サトウハチローと言えば、終戦直後に流行した「りんごの唄」や、「ちいさい秋みつけた」がまず思い浮かびますが、「おかあさん」の詩でも大変有名な詩人です。
今回はサトウハチローが実際はどのような人だったのかをご紹介したいと思います。
1.サトウハチローとは
サトウハチロー(本名:佐藤八郎)(1903年~1973年)は、東京生まれの詩人・童謡作詞家・小説家で、小説家の佐藤紅緑の長男です。母はるは宮城県仙台市出身で、河北新報社の創業者(社主)一力健次郎の義妹です。異母妹に小説家の佐藤愛子がいます。
彼が中学入学後に、父が舞台女優の三笠万里子と同棲するようになり、はると離婚します。
父親への反発から、中学を落第し、退校、勘当、留置場入りを重ねたそうです。旧制早稲田中学をはじめ8つの中学を転々とした後、父から勘当されて小笠原諸島の父島にあった感化院(現在の少年院)へ行かされます。
そこで、父の弟子であった福士幸次郎と出会い、生活を共にしたことで影響を受けます。1919年、福士の紹介で西條八十に弟子入りし、童謡を作り始めます。数々の雑誌や読売新聞などに掲載されて知られるようになります。天性のヒューマニズムと豊かな抒情性によって多くの愛唱歌を生みました。
その一方で、今東光らが参加した同人誌「文党」や、草野心平・宮沢賢治らが参加した同人誌「銅鑼」に参加しています。
1930年からは、歌謡曲の作詞も始め、終戦後は童謡の復興に努めました。
並木路子が歌う「リンゴの唄」は私が子供の頃、よくラジオから流れていました。明るく勇気づけられるような歌で、「戦後のヒット曲第1号」となりました。
ボニージャックスが歌った「ちいさい秋みつけた」も、よく聞きました。この詩は、自宅の庭のハゼノキの紅葉する情景を見たのがきっかけで生まれたそうです。
「うれしいひなまつり」は女の子の楽しそうな様子が目に浮かぶ詩です。この詩は、彼が離婚して3人の子供を引き取った時、子供たちのために新しい雛人形を買ったことがきっかけで生まれたそうです。
この曲は短調で愁いも感じさせますが、日本情緒がよく表現されていると言われます。官女から嫁いだ姉を連想するくだりがありますが、これは嫁ぎ先が決まった矢先に18歳で結核のため亡くなった姉へのレクイエム(鎮魂歌)だという解釈もあります。
なお、歌詞の中に「雛人形」についての誤った描写があるとの指摘もあります。「男雛と女雛の一対」を「内裏雛」と呼ぶのが正しく、「お内裏様とお雛様」というのは誤りです。また右大臣を「赤い顔」としているのも誤りで、実際は左大臣です。
母親への想いなどをうたった抒情的な作風で知られ、2万にもおよぶ詩のうち、3千が母に関する詩です。しかし、作風に反して私生活は放蕩・奇行が多く、小学生時代から不良だったようです。実母に対しても愛情らしいものを示したことがなく、作品に表現されている「母親への想い」は、異母妹の佐藤愛子によれは「フィクションだった」そうです。
あるいは自分が素行不良で両親に迷惑を掛けたこと、不倫をした父親はともかく母親に対しては後悔や申し訳ない気持ちがいっぱいになって、それを詩に昇華したのかもしれません。
2.佐藤紅緑とは
佐藤紅緑(本名:佐藤洽六)(1874年~1949年)は、青森県弘前市出身の小説家・劇作家・俳人です。
旧制弘前中学を中退後、陸羯南の世話で「日本新聞社」記者となり、以後いくつかの新聞社に勤めています。また正岡子規に俳句を学んでいます。自然主義作家として認められましたが、のち「家庭小説」に転じ、「あゝ玉杯に花うけて」「英雄行進曲」などの少年少女小説を書いています。
「あゝ玉杯に花うけて」は、子供向け雑誌の「少年倶楽部」に連載された小説で、理想に向かって努力する少年たちの友情を描いて人気を博しました。
1915年、彼は劇団「新日本劇」の顧問となり、女優三笠万里子を見初め、妻はるとの別居を経て、1922年に万里子と結婚しています。彼女との子供が佐藤愛子です。なお、他に愛人との子で脚本家・劇作家の大垣肇がいます。
晩年の彼は、少年たちに理想を説く小説を書き続けましたが、皮肉にも別居していた愛人の子の肇以外の、長男ハチローをはじめとする4人の息子たちは、全て道楽者の不良青少年となりました。
ハチローは詩人として成功しましたが、他の3人は乱脈な生活を続けて破綻し、破滅的な死を迎えました。彼は生涯、息子たちの借金の尻拭いをし続けたそうです。
3.佐藤愛子とは
佐藤愛子(1923年~ )は、大阪出身の小説家です。体験的なテーマを扱った家庭小説を、骨太でおおらかなタッチで執筆しています。「戦いすんで日が暮れて」で直木賞を受賞しています。また家庭を舞台にユーモラスな筆致で男性批判を行う「猛妻物」に本領を発揮しています。
異母兄のサトウハチローの振る舞い、実像と虚像については、長編小説「血脈」に詳しく書いています。他に「ソクラテスの妻」、エッセー集「我が老後」、父の伝記「花は紅ー小説佐藤紅緑」などがあります。
彼女は60代の頃、北海道の浦河町に建てた別荘で、「ラップ現象」や「ポルターガイスト現象」と呼ばれる心霊現象のようなものに悩まされ、さまざまな霊能者に相談し、約20年かかってほぼ解決したそうです。
ちなみに「ラップ現象」とは、ラップ音(指を鳴らすような音、関節を鳴らす音、棒切れを折るような音、ドアをノックする音、木造家屋がきしむ音など)がする現象」です。なお、新築の木造住宅でよく起こる「ラップ音」は、骨格となる柱に使う材木が年月の経過によって乾燥したり割れたりして、「ミシッ」とか「パーン」という音が響くものです。
そう言えば、私が子供の頃住んでいた明治20年代に建てられた京町家では、階段がよく「ミシッ」という音を立てました。ただし、これは単なる老朽化のせいかもしれませんが・・・
もう一つの「ポルターガイスト現象」とは、「特定の場所で、誰一人として手を触れていないのに、物体の移動、物をたたく音の発生、発光、発火などが繰り返し起こる現象」です。