皆さんは「ダモクレスの剣」の話をご存知でしょうか?
なかなか興味深い逸話ですので、わかりやすくご紹介したいと思います。
1.ダモクレスの剣
(1)「ダモクレスの剣」とは
「栄華の中にも危険が迫っていること」「常に身に迫る一触即発の危険な状態のこと」です。
(2)「ダモクレスの剣」の由来
紀元前4世紀初頭のこと、古代ギリシアの植民都市シラクサの僭主ディオニシオス2世(B.C.397年~B.C.343年)の廷臣ダモクレス(Damocles)が王者の幸福をほめそやしたので、王がある宴席でダモクレスを王座につかせ、その頭上に髪の毛1本で抜き身の剣を吊るし、王者には常に危険が付きまとっていることを悟らせたという故事に由来します。
これは「ギリシャ神話」にある説話です。
2.アメリカのケネディ大統領が演説で引用したことで有名に
統治者・支配者の幸福の危うさを悟らせる「ダモクレスの剣」という故事は、古代から現代に至るまで長きにわたって、古代においては古代ギリシャ・ローマ圏で、中世以降においてはヨーロッパ文化圏を中心とした世界で好んで用いられてきました。
古代ローマの政治家・哲学者のキケロ(B.C.106年~B.C.43年)の「トゥスクルム談義」は古代ギリシャ・ローマ時代の代表例で、次に述べるケネディ大統領の演説は現代の代表例です。
(1)ケネディ大統領の演説
1961年9月25日の国連総会での演説の中で、アメリカのケネディ大統領がこの言葉を引用して「偶発核戦争の危険性」を訴えたことから、特に有名になりました。
地球のすべての住人は、いずれこの星が居住に適さなくなってしまう可能性に思いを馳せるべきであろう。
老若男女あらゆる人が、核というダモクレスの剣の下で暮らしている。それは細い糸で吊るされ、いつ何時にも事故か誤算か狂気により切れる可能性がある。
米ソの冷戦で核の脅威が現実味を帯びた時期に、軍縮と核実験禁止を唱えたものです。
(2)キューバ危機
その後、1962年10月から11月にかけて、「キューバ危機」が発生しました。
これは、ソ連が「アメリカの喉元」のような位置にあるキューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚し、アメリカがカリブ海でキューバの海上封鎖を実施し、米ソ間の緊張が高まって核戦争寸前まで達した一連の出来事です。
1959年にキューバ革命で成立したカストロ政権は、共産主義陣営のソ連に接近し、社会主義国としてアメリカと国交断絶していました。
アメリカのケネディ大統領とソ連のフルシチョフ書記長が何度も書簡による交渉を重ねた結果、ソ連がトルコにあるアメリカ軍基地の撤去を条件に核ミサイルを撤去することに同意し、アメリカも海上封鎖を解除することで、核戦争による人類滅亡の危機は回避されました。
3.「ダモクレスの剣」を題材にした絵画
肖像画や歴史画を得意としたイギリスの画家リチャード・ウェストール(1765年~1836年)が1812年に描いた「ダモクレスの剣」(冒頭にある画像)が有名です。
贅を尽くした饗宴の中、誰もが羨むと思われる玉座に腰掛けるよう当世の僭主(中央)から勧められたダモクレス(中央左寄り)は、細い糸で吊るされた剣が玉座の真上にあることに気付き、僭主の恐れを理解したということを表現したものです。