1.「ファーストペンギン」とは
(1)「ファーストペンギン」の意味
「ファーストペンギン」とは、「集団で行動するペンギンの群れの中から、天敵がいるかもしれない海へ、魚を求めて最初に飛びこむ1羽のペンギン」のことです。転じて、その“勇敢なペンギン”のように、「リスクを恐れず初めてのことに挑戦するベンチャー精神の持ち主」のことを、アメリカなどでは敬意を込めて「ファーストペンギン」と呼びます。
日本でも、NHKの朝の連続テレビ小説「あさが来た」で、そのエピソードが紹介され、広く一般に知られるようになりました。
九州の炭鉱に顔を出した洋行帰りの五代友厚が(ディーンフジオカ)が、主人公の「あさ(広岡浅子がモデル)」(波瑠)のことを「ファースト・ペンギンだ」と評したのです。
(2)リーダー不在の集団を導く“最初の1羽”。自分を信じリスクをとってチャンスを掴む
ペンギンは、多くの個体が隊列を組んで氷上を移動したり、エサの魚を囲い込んで捕食したり、常に群れで固まり集団行動をとることで知られますが、実はそのペンギンの群れには、特定のリーダーがいません。例えば、群れに何らかの危険が迫った場合は、いち早く察知した1羽の後に続くことで、周りもいっしょに難を逃れます。強いボスやリーダーではなく、“最初の1羽”に従うのが彼らの集団行動の特徴なのです。
これは日本人の国民性である「集団行動」「同調性」とよく似ていますね。
この習性は、ふだん陸上で過ごすペンギンたちが、エサの魚を採るために海へ入るときにも発揮されます。集団性が強いので、群れの中の誰かが海に入るまでは、みんな氷上にとどまって動きませんが、誰か1羽でも先陣を切って飛び込めば、後に続けとばかりに次々と海に入っていくのです。そこにはシャチやトド、オットセイなど、恐ろしい天敵が待ち受けているかもしれません。生命の危険を顧みず、真っ先に飛び込んだペンギンは、身をもってその海が安全であると仲間に示す一方、そうすることで誰よりも確実に、お腹いっぱいのエサにありつくチャンスを得るわけです。
ハイリスク・ハイリターンは、人間社会の生存競争にも通じる理でしょう。ビジネスの世界では、かつて誰も足を踏み入れたことのない領域に挑むベンチャー企業の創業者や、イノベーションを引き起こすプロフェッショナルのことを、この勇敢な“最初の1羽”になぞらえて、「ファーストペンギン」と呼びます。米国の学生にキャリア観を尋ねると、最上位に「起業家」が挙がるのは、幼い頃から「人と同じでなく、ファーストペンギンを目指しなさい」という教育が徹底されているからです。
インターネットの技術が世の中に現れたばかりの頃、それが近い将来、社会を大きく変え、人々の生活になくてはならないものになると想像した人はどれくらいいたでしょうか?このとき、自分を信じ、リスクをとって海に飛び込んだファーストペンギンたちが、いまや時価総額トップレベルの世界的IT企業をつくり、業界全体のイニシアティブさえ握っているのです。
「ファーストペンギン」という言葉は、NHKの朝の連続テレビ小説「あさが来た」にも登場し、話題になりました。ドラマのヒロイン「白岡あさ」のモデルとなった広岡浅子は、明治時代を代表する女性実業家です。当時新しい産業として注目されていた炭鉱業にいち早く進出したほか、銀行や生命保険会社、日本で初の女子大学の設立に尽力するなど、女性が社会の表舞台へ出ること自体が稀な時代に、次々と新しい冒険的事業へ乗り出していきました。まさに、日本の誇るファーストペンギンの一人でしょう。
(3)パイオニアとの違い
「ファーストペンギン」に類似する言葉に、「パイオニア」という言葉があります。「パイオニア」は、先駆けて物事を始める開拓者を意味しており、最初に物事を始めた人を指します。
それに対して、「ファーストペンギン」とは、新分野へのチャレンジとなり最初ではない点に相違があります。
2.「ファーストペンギン」のメリット・デメリット
(1)メリット
①新規参入による注目度の向上
業界に新規参入をした時の注目度は、ファーストペンギンの特権ともいうべきメリットです。
業界に新しい風を吹かす、類似していない新規サービスや商品の展開をする場合には、業界の注目度はビジネス成功の秘訣でもあります。注目度を浴びる、話題にのぼることで商品やサービスへの注目度が集まり宣伝効果を増すことになります。
この注目による宣伝効果ほど効果の高い宣伝はないため、売り上げの向上などのメリットが期待できるでしょう。一般的に、市場に新サービスを展開した際には、商品やサービスへの注目を集めつための広告を高額に支払い実施しますが、ファーストペンギンの場合には、低コストでの広告でも十分な注目を得ることも可能です。
このように、ファーストペンギンとして新規参入を行った際の注目度のメリットは大きなものとなります。
②市場で継続的な優位性を持つことができる
ファーストペンギンとして、市場でいち早く商品やサービスをローンチし(立ち上げ)、ポジショニング(市場での地位)を得ることができれば、継続的な優位性を確保することができます。
特に市場での知名度を獲得し、その市場や分野において指名される位置づけを得ることが重要です。ただ最初に参入するのではなく、その市場おいてどのようなポジショニングを得るのか、勝ち筋を描くのかも押さえておきましょう。
③先行者利益の獲得
先行者利益とは、新しい市場に最初に参入した人や自分自身で新しい市場を切り拓いた人が得る利益のことです。
一般に先行者利益とされるものには、「価格競争を回避できる」「顧客をいち早く獲得して参入障壁を築ける」「市場の代名詞的な存在になれる」などがあり、ファーストペンギンならではのメリットが生まれます。
④収益構造の早期獲得
ファーストペンギンとして市場に参入した場合には、当然ながら同様のサービスや商品を展開している企業はありません。つまり、価格競争を行うライバルが存在しません。
このことから、収益構造を早期に獲得し確立することも可能です。同様のサービスが展開した場合にも、価格の基準はファーストペンギンが決定権を持つことになります。ただし、同様のサービスが複数展開した場合には、時には価格競争となる場合もある点には注意が必要です。
(2)デメリット
①過去の参考事例がないリスク
ファーストペンギンにとって、参考となる過去の事例がないことが最大のデメリットです。
通常は、参考となる事例を検討し、リスク対策を行いますが、そうした対策をあらかじめ講じることができません。そのため、あくまでも想定しているリスクへのみ対策を講じることとなり、場合によっては大きなダメージを受ける可能性もあります。
②経営者手腕への負担
ファーストペンギンにおいては、参考となる商品やサービスがないことから、戦略や戦術としてどのような勝ち筋を描くかは経営者自身の手腕に掛かってきます。
特に事例やケースが存在しない分野では、経営者自らが常に判断していく必要があるため、その負担が大きくなるでしょう。
③市場に受け入れられないリスク
そもそも論として、市場に受け入れられないリスクもあります。
ファーストペンギンとしてして優位性を感じていても市場として注目を浴びない、実は類似商品があったなどが起きてしまうことで、ファーストペンギンによる市場優位性は低くなってしまうでしょう。
こうなってしまうと、ファーストペンギンとしではなく、通常の市場参入となるため、得られる優位性が低くなってしまいます。
3.現代の「ファーストペンギン」の代表例
(1)スティーブ・ジョブズ
スティーブ・ジョブズは、アメリカの実業家で、Appleの共同設立者です。
1977年に世界で初めて個人向けコンピュータの大量生産・大量販売に乗り出しただけではなく、「Mac」「iPhone」「iPod」「iPad」といった新しい製品を次々と発表し、Appleを世界を代表する企業にまで育て上げました。
(2)三木谷浩史
三木谷浩史は、楽天グループ株式会社の創業者であり、現在は代表取締役会長兼社長を務めている人物です。
日本で一番最初に創設された店舗主体のサイトが楽天市場です。サイトを設立した際にはインターネットでものを買うという文化が浸透していなかった時代に「インターネットは世界の新しいインフラになる」ことを早期に予測し店舗主体のECサイト運営にファーストペンギンとして飛び込み成功しています。
(3)マーク・ザッカーバーグ
マーク・ザッカーバーグは、世界最大規模のネットワーキングソーシャルサービス「Facebook」(現社名:「Meta(メタ)」)の共同創業者兼会長兼CEOとして活躍しています。
売上高がほぼなかった「インスタグラム」を10億ドルという巨大な金額で買収したことは有名です。自分の先見性や感性を大事にして時代の先を行くビジネスを展開しています。
(4)孫正義
孫正義が創業したソフトバンクは、携帯電話などの無線通信サービスを提供する日本の企業です。
ADSL事業の推進において2001年から4年間、成功するかわからない中で試行錯誤を繰り返し、赤字から黒字への転換に成功しています。株式公開会社は、5期連続で赤字決算を報告すると上場廃止となるという規定があります。ソフトバンクは規定を承知の上で事業を推し進めた結果、成功に導いています。