エモい古語 人生(その1)感情 恋草・恋風・密心・思い寝・袖返す・花妻・玉梓・忍び音

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エモい古語

前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。

確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。

そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。

1.恋

・恋草(こいぐさ):恋心が燃え広がるさまを、草が生い茂ることにたとえた言葉。

・ゆかし:心が惹かれる。慕わしい。知りたい。

後白河法皇が編纂した歌謡集「梁塵秘抄」に次のような歌があります。

「恋しとよ君恋しとよゆかしとよ 逢はばや見ばや見ばや見えばや」(意味:恋しいよ君が恋しいよ君のことをもっと知りたいよ、逢いたい会いたい会いたい君に会いたい)

・憧る(あくがる):魂が身体から抜け出してさまようくらい心惹かれる。または、何かに心を惹かれて出かける。

・心憧る(こころあくがる):魂が身体から抜け出して放心状態になる。夢中になる。

・思い憧る(おもいあくがる):恋焦がれるあまり上の空になる。

・憧れ歩く(あくがれありく):何かに心を惹かれてふらふらと浮かれて歩き回る。

・浮かれ人(うかれびと):美しいものや華やかなもの、異性などに惹かれて浮かれ歩く人。

・恋い初める(こいそめる):恋心をいだきはじめる。

・恋風(こいかぜ):恋心を、風が身に染みることにたとえた言葉。

・恋の初風(こいのはつかぜ):初恋の心。

・恋蛍(こいぼたる):恋い慕う気持ちをホタルの光にたとえた言葉。恋の蛍。夏の季語。

・宵の稲妻(よいのいなずま):宵の薄闇に光る一閃の雷光。はかなさ、恋のあっけなさのたとえ。

・恋煩い(こいわずらい):思い通りにならない恋の悩み。「恋の病(こいのやまい)」。「恋病み(こいやみ)」。「相思病(そうしびょう)」。

・春負け(はるまけ):思春期の恋煩い。

・片恋(かたこい):片思い。「片思(かたおもい)」。

・磯の鮑の片思い(いそのあわびのかたおもい):(アワビは二枚貝の片側の殻しかないように見えることから)一方的に恋い慕っているが、相手は何とも思っていない様子。

・聞く恋(きくこい):まだ見ぬ人のうわさだけを聞いて恋すること。

・徒恋(あだこい):むなしい恋。実らない恋。

・密心(みそかごころ):内に秘めた恋心。忍ぶ恋の感情。

・空なる恋(そらなるこい):心の落ち着かない恋。実りそうで実らない恋。

・恋の奴(こいのやっこ):思いのままにならない恋心を擬人化した言葉。恋というやつ。または恋のとりこ。

・恋は曲者(こいはくせもの):恋は理性を失わせるから、恋する人はとんでもないことをする恐れがあるということ。

・あやめも知らぬ恋(あやめもしらぬこい):分別のつかない恋。わけがわからなくなるくらい夢中な恋。あやめ(文目)は分別、道理。

・恋の闇路(こいのやみじ):恋愛で理性を失っている状態のたとえ。

・恋の騒き(こいのぞめき):恋の胸騒ぎ。

・恋語り(こいがたり):恋の話。恋物語。睦言(むつごと)。

・思い寝(おもいね):好きな人を思いながら寝ること。ものを思いながら寝ること。

・思い人(おもいびと):恋しく思っている相手。恋人。後世では多く愛人の意味で使われます。恋しく思われている相手のことは「思われ人」と言います。

・古人(いにしえびと):昔の時代の人。または昔なじみの人やかつての恋人。

・寝覚めの恋(ねざめのこい):目が覚めてそばにいない恋人を恋しく思うこと。

・心恋う(うらこう):心の中で恋しく思うこと。

・恋い恋う(こいこう):絶えず恋い慕う。なお「恋い渡る」は、恋し続ける、恋しながら暮らす、の意。

・恋い明かす(こいあかす):恋する気持ちが高まって眠れないまま夜を明かすこと。

・恋い余る(こいあまる):恋心が抑えきれずにわかりやすく表に出てしまうこと。

・愛で騒ぐ(めでさわぐ):萌えて大騒ぎすること。

・愛で痴る(めでしる):ときめいてボーっとすること。

・恋結び(こいむすび):離れていても恋が途絶えないことを願ってひもを結ぶこと。「万葉集」にも登場する古いおまじない。

・夜の衣を返す(よるのころもをかえす):夜着を裏返しにして着て寝ること。好きな人に夢で逢うためのおまじない。

・袖返す(そでかえす):袖を裏返しにすること。夢に好きな人があらわれる、または好きな人の夢に登場するためのおまじない。

・蜘蛛の振る舞い(くものふるまい):クモが巣をつくる動作。恋人が来る前兆とされました。

・眉根掻き(まよねかき):眉がかゆくて掻くのは恋人に会う前兆。または恋人に会いたいときのまじないとされました。

・吾が仏(あがほとけ):(自分の信仰する仏という意味から)尊敬している人、大事にしている人のこと。私の推し。

・吾が君(あがきみ):愛する人に呼び掛ける言葉。いとしいあなた。ねえあなた。

・妹背(いもせ):夫婦、恋人など、特別な関係の男女。または兄と妹。姉と弟。

・吾妹子/我妹子(わぎもこ):男性が恋人や妻に呼び掛ける言葉。いとしいあなた。「吾妹(わぎも)」。

・我が兄(わがせ):女性が恋人や夫に呼び掛ける言葉。いとしいあなた。「我が兄子(わがせこ)」

・花妻(はなづま):花のように美しい妻。一説に結婚前の男女が一定期間離れて過ごしているときの触れられない妻。「花つ妻(はなつつま)」とも書きます。

・言寄せ妻(ことよせづま):自分との仲がうわさになっている恋人、妻。

・筒井筒(つついづつ):丸い井戸を囲む竹垣。こどもの背比べに使われていたことから、「伊勢物語」の次の和歌にちなんで仲のいい幼なじみの男女を指します。

「筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹(いも)見ざるまに」(意味:筒井戸の井筒で背比べした私の背丈も、井筒の高さを超えてしまっただろうね。君に逢わないうちに)

・逢瀬(おうせ):恋人同士がひそかに逢う機会。

・契り(ちぎり):約束。宿縁。または恋の逢瀬。「一夜の夢の契り」は、一夜限りの逢瀬。

・懸想人(けそうびと):恋をしている人。

・懸想文(けそうぶみ):恋文。ラブレター。「通わせ文(かよわせぶみ)」。

・玉梓/玉章(たまずさ):(古代、手紙を梓の木に結びつけて使者にもたせていたことから)使者、もしくは手紙。多くは恋文のことを言います。また、(種子の形が結び文に似ていることから)カラスウリの異名。

「もみち葉の 散りゆくなへに 玉梓の 使(つかひ)を見れば 逢ひし日思ほゆ」(意味:紅葉が散りゆく折、手紙の使者を見ると今は亡き妻との逢瀬が思い出される)(柿本人麻呂万葉集」

・薄様(うすよう):薄く漉(す)いた「鳥の子紙(とりのこがみ)」。「鳥の子紙」とは、雁皮(がんぴ)を主原料とした和紙。平安中期以後、季節にあった配色の模様に草花などを添えたものが恋文や仲の良い相手とのやり取りなどに使われました。

恋文には「紅の薄様」など、華やかな色調のものが好まれました。「葵襲(あおいがさね)の薄様」は薄紫の薄様と薄緑の薄様を二枚重ねにしたもの。「氷襲(こおりがさね)の薄様」は、白い薄様を二枚重ねたもの。

・包み文(つつみぶみ):薄様の紙などで包んだ手紙。平安時代以降、恋愛の手紙などに用いました。

・花鳥の使い(かちょうのつかい):(唐の玄宗が美女を集めるために遣わした使者の名称から)恋のなかだち。

・煙比べ(けぶりくらべ):(「思ひ」の「ひ」を「火」にかけて)お互いの燃える恋心の強さを比べ合うこと。

・徒競べ(あだくらべ):お互いに相手が浮気をしていると言い合うこと。

・一花心(ひとはなごころ):その場限りの恋心。浮気心。

・好き心地(すきごこち):いろいろな人との恋の駆け引きを楽しみたい気持ち。浮気心。

・夜離れ(よがれ):男が女のもとに通って来なくなること。

・恋醒め(こいざめ):恋の気持ちがさめること。

・冥き途(くらきみち):「冥途(めいど)」の訓読みで、死後の世界。または恋愛などの煩悩に満ちた俗界。

2.人の心・行い

・うべなうべな:なるほどなるほど。ほんとにほんとに。動詞は「うべなう」。ほかに同意の言葉として、「実(げ)に」があります。

・仄語らう(ほのかたらう):ちょっと話をする。または、人が少し語らうようにホトトギスが鳴く。

・言を通わす(ことをかよわす):手紙を送り合う・言葉を通わす。

・予言(かねごと):予(あらかじ)め言っておいた言葉。約束や予言。

・空言/虚言(そらごと):本心でない言葉。嘘。「空言葉(そらことば)」。嘘つきは「空言人(そらことびと)」と言います。

・ささめごと:ひそひそ話。とくに男女の間での恋のささやき合いを言います。ささめき。漢字では「私語」。「さざめごと」とも言います。

・兄心(このかみごころ):兄や姉、年長者としてふさわしい心遣い。

・霊犀(れいさい):(心と心が通じ合うことを、霊力があるとされた犀の角の白い筋にたとえた李商隠(りしょういん)の漢詩「無題詩」から)心が通じ合うことのたとえ。

「身に彩鳳双飛(さいほうそうひ)の翼無きも、心に霊犀一点通ずる有り」(意味:私には鳳凰のような美しい翼はないけれど、犀の角の白い筋のように心は通じ合える)

・一樹の蔭(いちじゅのかげ):見知らぬ人同士が同じ木の下で雨宿りするように、かりそめの間柄も前世からの縁であること。

・芝蘭の友(しらんのとも):良い影響を与えてくれる友人。芝蘭はかぐわしい香草であるレイシ(霊芝、キノコの一種)とフジバカマ(藤袴)のことで、優れた人のたとえ。いい匂いのなかにいると自分にも香りがうつることから。

・金蘭の契り(きんらんのちぎり):心を合わせれば金を断つほど力強く、ランのように香り高い親友同士の関係。「金蘭の友」。

・泡沫(うたかた):水面に浮かぶ泡。転じて、はかなく消えやすいもののたとえ。

・泡沫人(うたかたびと):泡のようにはかなく消えてゆく人。

・仮初人(かりそめびと):ふと知り合ったその場限りの人。

・透き影(すきかげ):隙間や薄いものを通して漏れる光、見える姿や形。

・往にし(いにし):往時。また、(往ぬ+過去の助動詞「き」の連体形で)過ぎ去った、の意。「往にし人」「往にし日」などと使います。同様の言葉に、「在(あ)りし」「過ぎにし」などがあります。

・来まさぬ(きまさぬ):(来+尊敬の意の補助動詞「ます」+ぬ)いらっしゃらない。「来ませ」は、来てね、来てください、の意。

・徒然(つれづれ):<形容動詞>ひとりさびしく物思いにふけること。することがなくて退屈なこと。

・物憂し/懶し(ものうし):<形容詞>物憂い。気が晴れない。憂鬱だ。なんとなくつらい。似た言葉に、「いぶせし」(すっきりしない)、「気疎し(けうとし)」(気が進まない、気味が悪い)があります。

・うたた心(うたたごころ):移ろいやすい心。「うたた」とは、物事の変化に応じて、いよいよ、ますます、の意。漢字では「転心」と書きます。

・結ぼれ心(むすぼれごころ):からまって解けない糸のようにわだかまった心。

・消え惑う(きえまどう):魂が消えてしまいそうなほどに思い迷う。「惑う」は迷い狼狽(うろた)えること。

・忍び音(しのびね):ひそひそ声、あるいは人知れず声をひそめて泣くこと。またホトトギスの陰暦四月ごろの初音(はつね)。

夏は来ぬ」(佐佐木信綱作詞、小山作之助作曲)という唱歌にも出てきますね。

・袖の露(そでのつゆ):涙で袖が濡れることのたとえ。「袖の時雨(そでのしぐれ)」。

・雲知らぬ雨(くもしらぬあめ):(雲がないのに落ちてくることから)涙のたとえ。

・貝を作る(かいをつくる):口を貝のような「へ」の字に曲げて泣き顔になる。

・さゆらぎ:ゆらぐこと。動詞は「さゆらぐ」。

・ゆらら:<副詞>ゆったりしているさま。形容動詞は「ゆららか」。「さらら」はゆっくりしたさま。

余談ですが、ダイキン工業のエアコンのシリーズに「うるるとさらら」というのがありますが、これは「うるる加湿(無給水加湿)」と、「さらら除湿(除湿冷房)」という意味で、古語の「さらら」とは意味が異なります。

・遥けし(はるけし):<形容詞>遠く離れている。」

・たまさか:<形容動詞><副詞>(めったに会えない者に)偶然会う様子。まれであること。

・邂逅(わくらば):<形容動詞>たまたま。偶然がもたらした巡り合いを表す言葉。

・はらら:<形容動詞>ばらばらに。動詞は「はららぐ」。

・遥遥(はろはろ):<形容動詞>はるかに。「遥遥に思ほゆる」は、「はるかに遠く思われる」という意味。

・相響む(あいとよむ):反響して鳴り響く。

・泥む(なずむ):ひたむきに思い焦がれる。もともとは「足をとられて進行が滞る」という意味で、そこからこだわること、好きになって抜け出せないことを意味するようになりました。現代の「〇〇沼にハマる」に近いニュアンス。なお、役者に夢中になることを「役者泥み(やくしゃなずみ)」と言います。

海援隊の「贈る言葉」の歌詞に「暮れなずむ」という言葉が出てきますが、これは「日が暮れそうで、なかなか暮れない」という意味です。

日が暮れかかってから、すっかり暗くなるまでに時間がかかるのは、日足の長い春の日で、「暮れかぬる」など春の季語と意味が近く、『3年B組金八先生』の主題歌『贈る言葉』(海援隊)は、季節もぴったりの歌詞です。

・丹つらう(につらう):赤く照り映えて美しいこと。特に紅色の頬が美しいさま。「さ丹つらう」で、「君」や「妹(いも)」にかかる枕詞となります。

・ひよめく:ひよひよと弱弱しく動く。

・含む(ほほむ/ふふむ):花や芽がつぼみの状態でいる。「含まる(ほほまる)」。

・耀う(かがよう):ちらちら光って揺れる。きらめく。

・玉蜻(たまかぎる):玉がほのかに輝くことから、「ほのか」「夕」「日」などにかかる枕詞。

・魂極る(たまきわる):「命」「世」「吾」などにかかる枕詞。または命が終わること。

・きらきらし:<形容詞>かっこいい。光り輝いている。

・奇に(あやに):<副詞>むやみに。不思議なほど。

・目もあや(めもあや):きらびやかで正視できない様子。まばゆいほど美しいさま。

・愛し(はし):<形容詞>いとおしい。かわいい。「愛し(いとし)」「愛し(めぐし)」「愛し(かなし)」(心にしみてかわいい)。「ろうたし」(お世話したくなるほどかわいい)。

・愛しきやし(はしきやし):(「愛し」の連体形+助詞「や」「し」)ああ、かわいいなあ。愛すべきである。

・美し/麗し(うるわし):<形容詞>端正で美しい。このほか、「美し/細し(くわし)」(繊細で美しい)、心麗し/心細し(うらぐわし)」(心にしみて美しい)、「清げ(きよげ)」(清らかで美しい)、「清ら(きよら)」(輝くように美しい)、「厳し/美し(いつくし)」(しっとりとして美しい)、「妙なり(たえなり)」(不思議に美しい)などの表現があります。

・匂やか(におやか):<形容動詞>内なる輝きが溢れるように美しいさま。

・徒めく/婀娜めく(あだめく):移り気な振る舞いをする。近世以降は特に女性の色っぽくなまめかしい振る舞いを指すようになりました。色っぽい娘は「婀娜娘(あだむすめ)」と言います。

・戯れ(たわぶれ):ふざけること。遊び心ですること。

・邪気乱(じゃけら):たわいもない戯れ。または派手に目立って面白いこと。「邪気乱者(じゃけらもの)」で、くだらない者のこと。

・俳優(わざおぎ):面白おかしく歌って踊り、神や人の心を楽しませること。また、それをする人。

・時の綺羅(ときのきら):時代の波に乗って栄華を極めること。

・血戯(ちそばえ):戦場などで血を見ていっそう奮い立つこと。