1.最近の注目すべき事例
(1)2023年は「クマ被害」が過去最悪ペース
2023年の「クマ被害」が過去最悪ペースでしたが、10月の伊藤環境大臣の「注意呼びかけ」は認識不足も甚だしいものでした。「害獣駆除への大転換」が喫緊の課題だということが全くわかっていないようです。
伊藤信太郎環境大臣 は、10月に入ってもクマに襲われるなどの被害が相次いでいることから、「クマの生息域へはむやみに入らない」ように呼びかけました。
環境省によると、クマに襲われるなどの被害にあった人は、2023年4月から9月末までに全国で109人(10月も含めると160人以上)となっていて、過去最悪のペースで増えました。
しかし、キノコ採りや登山で山や森に入った場合だけでなく、自宅付近や住宅街で被害に遭うケースも増えています。
やはり元凶となっている害獣を駆除する方向に大転換しないと、「猪・鹿・熊などによる農作物被害に対する補償金」を際限なく出し続けるだけで、税金の無駄遣いです。
政府や環境省は、クマに襲われて死ぬ人が続出でもしない限り、重い腰を上げないのでしょうか?
(2)2021年10月の和歌山・水管橋崩落の原因は、鳥のふんも原因の一つだった
2021年10月、和歌山市の紀の川に架かる六十谷(むそた)水管橋(全長約550メートル)が崩落し、大規模な断水を引き起こした問題がありました。
国も「鳥獣保護管理法」の改正を含めて抜本的に見直しを進めるべきです。
2.生類憐みの令
江戸時代、五代将軍徳川綱吉の治世で発せられた「生類憐みの令」は、「天下の悪法」と言われて人々を散々苦しめた挙句、六代将軍徳川家宣(いえのぶ)によって、廃止(一部を残して順次廃止)されました。
この「生類憐みの令」は、「生類を憐れむこと」を趣旨とした「動物・捨て子・傷病人保護を目的とした諸法令の総称」のことですが、対象となる「動物」は、「犬・猫・鳥・魚類・貝類・昆虫」にまで及びました。
真偽のほどはわかりませんが、「蚊を殺したために、小姓が閉門を命じられた」という噂話もあります。しかし「犬を殺せば死罪」とか中野に「東京ドーム20個分の広さの犬小屋(御用屋敷と呼ばれた)を作った」というのは事実のようで、行き過ぎは明らかだと思います。
最近では、「生類憐みの令は、本当に天下の悪法だったのか?」と疑問を投げかけ、「戦国以来の殺伐とした社会風潮を改め、文治国家へと変革し、現代日本人の倫理観に大きな影響を与えた」として見直し・再評価の動きもあるようですね。
3.動物と人間との「共生」
江戸時代の話はともかくとして、動物と人間との「共生」について、最近私が気になるのは、野生動物(特に、鹿・猪・土鳩・椋鳥など)の人間生活に及ぼしている由々しき悪影響です。
私の住んでいる大阪近郊の高槻市の街中では、猪や鹿は見かけませんが、ちょっと山手に行くと、「この付近、熊出没。注意」という警告ビラが貼ってあるのを見て、ドキッとします。鹿は、大阪近郊のゴルフ場でも、時々見かけますが、そのゴルフ場では、紫陽花(あじさい)の花芽が鹿の「食害」で今年は全滅したそうです。
私は、数年前JRのプラットホームで電車を待っていた時、「ぴちゃっ」という音がして、何か冷たいものが付いたように感じたので、ズボンを見ると、土鳩の糞がべっとり付いていました。
猪による食害に遭う農作物は、水稲・筍・薩摩芋・馬鈴薯・大豆・落花生・栗など広範囲に及んでいます。
鹿は植物質の物なら何でも食べるので、鹿による食害に遭う農作物は、田植え後の稲、麦の新芽や穂、野菜の苗、果樹の樹皮など極めて広範囲です。
街中でも、夕方になると街路樹に大量に群がり、耳を劈くように鳴き交わす椋鳥の騒音と糞害も悩ましいものです。
琵琶湖に浮かぶ有名な竹生島も川鵜(カワウ)の糞害に悩まされているそうです。「神の住む島」として島全体が国の名勝・史跡に指定されていますが、川鵜の恰好の「営巣地」となり、糞害によって景観も台無しになっているようです。また、琵琶湖周辺の針葉樹林が枯死したり、鮎などの湖内の魚が毎年2,800トンも食べられる被害も出ているそうです。
農家の方は、猪や鹿への対策として「電気柵」の設置や「光・音による威嚇」をするなど対策に頭を悩ましています。
私が経験したJR駅構内での土鳩の糞害では、JRが「クリーニング代」を出してくれることもありませんでした。クリーニング代は農作物の被害額に比べたら、微々たるものではありますが・・・
野良猫や土鳩は、相変わらず習慣的に餌をやる人がいる反面、「避妊手術」も施していないようですので、一向に減りません。
1999年(平成11年)の「昆虫輸入自由化」により、日本には大量の「外来昆虫」(年間百万匹とも言われています)がペットとして輸入されるようになりました。
ペットとして飼われていた外来種の兜虫(カブトムシ)や鍬形虫(クワガタムシ)などが(飼い主の飼育放棄や逃げ出したりなどで)野生化した場合、外来種は日本固有種に比べて、繁殖力も強いため、固有種はどんどん駆逐されます。
日本固有種の生態系保護のため、2005年(平成17年)に「特定外来生物法(正式名:特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)」が施行されましたが、それで間に合っているのでしょうか?
2014年(平成26年)の「鳥獣保護管理法」の改正で、ようやく法律上は「野生鳥獣の保護から(個体数の)管理」へ大きく舵を切ったと言われていますが、私の実感としては、あまり変わっていないと思えるのですが・・・
4.有害鳥獣駆除の必要性
「鳥獣保護管理法」は、実態的には「鳥獣過保護法」だったのではないでしょうか?人間の子供の場合でも、「過保護」は弊害が多いものですが、鳥獣の「過保護」の場合は、今や取り返しがつかないレベルまで来ているのではないかと、私は思います。
そろそろ、「国」や「自治体」は、本腰を入れて法律や条例の「実効性のある対策」により、「害獣駆除」の実施を早急に検討すべき時期に来ているのではないでしょうか?
話は変わりますが、大正時代のこと、沖縄にいる毒蛇の波布(ハブ)を退治するために「天敵」と言われる「マングース」を島に放ったことがあります。「毒を以て毒を制す」作戦ですね。
これは、動物学の権威である某東京大学教授の提言を受けて行ったのですが、結果は、マングースは波布(ハブ)をほとんど捕食せず、捕食しやすい山原水鶏(ヤンバルクイナ)などの日本固有種を絶滅の危機に追い込むほど大繁殖し、果樹被害も生み出すなど、大失敗でした。
いくら「動物学の権威」と言っても、マングースの生態(特に波布に対してどういう行動をするのか、本当によく捕食するのか?)をよく知らなかったのではないでしょうか?教授の「動物生態学、就中マングースに関する生態学的知識の有無」を確かめもせず、「動物学の権威」という名声に惑わされて、教授の無責任な提言(単なる思い付き?)を受け入れた行政側も「お粗末」(後の対応策にとても苦労していることを考えると罪深い「大失態」)ですね。
猪や鹿などによる農作物の食害の「損失補償」制度について調べてみると、兵庫県では水稲共済加入農家を対象に獣害による減収の9割まで補償する「野生動物被害補償制度」があるそうです。
また、「農業災害補償法」に基づく「農業災害補償制度」というものがあって、「風水害等の気象上の原因による災害、火災、病虫害、鳥獣害による農作物の減収」を対象に、被害の一定額が補償されるそうです。
5.行政による有効な対策実行が急務
しかし「鳥獣害」は、「自然災害に準ずるもの」と言うよりも「公害のような環境破壊・環境汚染」と言えるのではないでしょうか?税金を使って「損失補償」をすることも大切かも知れませんが、その前に「元凶」を根本から絶つ努力をする必要があります。
「放虎帰山(ほうこきざん)」という言葉があります。「放虎還山(ほうこかんざん)」「養虎遺患(ようこいかん)」も同じような意味ですが、「虎を山に放つことから、自分の身の安全を脅かす者を逃がして、将来に災いの原因を残すことのたとえ」です。
住宅街や農地に出没したクマやイノシシを捕獲して山に帰しても、また住宅街や農地に現れて、住民に危害を加えたり、農地を荒らし回ったりしない保証はありません。
「動物愛護」の精神は大切だと、私も思いますが、そろそろ「我慢の限界」が近づいています。
「自然を征服(conquest)する」というのは「人間の不遜な考え方」だと思いますが、「野生鳥獣に人間が蹂躙(trample)され、その状況を放任している」現状は、極端に言えば「野生鳥獣に人間が征服されている」構図と言えなくもありません。
いつかコントで、「ゴリラが我が物顔に外をうろついており、逆に人間が檻の中に入って小さくなって震え上がっている」というのがあったように記憶しています。
また、実際にあった話では、「あるおばあさんが、野良猫を餌付けして可愛がり過ぎた結果、家の中が夥しい野良猫に占拠されて、居間や台所、寝室も使えなくなり、本人は小さくなって不自由な生活をしている」というのがありました。これなどは、庇(ひさし)を貸して母屋を取られた「自業自得」ですが、日本全体にそのような現象が起きているとすれば、「本末転倒」も甚だしい話で大問題です。
日本人は今まで、行政も民間も「鳥獣保護管理法」の呪縛によって、「自縄自縛(self-locking)」に陥っていたように思います。「人間の叡智」はどこに置き忘れたのでしょうか?
人間と動物が「Win Winの関係」で「共生(symbiosis)」するための「増えすぎた個体の絶対数を減少させる実効性のある対策」を、政府・自治体が実行に移す「タイムリミット」が来ているように思うのですが・・・