私が「花押」を初めて見たのは、確か「茂」の字をくずしたような吉田茂首相の花押だったと記憶しています。
1.「花押」とは
「花押」とは、「署名の代わりに使用される記号や符号」です。元々は文書に自分の名前を普通に自署していましたが、署名者本人と他者とを明確に区別するために、次第に自署を図案化・文様化した特殊な形状を持つ記号・符号としたものが花押です。
一気に書く一筆書きのようで、芸能人のサインとも似ています。
現代の日本でも、各大臣が内閣の文書などで、自署したり印章を押す代わりに花押を記入しています。
2.「花押」の歴史
花押は東アジアの漢字文化圏に見られますが、中国の斉(5世紀ごろ)の時代に発生したと言われています。
日本では平安時代中期(10世紀ごろ)から使用され始め、江戸時代までは盛んに用いられました。
中国では花押は明・清の時代までは使用されていましたが、次第に使われなくなったそうです。
1871年に日本と清との間で締結された「日清修好条規」にも、日本側代表の大蔵卿伊達宗城と清側代表の直隷総督李鴻章の花押が記されています。
3.歴史上の有名な人物の「花押」
平安時代の平清盛・源頼朝・源義経、戦国武将の織田信長・豊臣秀吉・徳川家康、江戸時代の徳川吉宗・大岡忠相・浅野内匠頭・吉良上野介、幕末の吉田松陰・高杉晋作・坂本龍馬・近藤勇、明治時代の西郷隆盛・大久保利通・伊藤博文・大隈重信、昭和時代の吉田茂・池田勇人・佐藤栄作・田中角栄など錚々たる面々の花押が残されています。
彼らの花押を眺めながら、彼らの生きた時代に思いを馳せるのも一興です。