「運動脳」とは?コルチゾール・ドーパミン・BDNFとは?アンデシュ・ハンセンとは?

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運動脳

前に「スマホ脳とは?スマホ脳過労・スマホ認知症とは?アンデシュ・ハンセンとは?」という記事を書きましたが、同じ著者がつい最近「運動脳」という本を出して、再び話題になっています。

そこで今回は、「運動脳」についてわかりやすくご紹介したいと思います。

1.「運動脳」とは

「運動脳」とは、2022年8月にサンマーク出版から出たアンデシュ・ハンセンの本です。

(1)「運動脳」という本の概要・要約とポイント

運動脳

<概要>

現代社会はストレス社会だと言われ、現代人は仕事や人間関係のトラブル、お金や将来の不安など、大小様々なストレスにさらされています。

そのため、ストレスによる疾患の二大療法である投薬やセラピーなどが盛んにおこなわれています。

しかし、ここに副作用のリスクがない効果的な対処法があります。それが本書のテーマである「運動」です。

そこで本書では、ストレス疾患やうつ・モチベーション低下、認知症、高血圧、高血糖など多くの疾患に効果があるだけでなく、集中力や創造力、記憶力なども向上させることができる「運動」の効能を、科学的なエビデンスを元に解説。20分程度のランニングを週に数回など、読後手軽に実践できる具体的な方法も公開されています。

かつては、脳は成人後は衰える一方とされていました。

しかし、成人後も脳内の「前頭葉」(人間の運動、言語、感情をつかさどる器官のこと)が大きくなったり、死の直前ですら「海馬」(記憶の中枢で感情の制御をしている部位)の細胞数が増えた人たちがいたそうです。

彼らにに共通していたのは日常的に「運動」を行なっていたことです。

1日たった5分のウォーキング・ランニングなどの「有酸素運動」が長期的に脳の成長に作用します。

日常生活に「運動」を取り入れることで、脳へどのような影響があるかを専門的な観点から詳細に詳しく紹介したのが本書です。

私も個人的にサイクリングや散歩を含む「運動」の有効性を実感しています。「サイクリングは私の健康法」「哲学の道と散歩の効用」「コロナ禍の巣ごもり中は、散歩が気分転換に最適!」「セロトニンは幸せホルモン!?役割・効果と増やし方もご紹介します!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

運動脳

<要約>

①プラスの特質とマイナスの特質

脳には脳の領域の連携の強い、弱いがあります。

脳の連携が強いのが「プラスの特質」、弱いのが「マイナスの特質」があるといいます。「プラスの特質」と「マイナスの特質」はそれぞれ以下のような特徴があります。

・プラスの特質:記憶力がすぐれている、集中力がある、教育水準が高い、飲酒や喫煙に対する自制心が強い

・マイナスの特質:かっとなりやすい、過剰な喫煙、アルコールや薬物への依存

脳の連携を強くするためには、「定期的な運動」が一番です。定期的に運動することで、身体を健康にするとともに脳の連携を強くすることができます。

②体力が知力を決める

アメリカの研究で、体力のある学生の方が学業においてもすぐれているということがわかっています。

結果は明らかで、体力的にすぐれているほど算数と読解で高得点をとっていました。また、運動することは記憶力を極限まで高めることができます。

なぜ運動することで記憶力・数学や国語の学力が上がるのでしょうか?

それは運動することで海馬(記憶の中枢で感情の制御をしている部位)が成長するためです。

つまり、運動することで海馬が成長し、記憶力や学力を向上させることができるということです。

③脳の最も重要な仕事は「移動」

脳は移動する生物にだけあります。そのため植物には脳はありません。

考え方はシンプルで栄養分を摂り入れるために生物は移動します。

人類も同じで「動きの制御」が脳の最も重要な仕事です。

もし身体を動かさなかったら、脳が影響を受けないはずがない。脳なくして身体は動かせない。もし動かさなければ、そのためにできている脳も機能できないのである。                  (「運動脳」より引用)

そして「移動距離」と脳の大きさは比例しており、遠くまで走ることのできる動物の脳は大きいことがわかっています。

私たち人類が知性を手に入れることができた要因は、活発に体を動かして脳を進化・発達させてきたからといえます。

<ポイント>

① ストレスがかかると、「コルチゾール」(*)というストレスホルモンが分泌されます。しかし運動を習慣づけると、やがてコルチゾールがほとんど分泌されなくなり、ストレスに対する抵抗力が高まります。

運動を習慣づけると、運動している間のコルチゾール分泌量が増えにくくなり、運動を終えたときには減りやすくなります。そして、定期的に運動を続けると、運動以外のことが原因のストレスを感じたときにも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなります。つまり運動によって、ストレスに対する抵抗力を高めることができるのです。

(*)コルチゾール(Cortisol)とは、「副腎皮質」(左右の腎臓の上に帽子のように乗っている副腎の皮の部分)から分泌されるホルモンです。

「コルチゾール」は、私達に馴染みのある言葉では「ステロイド」と呼ばれているもので、主にストレスを感じている時や血糖値が低い時に反応して分泌されます。そのため、コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれています。

本来、「コルチゾール」は人間のホメオスタシス(恒常性)を保つよう働きますが、「コルチゾール」の分泌量が慢性的に高くなったり、低くなったりすると人体に悪影響を及ぼす場合があります。

「コルチゾール」は、「血糖値のバランスを保たせる」「抗ストレス作用」「免疫力を抑える」「脂肪の分解を促進する」などの働きがありますが、極端に高かったり低かったりすると、脳や睡眠に悪影響があります。

② 太古の昔から、人間が生きていくためには運動が不可欠でした。それゆえ人間は、運動すると「報酬系」と呼ばれるシステムが働き、「ドーパミン」(*)が放出されて気持ちが明るくなる仕組みになっています。

(*)ドーパミンdopamine)とは、やる気を出す神経伝達物質の一つ。意欲や幸福感をアップさせる働きを持ち、「脳内麻薬」や「快楽物質」とも言われています。

「ドーパミン」は、幸福感を与えてくれるため、「セロトニン」や「オキシトシン」と並び、「幸せホルモン」と呼ばれることもあります。

「ドーパミン」は、楽しいことをしているときや、目標を達成したとき、好きな音楽を聞いているときのほか、「この後に何か良いことが起きる」と感じたときに大量に分泌されます。

「ドーパミン」が分泌されると、達成感や喜び、快感などをもたらすほか、情報を一時的に記憶する能力・ワーキングメモリを高める効果もあります。

「神経伝達物質」とは、細胞から細胞へと情報を伝える物質のことです。「ドーパミン」「セロトニン」「ノルアドレナリン」の3つが代表的な神経伝達物質です。

「ノルアドレナリン」は、ストレスを感じたときに放出され、集中力を高めたり、積極性をもたらすなどの効果があります。

「ドーパミン」も「ノルアドレナリン」も適度であれば問題ないのですが、過剰になると依存症やヒステリーを引き起こしてしまうこともあります。そこでもう一つの「セロトニン」が、この2つの分泌を抑制して、精神の安定を保ち、心のバランスを整えてくれているのです。

すでに説明したように、「ドーパミン」は、人のやる気や幸福感などに大きくかかわっている物質です。そのため、不足すると「意欲が出ない」「好奇心が起こらず無気力になる」「感動しにくくなる」といった症状を引き起こします。

また、「ドーパミン」は運動にも関係するホルモンのため、運動がうまくできなくなるパーキンソン病の原因にもなります。

そのほか、「ADHD(注意欠如・多動性障害)」も「ドーパミン」不足が原因の一つであると言われています。こうした病気や障害には、「ドーパミン」を補う薬を用いて、症状の解消を促します。

このように、「ドーパミン」は不足するとさまざまな症状を引き起こしますが、過剰になるのもよくありません。「ドーパミン」が過剰になると、アルコール依存症やギャンブル依存症、総合失調症などを引き起こすこともあります。

不足しても、過剰になっても悪影響があるので、適度に分泌されている状態がベストなのです。

③ 「BDNF」(*)は、脳の健康に欠かせない物質です。BDNFを増やすには、30~40分の有酸素運動を週に3回行うことが有効です。

(*)BDNFは、 「脳由来神経栄養因子」(Brain-derived neurotrophic factorの頭文字を取った略語)と呼ばれるタンパク質で、うつ病をはじめとした様々な精神疾患に関与するものとして近年注目されています。

「脳由来神経栄養因子」というと難しい用語ですが、かんたんに言うとBDNFは神経の「栄養」のようなもので、

・新しい神経を作ったり、

・神経を発達・成長・増殖させたり、

・神経と神経をつなげたり、

・神経をダメージから保護したり

といった働きを持つと考えられています。

BDNFは脳や神経以外にも存在するタンパク質ですが、精神科領域においては特に脳や神経への作用が注目されています。

実際、多くの精神疾患では脳のBDNFが減少していることが確認されており、これによって神経が十分に発達できなかったり、ダメージから保護されなくなるため、精神疾患が発症しやすくなってしまうのではないかと考えられます。

2.アンデシュ・ハンセンとは

アンデシュ・ハンセン

アンデシュ・ハンセン(1974年~ )はスウェーデン・ストックホルム出身の精神科医です。

前作「一流の頭脳」が人口1,000万人のスウェーデンで60万部の大ベストセラーとなり、世界的人気を得ました。名門カロリンスカ医科大学で医学を学び、ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得。

現在は上級医師として病院に勤務しながら、執筆や講演活動、メディア出演も行っています。


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