「飛んで火に入(い)る夏の虫」ということわざがあります。私が子供の頃は、近くに田んぼがあったせいか街灯に「ガ(蛾)」、「ヨコバイ(横這)」や「ウンカ(浮塵子)」、「ハアリ(羽蟻)」などが群がっているのをよく見かけました。
1.「飛んで火に入る夏の虫」とは
「みずから進んで、危険や災難などのわざわいの中に飛び込んでいくことのたとえ」です。
「愚人(ぐにん)は夏のむし飛んで火に入る」「蛾の火に赴くがごとし」「飛蟻火に赴く」も同様の意味です。
ここで言う「火」は「ファイアー」もありますが、「ライト(灯火、光)」も含まれます。
英語では次のように言います。
The summer bug in the flying fire.
It’s like a moth flying into the flame.
Fools rush in where angels fear to tread.
2.虫が街灯や誘蛾灯のような光に集まる理由
昆虫は「光」に向かって飛ぶ習性(正の走光性)があるため、昔から人間はこの習性を利用して「誘蛾灯」などでおびき寄せて害虫を駆除して来ました。
昆虫は、太陽と月という二つの光源に対して、両方の眼に同じ角度から光線を受けるようにし、それによって一直線上を飛ぶ仕組みになっています。
ところが、人間の用いる街灯や誘蛾灯のような人工の光源は近すぎて、いつもその方向を光に向けて変えながら飛ぶことを強制されます。
一方の眼に違った強さの光が入ると、翅は一方の翅と違う速度で羽ばたくように正確に反応します。このため虫はくるりくるりと渦巻き状に飛ぶことになります。そして不本意ながらその光の方へどんどん近づいて行ってしまうのです。
3.「走光性」と「コンパス理論」
(1)「走光性」
「走光性」は「走性」の一つで、「生物が光刺激に反応して移動すること」です。走光性のうち、光のある方向に近づくような行動は「正の走光性」、光から離れるような行動は「負の走光性」と呼ばれます。「負の走光性」を持つものは「ミミズ」などです。
人間は暗闇を恐れるため、比喩的に「人間は正の走光性を持っている」と言われることもあるようです。
(2)「コンパス理論」
夜間は多くの虫たちは、自分が向かう方向を決めるために月明かりを利用しています。月に対して常に一定の角度を保って飛ぶようにしています。
月は地球から約38万4400kmも遠く離れていますので、大きく移動してもその角度はほとんど変わらないので真っ直ぐに飛び続けられるのです。
しかし現代では、月の光の50倍以上の明るさを持つ街灯の光があります。虫たちは街灯などの光を月の光と勘違いして、街灯と同じ角度を保って飛ぼうとします。街灯はすぐ近くにありますので、どんどん光源に近づいて行ってしまう結果になります。
これが「コンパス理論」です。
4.速水御舟の「炎舞」
日本画家の速水御舟(1894年~1935年)の「炎舞」という絵は、「飛んで火に入る夏の虫」を描いた珍しい作品です。
蛾が炎に魅せられたように舞う様子を描いた緻密な写実と幻想が融合した作品です。