も取れず支障が出たためです。
なお、「苗字」については、「苗字は誰がどのようにして付けたのか?珍しい苗字・難読苗字もご紹介します!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
4.土産(みやげ)
「土産」とは、「人に贈ったり家に持ち帰るために、旅先などで求めたその土地の名産品。人を訪問する際に持って行く贈り物」のことです。
みやげの語源には、よく見て選び、人に差し上げる品物を「見上げ(みあげ)」といったことから、「見上げ」が転じて「みやげ」になったとする説。
「屯倉(みやけ)」からの品物の意味で、「みやげ」になったとする説。
その他、「都笥(みやこけ)」「宮倉(みやけ)」「家笥(みやけ)」などの意味からといった説があります。
漢字では「土産」と書きますが、「土産」はその土地の産物が本来の意味で、「とさん」や「どさん」といいました。
それぞれ別の意味で用いられていた「土産」と「みやげ」ですが、室町時代から混用されるようになり、室町末期から「みやげ」の当て字として「土産」が用いられるようになりました。
5.耳朶/耳たぶ(みみたぶ)
「耳たぶ」とは、「耳の下部にあるやわらかいところ」です。
漢字で「耳朶」と書き、「朶」は「垂らす」という意味なので、耳たぶは「耳の垂れた部分」の意味と考えられます。
太腿のことを「腿たぶ(ももたぶ)」と呼ぶ地方もあり、耳たぶの「たぶ」と同じ用法で「たぶ」が使われています。
また、耳朶は「みみたぼ」「じだ」などとも呼ばれます。
6.水無月(みなづき)
「水無月」とは、「旧暦6月の異称」です。
水無月は「水の無い月」と書きますが、水が無いわけではありません。
水無月の「無(な)」は、「神無月(かんなづき)」の「な」と同じく、「の」にあたる連体助詞「な」で、「水の月」という意味です。
「水の月」に由来する説の中には、田に水を引く時期にあたることからとする説や、梅雨の時期になることからという説があります。
旧暦6月の異名には「水張月(みずはりづき)」もあるため、水無月は田に水を引く時期に由来すると考えて良いでしょう。
旧暦の6月は新暦の6月下旬から8月上旬頃にあたり、暑さで水が干上がってしまうことから、文字通り「水が無い月」の意味で「水無月」になったとする説もあります。
しかし、「青水無月(あおみなづき)」という異名の「青」は、青葉の茂る頃を意味しており、水無月の語源が「水の無い月」とすると、「干上がって水の無い青葉の茂る月」という不自然な意味の名前になってしまいます。
また、月名は「有るもの」「すること」などから付けられることが多く、「無いもの」からの命名は考え難いものです。
7.未曾有(みぞう)
「未曾有」とは、「いまだかつてないこと。きわめて珍しいこと」です。
未曾有は、「奇跡」を意味するサンスクリット語「adbhuta」が漢訳された仏教用語です。
元々は、仏の功徳の尊さや、神秘なことを賛嘆した言葉として用いられました。
日本では、未曾有が「未だ曾て有らず(いまだかつてあらず)」と訓読され、本来の意味で使われていました。しかし、鎌倉末期には原義が転じ、善悪の両方の意味で用いられるようになりました。
現代では「未曾有の災害」や「未曾有の事件」というように、悪い意味で用いられることの方が多く、良い意味で使われることが稀となっています。
8.ミーハー
「ミーハー」とは、「流行などに熱中しやすい人たち。程度の低いことに夢中になっている人を軽蔑して言う言葉」です。
ミーハーは、「みいちゃんはあちゃん」の略「みいはあ」に由来します。
「みいちゃんはあちゃん」は、昭和初期、「みよちゃん」や「はなちゃん」など、昔の女の子の名前の頭文字に「み」や「は」が多かったことから、若い女の子の代表的な呼び名で、言動を軽蔑して呼ぶときに用いられました。
「みいちゃんはあちゃん」は流行語となり、そこから軽い若者風俗を総称した「ミーハー族」が生まれました。
この頃から徐々に、カタカナ表記の「ミーハー」が増えていきました。
昭和30年頃には、ミーハーより少し趣味が高尚な人々をさす「ソーラー族」も誕生しました。
ソーラーとは、ドレミファソラシドの「ミ・ファ」より音階がひとつ上である「ソ・ラ」をもじったもので、一般化されず消滅しました。
ミーハーの語源には、その他、力士仲間の隠語に馬鹿や間抜けを表す「はーちゃん」という言葉があり、ドレミファソラシドの「ミーファー」と関連づけ、「ミーハー」になったとする説。
また、新しいもの好きの若者が、自分のことを「me(ミー)」、彼女を「her(ハー)」と呼び、「ミーのハーちゃん」などと言っていたため、軽い若者風俗をさして「ミーハー族」と総称したとする説もあります。
しかし、力士のドレミファ説は、ソーラー族が誕生してから作られたと考えられ、力士の隠語とドレミファにも関連性がないことから、有力な説ではありません。
また、昔は女の子を軽蔑する際によく使われていた言葉なので、男性(力士や彼)が中心となる言葉から発生したとは考え難いものです。
「ミーハー」という言葉が生まれる以前に、「みいちゃんはあちゃん」という言葉が存在していたことや、女の子を軽蔑する意味で使われたことなどを考慮すると、ミーハーの語源は名前の頭文字からとするのが妥当です。