熟語の読み方・どちらが正しいか(その2)御用達・発足・博士・幕間・大地震

フォローする



御用達

皆さんは熟語の読み方で、二つの読み方が行われていて、どちらが正しいのか、あるいはどちらも正しいのか迷ったことはありませんか?

前に「熟語の読み方・どちらが正しいか(その1)早急・施行・依存・世論・面目」という記事を書きましたが、まだまだありますので、今回も引き続きいくつか具体例をあげて解説したいと思います。

1.御用達

「宮内庁御用達」とか「皇室御用達」などと使われますね。

「ごようたし」「ごようたつ」「ごようだち」の三つの読み方があります。ただし「ごようだち」はあまり使われていません。

もともとは「ごようたつ」と読まれていましたが、後には「ご用足し」の連想からか、俗に「ごようたし」とも言うようになりました。

つまり「ごようたし」「ごようたつ」「ごようだち」のいずれも正しい読み方です。

「ごようたしが本来の正しい読み方で、ほかの読み方は間違っている」と思っておられた方も多いのではないでしょうか?

贈答品選びの話題で「○○御用達」という言葉が出る機会の多そうな時節、他人様(ひとさま)の読み間違いを指摘したつもりが、自分の方が誤解していた…などという恥をかかぬようにお気をつけください。

さて「御用達」の正しい意味も、ご存知でしょうか?

現在では「セレブ御用達」というような使い方をされ、「バリューのある方のお気に入り」的な意味合いが定着していますが、本来の意味は「宮中や官庁に物品を納入すること。また、それを行う商人(御用商人)」のことです。

「セレブ御用達」のような表現は、親しいお友達と口語的に使う分には問題ありませんが、オフィシャルな場でそのような使い方は避けたほうが無難です。

「嘘も百回つけば真実になる」というプロパガンダについての名言がありますが、言葉も誤った読み方や使い方が、多くの人に広まり、やがて本来の正しい読み方や使い方が駆逐・淘汰され、正統な地位を奪われるという現象が起きます。いわば「偽物が本物に取って代わる」わけで、「日本語の変遷」と言われるものです。

言葉は生き物なので、長い年月の間に、多くの人々に使われるうちに変容させられ、変貌を遂げていく宿命にあります。

2.発足

「ほっそく」と「はっそく」の二つの読み方が行われています。

最もオーソドックスな読み方は「ほっそく」です。「発」を「ホツ」と読むのは、現在では一般的になっている「漢音」の読みより前に日本に定着していたとされる「呉音(ごおん)」としての読み方です。

呉音は「発願」「発心」など仏教関係の言葉でよく使用されています。他には「発端」「発作」「発起人」なども同様に「ホツ」と読みます。

「はっそく」という読みは漢音の「ハツ」をそのまま活かした読みになります。「発達」「発展」「発育」などの言葉もあるので、馴染みのある方も多いでしょう。

「ほっそく」と「はっそく」のどちらも正しい読み方です。

「ほっそく」には組織や機関、制度などの活動の開始という意味があります。

「はっそく」はもともと「出発」「旅立ち」という意味で使われていました。「ほっそく」の読み方が常態化しているため、「はっそく」は誤った読み方と思われるかもしれません。しかし、使われることが減っているだけできちんと意味があるのです。

蛇足ですが、実は「発足」の漢字は地名にも使われています。北海道岩内郡共和町の地名で、読みは「はったり」です。

3.博士

「はかせ」と「はくし」の二つの読み方が行われています。

「はかせ」と「はくし」のどちらも正しい読み方です。

「博士」について、世間一般には「ハカセ」という慣用の読みが行われています。しかし、「文学博士」「法学博士」「医学博士」といった学位についての正式な呼称は「ハクシ」で、放送でも学位号については「ハクシ」「~ハクシ」と読んでいます。

ただし、「お天気博士」「物知り博士」というような場合や、律令時代の「文章(もんじょう)博士」などの場合には「~ハカセ」と読み、表記もそのまま「~博士」を使っています。

4.幕間

「まくま」と「まくあい」の二つの読み方が行われています。

しかし「まくま」と読むのは誤りで、「まくあい」が正しい読み方です。

「芝居で一幕が終わって次の幕が開くまでの間」を指す「幕間」は、「まくあい」と読むはずですが、「まくま」という読み方も耳にします。「雨間」「雲間」「晴れ間」などとの連想でしょうか?

NHKの放送では、演劇・芝居の世界での伝統的な読み方・言い方に合わせて「まくあい」と読んでいます。また、「幕間」の「間」を「あい」と読むのは表外音訓(常用漢字表にない読み)なので、放送での表記は「幕あい」にしています。しかし、場合によっては(番組の趣旨・内容によっては)「幕間」と書き表すこともありますが、「幕合い」とは書かないそうです。

5.大地震

「おおじしん」と「だいじしん」の二つの読み方が行われています。

「おおじしん」と「だいじしん」のどちらでも良いのですが、「おおじしん」が慣用的な読み方です。

NHKでは「大地震」と書けば、「おおじしん」と読むことにしています。

ただし地震学上「だいじしん」というのは、地震の規模(マグニチュード:M)に対する階級を示しており、「M7以上の地震」を指します。

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村