かつては「正月遊び」の定番だった「かるた遊び」ですが、最近はあまりやらなくなりました。「百人一首」は、末次由紀の少女漫画・アニメ「ちはやふる」の人気で、「競技かるた」若者に見直されているようですが・・・
ところで江戸時代に作られた「いろはかるた」は、江戸・京都・大阪(大坂)・名古屋(尾張)など地方によって内容が異なっています。文化的な違いも垣間見えてくるかもしれません。
1.「いろはかるた」とは
子供向きの歌がるたの一種。「いろは」47字に「京」の字を加え、これらを頭(かしら)文字とした字札48枚と、同じく絵札48枚、計96枚を1組にしたものです。
江戸中期から「いろは」48文字をそれぞれ句の始めに詠み込んで教訓的な諺(ことわざ)、譬(たとえ)にしたさまざまな「いろは譬」が登場しました。
「いろは教訓歌」「いろは短歌」などとよばれ、短歌形式のもの、漢詩や俳句式のもののほか各種があります。それらが遊戯化され、やがて文化(ぶんか)年間(1804年~1818年)ころ、その形式を「かるた」に取り入れて「いろはかるた(いろはがるた)」が生まれました。
「カルタ」とは、もともと南蛮文化の一つとして渡来したカード遊びのことで、多く賭事にも使われ、江戸時代にはしばしば禁制となりました。
ちなみに、「カルタ」という言葉は、英語の「card」にあたるポルトガル語の「carta」に由来します。漢字では「歌留多」「骨牌」などと書きます。
字札には「いろは」をそれぞれ頭文字にした諺、譬が書いてあり、絵札にはその意味の絵解きと頭文字が記してあります。なかでも「犬も歩けば棒に当たる」に始まるものがよく知られており、「犬棒かるた」の名でもよばれています。
葛飾北斎が描いたものなどが租型になったともいわれています。これは江戸製の「いろはかるた」で、この種のかるたは最初京坂地方に発生し江戸に移って流行したと言われています。
したがって江戸と京、大坂地方では、かるたの文句が異なっています。名古屋地方には「江戸いろは」「上方(かみがた)いろは」の両者が混合したりしている「尾張(おわり)かるた」が知られています。
遊び方は、絵札(取り札)を撒いて、字札を読み上げ、数多く札を拾い取った者を勝ちとする「散らし」と、2組に分けて争う「源平」などがあります。文句が軽妙なうえ遊び方もやさしいので、子供の正月遊びとして親しまれ、「犬棒かるた」のほか「英雄いろは武者」などの類型も続出しました。最近ではテレビ、漫画などのマスコミものが出回っています。
2.「いろはかるた」の変遷
「いろはかるた」は月日とともに、一部の札の内容が、差し替えられているものもあります。
江戸いろはかるたの場合では、表現が難解あるいは死語となっている(「月夜に釜を抜く」→「月とすっぽん」、「総領の甚六」→「損して得取れ」など、「芋の煮えたもご存じない」「子は三界の首かせ」も同様に差し替え対象となっています)
下品な表現が含まれる(「屁をひって尻すぼめる」→「下手の長談義」[上方より流用])、差別的ニュアンスがあるなどが差し替えの理由として挙げられます。
「良薬は口に苦し」はもともとは慣用仮名遣いの「れうやく」、「れ」の札でしたが(字音仮名遣いでは「りやうやく」)、現代仮名遣いの「りょうやく」、「り」の札に配置変更され、元の「り」の札、「律義者の子だくさん」が不採用となったこともあります。
こういった時代に合わせた変化については賛否両論があります。
3.「いろはかるた」の江戸・京都・大阪(大坂)・名古屋(尾張)読み比べ
上から、江戸・京都・大阪(大坂)・名古屋(尾張)の順に並べています。
(い)
- 犬も歩けば棒に当たる
- 一寸先は闇
- 一を聞いて十を知る
- 一を聞いて十を知る
(ろ)
- 論より証拠
- 論語読みの論語知らず
- 論語読みの論語知らず
- 六十の三つ子
(は)
- 花より団子
- 針の穴から天を覗く
- 花より団子
- 花より団子
(に)
- 憎まれっ子世に憚(はば)る
- 二階から目薬
- 憎まれっ子神直し
- 憎まれっ子頭堅し
(ほ)
- 骨折り損のくたびれ儲け
- 仏の顔も三度
- 惚れたが因果
- 惚れたが因果
(へ)
- 屁(へ)をひって尻窄(しりすぼ)める
- 下手の長談義
- 下手の長談義
- 下手の長談義
(と)
- 年寄りの冷や水
- 豆腐に鎹(かすがい)
- 遠くの一家(いっけ)より近くの隣
- 遠くの一家(いっけ)より近くの隣
(ち)
- 塵も積もれば山となる
- 地獄(ぢごく)の沙汰も金次第
- 地獄(ぢごく)の沙汰も金次第
- 地獄(ぢごく)の沙汰も金次第
(り)
- 律義者の子沢山
- 綸言(りんげん)汗のごとし
- 綸言(りんげん)汗のごとし
- 綸言(りんげん)汗のごとし
(ぬ)
- 盗人(ぬすびと)の昼寝
- 糠(ぬか)に釘
- 盗人(ぬすびと)の昼寝
- 盗人(ぬすびと)の昼寝
(る)
- 瑠璃(るり)も玻璃(はり)も照らせば光る
- 類をもって集まる
- 類をもって集まる
- 類をもって集まる
(を)
- 老いては子に従え
- 鬼も十八
- 鬼の女房に鬼神
- 鬼の女房に鬼神
(わ)
- 破(わ)れ鍋に綴(と)じ蓋
- 笑う門には福来る
- 若い時は二度ない
- 若い時は二度ない
(か)
- かったいの瘡(かさ)うらみ
- 蛙の面に水
- 陰裏(かげうら)の豆もはじけ時
- 陰裏(かげうら)の豆もはじけ時
(よ)
- 葦(よし)の髄(ずい)から天井覗く
- 夜目遠目(とめとおめ)笠のうち
- よこ槌で庭はく
- よこ槌で庭はく
(た)
- 旅は道連れ世は情け
- 立て板に水
- 大食(だいじき)上戸の餅食らい
- 大食(だいじき)上戸の餅食らい
(れ)
- 良薬(れうやく)は口に苦し
- 連木(れんぎ)で腹切る
- 連木(れんぎ)で腹切る
- 連木(れんぎ)で腹切る
(そ)
- 総領(そうりょう)の甚六
- 袖すり合うも他生の縁
- 袖すり合うも他生の縁
- 袖の振り合わせも他生の縁
(つ)
- 月とすっぽん、
月夜に釜を抜かれる - 月夜に釜を抜かれる
- 爪に火をともす
- 爪に火をともす
(ね)
- 念には念を入れよ
- 猫に小判
- 寝耳に水
- 寝耳に水
(な)
- 泣きっ面に蜂
- 済(な)す時の閻魔顔
- 習わぬ経は読めぬ
- 習わぬ経は読めぬ
(ら)
- 楽あれば苦あり
- 来年の事を言えば鬼が笑う
- 楽して楽知らず
- 楽して楽知らず
(む)
- 無理が通れば道理が引っ込む
- 昔とった杵柄、
馬(むま)の耳に風 - 無芸大食
- 無芸大食
(う)
- 嘘から出た実(まこと)
- 氏(うじ)より育ち
- 牛を馬にする
- 牛を馬にする
(ゐ)
- 芋の煮えたも御存知ない
- 鰯の頭も信心から
- 炒豆(いりまめ)に花が咲く
- 炒豆(いりまめ)に花が咲く
(の)
- 喉元過ぎれば熱さを忘れる
- 鑿(のみ)と言えば槌(つち)
- 野良の節句働き
- 野良の節句働き
(お)
- 鬼に金棒
- 負うた子に教えられて浅瀬を渡る
- 陰陽師身の上知らず
- 陰陽師身の上知らず
(く)
- 臭いものに蓋をする
- 臭い物に蝿がたかる
- 果報(くゎはう)は寝て待て
- 果報(くゎはう)は寝て待て
(や)
- 安物買いの銭失い
- 闇夜に鉄砲
- 闇に鉄砲
- 闇に鉄砲
(ま)
- 負けるが勝ち
- 蒔かぬ種は生えぬ
- 待てば甘露(かんろ)の日和あり
- 待てば甘露(かんろ)の日和あり
(け)
- 芸は身を助ける
- 下駄と焼き味噌
- 下戸の建てた蔵はない
- 下戸の建てた蔵はない
(ふ)
- 文(ふみ)はやりたし書く手は持たぬ
- 武士は食わねど高楊枝
- 武士は食わねど高楊枝
- 武士は食わねど高楊枝
(こ)
- 子は三界の首っ枷
- これに懲りよ道才坊(どうさいぼう)
- 志は松の葉
- こころざしは松の葉
(え)
- 得手(えて)に帆を揚げ
- 縁と月日、
縁の下の力持ち - 閻魔の色事
- 閻魔の色事
(て)
- 亭主の好きな赤烏帽子(あかえぼうし)
- 寺から里へ
- 天道人殺さず
- 天道人殺さず
(あ)
- 頭隠して尻隠さず
- 足元から鳥が立つ
- 阿呆につける薬はない
- 阿呆につける薬はない
(さ)
- 三遍回って煙草にしょ
- 竿の先に鈴
- 触らぬ神に祟りなし
- 触らぬ神に祟りなし
(き)
- 聞いて極楽見て地獄
- 鬼神に横道なし、
義理と褌(ふんどし)は欠かされぬ - 義理と褌(ふんどし)
- 義理と褌かかねばならぬ
(ゆ)
- 油断大敵
- 幽霊の浜風
- 油断大敵
- 油断大敵
(め)
- 目の上の瘤(こぶ)
- 盲(めくら)の垣覗き
- 目の上の瘤(こぶ)
- 目の上のこぶ
(み)
- 身から出た錆
- 身は身で通る裸ん坊
- 身うちが古み
- 蓑売りの古蓑
(し)
- 知らぬが仏
- しわん坊の柿の種
- 尻食らへ観音
- 尻食らへ観音
(ゑ)
- 縁は異なもの味なもの
- 縁の下の舞、
縁と月日 - 縁の下の力持ち
- 縁の下の力持ち
(ひ)
- 貧乏暇なし
- 瓢箪(ひょうたん)から駒が出る
- 貧相の重ね食い
- 貧僧の重ね食い
(も)
- 門前の小僧習わぬ経を読む
- 餅は餅屋
- 桃栗三年柿八年
- 桃栗三年柿八年
(せ)
- 急いては事を仕損じる、
背に腹は代えられぬ - せんちで饅頭、
梅壇(せんだん)は双葉より芳ばし - 背戸(せと)の馬も相口(あいくち)
- 背戸(せと)の馬も相口(あいくち)
(す)
- 粋(すい)は身を食う
- 雀百まで踊り忘れぬ
- 墨に染まれば黒くなる
- 墨に染まれば黒くなる
(京)
- 京の夢大阪の夢
- 京に田舎あり
- (なし)
- (なし)