数字を含むことわざ・慣用句と言えば、「三人寄れば文殊の知恵」とか「三つ子の魂百まで」などたくさんあります。
前回は「人数・年齢・回数・年月や時間・距離・寸法」を表す数字を含むことわざ・慣用句を紹介しました。そこで今回は、その他の「一」から「万」までの数字を含むことわざ・慣用句をまとめてご紹介したいと思います。
なお面白い数字の単位についての話は、前に「数字の単位は摩訶不思議。数字の不思議なマジック・数字の大字も紹介!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧下さい。
18.「百」を含むことわざ・慣用句
(1)明日の百より今日の五十(あすのひゃくよりきょうのごじゅう):あてにならないものに期待するより、たとえ少なくても確実なものの方がよいということ。
<類義語>
・末の百両より今の五十両
・末の百より今の五十
・聞いた百文より見た一文
(2)五十歩百歩(ごじっぽひゃっぽ):少しの違いはあっても、本質的には同じであるということ。似たり寄ったり。
戦闘の際に50歩逃げた者が100歩逃げた者を臆病だと笑ったが、逃げたことには変わりはないという「孟子」梁恵王上の寓話から。
(3)可愛さ余って憎さ百倍(かわいさあまってにくさひゃくばい):可愛いと思う心が強いだけに、いったん憎いと思いはじめると、その憎しみは非常に強くなるものだということ。
(4)酒は百薬の長(さけはひゃくやくのちょう):適量の酒はどんな良薬よりも効果があると。酒は緊張をほぐしたり気分を良くしたりするので、適度に飲む酒は薬にも勝るということ。
漢を簒奪した王莽が酒を称えて言った言葉に由来し、『漢書・食貨志下』には「夫れ塩は食肴の将、酒は百薬の長、嘉会の好、鉄は田農の本」とあります。
酒を良いとするには「適量ならば」という条件をつけた上で解釈するべきですが、しばしば酒飲みが酒を賛美して自己弁護にも使われています。
『徒然草』では「百薬の長とはいへど、よろづの病はさけよりこそおれ」と、否定的な表現で用いられています。
(5)百害あって一利なし(ひゃくがいあっていちりなし):弊害をたくさん生むばかりで、利益になるような良いことは何一つ無いこと。
(6)百聞は一見に如かず(ひゃくぶんはいっけんにしかず):人から何度も聞くより、一度実際に自分の目で見るほうが確かであり、よくわかること。「漢書」趙充国伝から。
(7)彼を知り己を知れば百戦殆うからず(かれをしりおのれをしればひゃくせんあやうからず):相手の情勢や、味方の実力などをしっかり把握することで、たとえ百回戦っても負けることはないというたとえ。
相手と自分の長所と短所を、はっきりと見極めることで、どんな場合にも失敗しないということ。
「孫子(そんし)」謀攻にある、兵法のひとつ。
この句の続きで、「彼を知らずして己を知れば、一勝一負(いっしょういっぷ)す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆(あやう)し」
(敵の事情を知らずに味方のことだけを知っていれば、勝ったり負けたりして勝負がつかない。また、敵のことも味方の事も知らなければ、必ず負ける。)と、説いています。
(8)酒は百毒の長(さけはひゃくどくのちょう):あらゆる体に毒となるものの中で、酒が一番の毒であるということ。
「酒は百薬の長」から作られた反対の意味のことわざ。
(9)女房百日、馬二十日(にょうぼうひゃくにち、うまはつか):どんなものも、はじめのうちは珍しがられるが、すぐに飽きられてしまうというたとえ。
妻は百日、馬は二十日もすれば飽きてしまうとの意から。
(10)百も承知、二百も合点(ひゃくもしょうち、にひゃくもがてん):言われるまでもなく、十分に理解しているということ。
「合点」は、承知のこと。
単に「百も承知」とも言いますが、「二百も合点」と続けて意味を強めた言葉。
(11)男は裸百貫(おとこははだかひゃっかん):男は無一文でも、働いて財産や地位を築くことができるので、裸でも百貫の値打ちがあるということ。
(12)お百度を踏む(おひゃくどをふむ):願い事が叶うように神前や仏前まで百回往復して祈願すること。また、頼みごとを聞き入れてもらうために、相手のところを何度も繰り返し訪ねること。
(13)風邪は百病のもと(かぜはひゃくびょうのもと):風邪はあらゆる病気のもとなので、たかが風邪と油断せず用心が必要であるということ。
「風邪は万病のもと」「風邪は百病の長(おさ)」とも言います。
(14)堪忍の忍の字が百貫する(かんにんのにんのじがひゃっかんする):怒りを耐え忍ぶ事は、大きな価値があるということ。
じっと耐え忍ぶ「忍」の字には銭百貫の値打ちがあるとの意から。
(15)聞いた百文より見た一文(きいたひゃくもんよりみたいちもん):人から百文の値打ちと聞かされるよりも、自分の目で見たほうが値打ちがあるということ。
(16)愚者の百行より知者の居眠り(ぐしゃのひゃっこうよりちしゃのいねむり):愚か者の数々の行いは、優れた人の居眠りにも及ばないということ。
転じて、つまらないものが数多くあるより、よいものが少しあるほうがいいというたとえ。
(17)孝は百行の本(こうはひゃっこうのもと):孝行は、すべての善行の基本となるものであるということ。「百行」は、すべての善いおこないの意。
(18)思案の案の字が百貫する(しあんのあんのじがひゃっかんする):何事もよく考えてから行うことが大切であるというたとえ。
「百貫」は銭一貫の百倍。非常に価値があるもののたとえ。
(19)立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花(たてばしゃくやく、すわればぼたん、あるくすがたはゆりのはな):美人の容姿や立ち居振る舞いを形容する言葉。
(20)道理百遍、義理一遍(どうりひゃっぺん、ぎりいっぺん):ものの道理を百回聞かせるよりも、たった一度、義理を尽くした行いを見せるほうが、人の心を動かすことができるということ。
(21)女房は山の神百国の位(にょうぼうはやまのかみひゃっこくのくらい):女房はきわめて大切なものであるというたとえ。
(22)百芸は一芸の精しきに如かず(ひゃくげいはいちげいのくわしきにしかず):何でも出来る人より、一つの事に精通している人のほうが役に立つということ。
(23)百歳の後(ひゃくさいののち):人の死んだ後。人の死後。
百歳を越えることは稀との意から。
(24)百歳の童(ひゃくさいのわらんべ):年を取ってもなお、子どもにも劣る愚かな老人。また、年老いて子ども返りした者。
(25)百尺竿頭一歩を進む(ひゃくしゃくかんとういっぽをすすむ):目標を達成しても、さらに向上しようと努力すること。また、十分に説明をした上に、さらに一歩進めて説明すること。
百尺の竿の先端に達しても、さらに一歩進もうとするとの意から。
「百尺」は「ひゃくせき」とも読みます。
(26)百丈の木に登って一丈の枝より落つる(ひゃくじょうのきにのぼっていちじょうのえだよりおつる):気が緩んだ時に、危険が潜んでいるから気をつけよという戒めの言葉。
高い木に登った時は用心しているので落ちることはないが、低い所まで降りると油断して落ちるということから。
(27)百姓百層倍(ひゃくしょうひゃくそうばい):百姓の仕事では、少量の種をまけば百倍もの収穫をもたらすということ。
少ない元手で利益が多いことを「百」の語呂合わせでいった言葉
(28)百川、海に朝す(ひゃくせん、うみにちょうす):利益のあるところには自然に多くの人が集まることのたとえ。
「百川」はあらゆる川、「朝す」は集まるという意。
(29)百戦百勝は善の善なる者に非ず(ひゃくせんひゃくしょうはぜんのぜんなるものにあらず):百回戦って百勝しても、何らかの損害がでるので得策とはいえないこと。
戦わずに勝つことが出来れば、それが一番いい方法だということ。
(30)百日の労、一日の楽(ひゃくにちのろう、いちにちのらく):働くばかりではなく、たまには休むほうがよいということ。
百日も働いたら、一日くらいゆっくり休養したほうがよいとの意から。
(31)百年の不作(ひゃくねんのふさく):一生悔やまれる失敗。取り返しがつかないほどの失敗。特に結婚での失敗についていう言葉。
(32)百年論定まる(ひゃくねんろんさだまる):物の価値や人の功績などは長い年月が過ぎてから定まるということ。
(33)百里来た道は百里帰る(ひゃくりきたみちはひゃくりかえる):自分のしたことには、必ずそれなりの報いがあるということ。
百里歩いてきた道は、百里歩かなければもとの場所には戻れないとの意から。
(34)減らぬものなら金百両、死なぬものなら子は一人(へらぬものならかねひゃくりょう、しなぬものならこはひとり):必要な物が必要な分だけあれば十分だということ。
もしも使っても減らないのであれば金は百両、死なないのであれば子どもは一人いればよいとの意から。
「死なぬものなら子は一人、減らぬものなら金百両」とも言います。