日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.木犀(もくせい)
「モクセイ」とは、「中国原産のモクセイ科の常緑小高木。ギンモクセイ・キンモクセイ・ウスギモクセイの総称」です。単に「モクセイ」と言う場合は、ギンモクセイを指します。
モクセイは、漢名「木犀」の音読みです。
「犀」を呉音では「サイ」、漢音では「セイ」で、漢音が採用されました。
中国でこの木が「木犀」と呼ばれるようになったのは、樹皮が動物のサイの皮に似ているところからといわれます。
日本にモクセイが伝来したのは、室町時代です。
「木犀」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・木犀の 昼は醒めたる 香炉かな(服部嵐雪)
・木犀の 香(か)に染む雨の 鴉(からす)かな(泉鏡花)
・木犀や 屋根にひろげし よき衾(ふすま)(石橋秀野)
・木犀の 香や楊貴妃の 湯浴みあと(川井政子)
2.紋甲烏賊(もんごういか)
「モンゴウイカ」とは、「カミナリイカの市場名。アフリカ西海岸からヨーロッパ沿岸で漁獲されるヨーロッパコウイカの市場名。東南アジアからインド洋で漁獲されるトラフコウイカの市場名」です。
モンゴウイカは、コウイカ科の「カミナリイカ」の市場での名前で、背面に眼のような模様が多数あることから、「紋のあるコウイカ」という意味で付けられました。
「モンゴウイカ」は「カミナリイカ」のみを指す呼称でしたが、漁獲が激減したことから、現在、「モンゴウイカ」と呼ばれているのは、ほとんどが横縞のまだら模様がある「ヨーロッパコウイカ」です。
また、「模様のあるコウイカ」=「モンゴウイカ」として、虎斑紋がある「トラフコウイカ」も「モンゴウイカ」と呼ばれます。
3.物憂い(ものうい)
「物憂い」とは、「なんとなく心が晴れない。だるくて億劫だ。憂鬱だ。面倒だ。なんとなく苦しい。つらい」ということです。
物憂いの「憂い」は、「心苦しい」「つらい」といった意味の形容詞です。
物憂いの「物」は、「物悲しい」「物寂しい」など、形容詞の上について「なんとなく」の意味を含ませる語です。
4.樅(もみ)
「モミ」とは、「日本特産のマツ科の常緑高木」です。材は建築・家具・柩・卒塔婆などに利用し、パルプの原料にもされます。若木はクリスマスツリーに用いられます。
モミの語源には、一ヶ所に多くあり、風にもみ合うところから「揉む」の意味とする説。
萌黄(もえぎ)が見事であるところからとする説。
大木で神聖な木として民間信仰の対象にもなっていことから、「臣木(おみのき)」の転とする説。
実がもろく散ることから、「もろい実」で「モミ」になったとする説。
同属の木を朝鮮語で「mun-bi」ということから、朝鮮語の転訛説などがあります。
上記の中で、朝鮮語以外の説はいずれも他の木にも当てはまることなので、朝鮮語「mun-bi」が有力と考えられます。
しかし、古くは「モムノキ」と呼んでおり、「mun-bi(ムンビ)」が語源とすると「ムンビ」「モミ」「モム」「モミ」と変化したことになってしまいます。
また、モミの木は日本特産であることからも、朝鮮語説はやや考え難いものです。
語源は未詳ですが、上記の中では「モムノキ」の発音から「もみ合う」の説が妥当で、信仰の対象となっていたところから「怖む(おむ)」の転とも考えられます。
5.木綿(もめん)
「木綿」とは、「衣料などに広く用いられる綿の種子からとった繊維。木綿糸の略」です。コットン。めん。
もめんは、漢語「木綿(モクメン)」が転じた語で、古くは「モクメン」と呼ばれていました。
モクメンはアオイ科のワタのまわりにできる白い毛綿のことですが、読みが「もめん」に転じて以降、その毛綿から取れる繊維や、それで織った布なども「木綿」と呼ばれるようになっていきました。
『日本後紀』には、延暦18年(799年)に三河国へ漂着したインド人によって木綿布が伝来したと記されており、これが日本へ伝来した年と考えられています。
6.木蓮(もくれん)
「モクレン」とは、「春、大きな紫色の六弁の花を開いた後、広倒卵形の葉が出る中国原産のモクレン科の落葉低木」です。観賞用に庭などに植えられます。
モクレンは、花の姿がランに似ていることから中国では「木蘭」と呼び、日本でも音読みして「モクラン」、更に日本語化して「モクラニ」などとも呼ばれました。
そのため、「モクレン」は漢字で「木蘭」とも表記されます。
「木蓮(モクレン)」と呼ばれるようになったのは江戸時代頃で、「木蘭」から「木蓮」への変化は、見立てられる花がランからハスに変わったことによります。
「木蓮」も元は漢名ですが、中国でいう「木蓮」は「コブシ(辛夷)」のことです。
別名の「木蓮華・木蓮花(モクレンゲ)」は木蓮と同様の意味からで、「紫木蓮・紫木蘭(シモクレン)」は紫色の花を咲かせることからの名です。
「木蓮」は春の季語で、次のような俳句があります。
・此門の 勅額古し 木蓮花(内藤鳴雪)
・木蓮の 花びら風に 折れてあり(松本たかし)
・木蓮の 落ちくだけあり 寂光土(川端茅舎)
・木蓮の 軒くらきまで 咲にけり(原石鼎)
7.萌え(もえ)
「萌え」とは、「ある物や人に対して抱く、強い愛着心や情熱、欲望などの気持ち。何かが好きな様子。何かに熱中するさま」のことです。
萌えの語源には、NHK教育テレビの『天才てれびくん』で放送されたアニメ『恐竜惑星』に登場するキャラクターの名前「萌」に由来する説。
『美少女戦士セーラームーン』のキャラクター名「土萠(ともえ)ほたる」の「萠」 から「萌え」になったとする説。
雑誌『なかよし』の連載漫画『太陽にスマッシュ!』の主人公「高津萌」のファンが、「萌ちゃん燃え燃え」としていたものが「萌え萌え」になったとする説。
その他のキャラクターや声優の名前からなど諸説ありますが、これらの説は「萌え」という語が成立した過程に過ぎないと考えられています。
また、昔は「もえる」の変換で「萌える」が一番目に表示されるソフトもあったことから、「燃える」の誤変換で「萌え」になったとする説もあります。
しかし、上記のような過程があったとしても単なる誤変換から普及したとは思えず、単純に「燃える」とは異なる感情を表現するため、「萌え」が用いられたと考えるのが妥当で、感情表現の言葉であることや、成立の仕方・背景などから考え、一つの事象から成った言葉とみること自体が語源を追求する上で不自然です。
『恐竜惑星』のキャラクターの名前は「鷺沢萌」ではなく「結城萌」であるなど、語源とは直接関係ないことまで萌えの語源については他の言葉に比べ様々な検証をされていますが、これはオタク用語から発したことや、「自分だけが知っている」というオタク特有の無意味なステイタス意識にあると言えます。
「萌え」という語は、1993~95年頃、現在のインターネットの前身となる「パソコン通信」から普及し、オタクの隠語として多く用いられ、2000年頃より「萌え」の語は社会的にも認知されはじめました。
以降、インターネットの急速な普及したことや、「萌えビジネス」と言われるようにオタクを相手にしたビジネスは市場が活発なこと、一般人とオタクの境界線が狭まったことなどから、社会的にもオタクが一般人と同じであるかのような錯覚に陥り、同時に「萌え」の語も一般化し、2005年には流行語大賞として選ばれるまでになりました。