前に「鑑定は本当に信用できるのか?」という記事を書き、「贋作事件」についても触れましたが、今回は「世紀の大偽造画家」と呼ばれるジョン・マイアットと「フェルメールの贋作」で有名なハン・ファン・メーヘレンについて考えて見たいと思います。
1.偽造画家(贋作画家)とは
ルーブル美術館のような有名な美術館では、「模写」をする画家や画学生の姿をよく見かけます。
以前私は、京都市美術館で、京都市立芸術大学の学生による「古美術の模写」を展示しているのを見ましたが、偽物と思って見るからかもしれませんが、絵に「勢い」が感じられず、「小さく纏まっている」ように思いました。
このような「偽物」も、口の達者な画商の手にかかると、大変価値のある古美術品に化けるのでしょう。
「贋作」は、売れない画家や美術学校・美大の学生が、有名画家の絵画を模写したり、模倣して描いた絵画を、詐欺師の画商が買い取って「本物」として売りさばくケースが多いと思われます。
しかし、ジョン・マイアットやハン・ファン・メーヘレンなどは、卓越した絵の才能があるプロの画家で、専門家も騙されるほど精巧な贋作を描いたことで知られています。
日本の「歌マネ番組」でも、自身も高度な歌唱力を持つ「物まね歌手」を見かけますが、それの絵画版ということでしょうか?
2.ジョン・マイアットとは
ジョン・マイアット(1945年~ )は、イギリスの画家で「偽造画家(贋作画家)」として非常に有名な人です。
彼は、もともとは「偽物の絵を本物の絵として売る」詐欺師ジョン・ドルーの依頼で、シャガールやマティスなどの贋作約200点を描き、贋作画家として3億円を稼いだそうです。
しかし、関係者の密告により、彼は詐欺師のドルーとともに逮捕され、懲役1年の刑に処せられました。
現在彼は、「贋作だが自分が描いた絵」「本物の偽物」として販売しており、1枚数百万円で売れる人気画家となっています。
彼が有名画家の有名絵画を模倣するために磨いてきた巧妙で高度な技術は、今はハリウッド映画で使用する絵画のレプリカを製作する際に応用・活用されているそうです。
3.ハン・ファン・メーヘレンとは
ハン・ファン・メーヘレン(1889年~1947年)は、オランダの画家で画商です。20世紀で最も独創的で巧妙な贋作者の一人で、フェルメールの贋作を多数制作したことで有名です。
彼は美大への進学を望んでいましたが、父親の反対で建築学科に進みます。しかし、卒業制作として絵画を提出してロッテルダム賞を受賞し、画家としてデビューします。
しかし、画家としては成功せず、ポストカードやポスターの挿絵を描いて生活費を稼ぎます。「自分を認めようとしないオランダの美術界に復讐する」という動機から、次第に贋作ビジネスに手を染めるようになります。
当時フェルメールの研究はまだ進んでおらず、ごく少数の専門家を騙せば「真作」と認められたことから、「贋作」が作りやすい状況にありました。
1945年に彼は、「ナチスドイツの高官にフェルメール作とされていた絵画を売った罪」で逮捕・起訴されます。「ナチス協力者および」オランダ文化財の略奪者」として重罪に処せられそうになった時、彼はその絵画は自分が描いた「贋作」であると告白し、法廷で「フェルメール風の絵」を実際に描いて見せます。
その結果、彼は「売国奴」から一転して「ナチスドイツを騙した英雄」と評されるようになります。
「ナチスドイツへの絵画販売」は無罪となりましたが、「フェルメールの署名偽造の罪」で詐欺罪に問われました。
蛇足ですが、「天才贋作画家」を扱った映画に、2014年公開の「ザ・フォージャー天才贋作画家最後のミッション」があります。