前に「デジタル資産(デジタル遺産)」の記事を書きましたが、デジタル遺産と言うと、「ネット上の銀行口座の預金や、ネット証券口座の株式、FX口座、仮想通貨」などをまず思い浮かべますが、「ブログ」もその一つではないでしょうか?
「市川海老蔵らのブログが、後世に伝える意義を認めて国立国会図書館が保存開始」というニュースもありましたので、ブログも書籍・雑誌、マイクロフィルム、CD-ROM、DVD、音楽CD、ゲームソフトなどと同じように保存される時代になったようです。
国立国会図書館で保存された市川海老蔵らのブログは、海老蔵らの死後も消えてしまわないよう、国立国会図書館とブログサービス「Ameba(アメーバ)」を運営するIT大手の(株)サイバーエージェントが協力してアカウントの管理も行うのでしょう。
では、ブログを書いていた一般人の家族が亡くなった場合、生前書いていたブログを形見として保存したり引き継いだりできるのでしょうか?
1.ブログを形見として保存したり引き継いだりする方法
遺品整理の段階で、遺族が故人のブログやSNSページの存在に気づくというケースはよくあります。実際に引き継いで何年も管理している遺族も少なくありません。しかし、正式に引き継ぐには所定の手続きを経る必要があります。
(1)対応はブログの運営元によって異なる
ブログやSNSのページといったインターネット上の個人スペースは、そのサービスを提供する運営元が作った仕組みの上に成り立っています。たとえば、Twitterなら一度に140文字までの文字を載せられて、後からの訂正はできない、というルールに従って多くの人が交流したり自分を発信したりしています。
そうした仕組みの細かなところをまとめているのが利用規約や会員規約、あるいはQ&Aページです。ここにアカウントの引き継ぎや譲渡の可否について記載しているサービスが多くあります。
Googleには、最短3カ月でアカウントを無効化する「アカウント無効化管理ツール」というのがあります。Google アカウントを抹消するだけでなく、あらかじめ設定したメールアドレスにメッセージを送ったりアカウント内のデータを託したりといった設定もできます。
ブログを引き継げるか削除しか選べないかは、そのブログのスタンスによります。たとえばニフティは一身専属制といってアカウントが相続できないスタンスになっています。かつてはビッグローブやソネットも同じでしたが、方針転換して引き継げるようにしています。
古田雄介氏の調査によると、国内の主要な無料ブログサービスの対応は主に次の5つに分かれています。
①承継タイプ
残された側にとって最も自由度の高いタイプ。正規の手続きを踏めば、IDやパスワードが正式に遺族のものとなるので、画像認証設定も承認制設定も自由に選べるようになります。BIGLOBE(※2013年から対応)やソネットにように、ブログだけでなく課金タイプを含めたサービス全般で承継を認めている運営元がこのタイプに当てはまります。
②個別に対応タイプ
明確な手順は規定していないながらも、身分照会を済ませたうえで個別に対応するというタイプ。AmebaブログやJUGEMなどが該当します。個別対応のためどこまで要望が通るかは分かりませんが、故人サイト荒し対策などは善処してもらえる可能性が高いようです。
③身分証明不要タイプ
遺族から要請があった時、ブログ主のメールアドレスにその旨を送り、一定期間返信がないときに措置するというタイプ。FC2ブログとはてなダイアリーが典型例です。FC2ブログは削除と引き継ぎが、はてなブログやはてなダイアリーは非公開設定が依頼できます。
また、「状況によりどうしても必要と判断した場合には別途検討します。その際には同様のメールでの照会を経て対応します」(はてな)とのことで、例外措置に応じてくれる可能性もあります。
④削除のみ対応タイプ
通信の秘密や一身専属性を重視する観点からIDの譲渡や承継を認めないブログサービスも多いです。それでもココログやエキサイトブログのように遺族による退会や削除、非公開手続きに応じる例もあります。その場合は、ユーザー側も保存したうえで削除するといった手段もとれるでしょう。
⑤原則非対応タイプ
④と同じく譲渡や承継を認めないスタンスで、遺族による削除や退会の道筋も特に用意していないタイプ。ただし、「第三者よりブログの設定変更のお問合せがあった場合、内容等鑑みて対応する可能性がございます」(ライブドアブログ)と、何かしらの対応をしてもらえる可能性はあります。ある意味で②に近いかもしれません。
ブログ | 大筋 | 概要 | 相談件数 |
---|---|---|---|
So-netブログ | A:承継タイプ | 法定相続人になり得る遺族なら、身分照会の後、会員サービスの譲渡・承継手続きが行える | 1年に1~2回程度 |
BIGLOBEウェブリブログ | A:承継タイプ | 配偶者や二親等以内の法定相続人なら、身分照会のうえでIDの名義変更が行える | 数年間で数件程度 |
Amebaブログ | B:個別に対応タイプ | 契約者と遺族であることを照会したうえで、可能な限り希望に添うかたちで対応する | 過去9年で1けた程度 |
JUGEM | B:個別に対応タイプ | 契約者と遺族であることを照会したうえで、可能な限り希望に添うかたちで対応する。 | 1年に数件程度 |
FC2ブログ | C:身分証明不要タイプ | ブログの状況を確認後、登録者に確認メールを送付。10日以内に返信がない場合に、削除やIDの開示を実施する。登録メールが不通の際はプライベートモードに設定変更にする。 | 2013年中に4件 |
はてなブログ、はてなダイアリー | C:身分証明不要タイプ | 登録者に確認メールを送り、所定の期間に異議がなければ非公開設定とする | 1年に1~2回程度 |
ココログ | D:削除のみ対応 | 遺族による退会手続きにより、削除が可能 | 非公開 |
エキサイトブログ | D:削除のみ対応 | 「本人確認依頼フォーム」を使って登録者と遺族の身分照会を行う。クレジットカード番号まで合致すれば削除、合わなければ非公開設定とする | 1カ月に1件程度 |
gooブログ | D:削除のみ対応 | 削除依頼については、依頼の都度、検討のうえ個別に対応する | 非公開 |
ライブドアブログ | E:原則非対応タイプ | 原則としては非対応 | 非公開 |
Yahoo!ブログ | E:原則非対応タイプ | 原則としては非対応 | 1カ月に数件程度 |
楽天ブログ | ※回答得られず | ||
Seesaaブログ | ※回答得られず | ||
yaplog! | ※回答得られず | ||
主な国内無料ブログサービスのスタンス。So-netブログは配偶者と子、父母、祖父母、兄弟姉妹が承継対象となる。BIGLOBEウェブリブログの場合は対象に孫も加わる |
(2)「一身専属制」と定められている場合は難しい
「承継」や「譲渡」を認める条項があるなら、正式な手続きを経て引き継ぐことができます。運営元のサポート窓口に連絡し、持ち主が亡くなったことと連絡者の関係性、引き継ぎの意志を伝えましょう。必要な書類や情報などを説明してくれるので、それに従って手続きすればよいでしょう。
しかし、どのブログやSNSでも相続できるわけではありません。
「一身専属制」といって、相続不可のスタンスを明記しているサービスも多々あります。ブログならココログ(@ニフティ)、SNSならLINEなどは「一身専属制」です。これらのサービスは、法定相続人であっても引き継ぐことができません。遺族に残された手続きはアカウントと該当ページの抹消のみということが普通です。
なお、Facebookは「一身専属制」ですが、引き継ぎと抹消以外の第三の道筋を選ぶこともできます。家族や友人が「この人は亡くなりました」と「追悼アカウント」に切り替える申請ができ、故人のアカウントを保護モードにすることができます。
最近はそれが発展して、本人が生前に「追悼アカウント管理人」を指定したり、仲間から運営元に死亡報告が届いたらページを抹消するように、あらかじめ設定したりできるようになっています。元気なうちに、そうした対策ができる場合もあるわけです。
Facebook社が買収したInstagramでも、似たような追悼アカウントをやっています。
Linkedinも訃報窓口を設けています。Twitterも亡くなった人のアカウントの対応を2010年から始めていますが、あまり機能していないようです。
(3)「形見」に残したい場合は運営元に相談
一方で、運営元は遺族等からの連絡がないと、アカウントの持ち主の生死を確認する術がありません。このため、サービスのIDとパスワードが分かっていたり、ログインしたままになっていたりする場合は、遺族がそのままアクセスすることもあります。
亡くなった直後に訃報や葬儀情報を伝えるなど、喫緊の対応について咎める運営元は聞いたことがありません。しかし、本人になりすましてログインしている状態ではあるので、その後もずっと利用するのは控えたほうがいいでしょう。
形見として長く維持管理したいのであれば、運営元に相談するのが最善だと思います。運営元が一身専属性をとっている場合は、ブログの各ページをバックアップして中身そのものの消失を防ぐのも手です。
(4)ブログ内容を「遺稿集」として出版する家族もいる
家族の死後にブログの存在を知り、全ページをプリントアウトしたという遺族もいますし、レンタルサーバーを契約してそこに故人のブログをコメントごと移設した遺族もいます。身内や知人に配るために自費出版して残すことを選んだ事例もあります。
「死後は消してほしい」「実名と紐付けられたくない」などのご本人の意志が確認された場合は、慎重に行動したほうがいいと思いますが、一身専属性であっても色々とやりようはあるのは確かです。
このあたりは引き継ぐ方のスキルやかけられる手間によっても取れる方法は変わってくると思われます。加えて、ご遺族と故人、そして読者を含めたお仲間の気持ちと向き合ったうえで最善を選ぶのが理想的かもしれません。
2.自分が死んだ時にサイトが管理不能状態でずっと残るのを避ける方法
「ブログを死後も残したい」と思う人がいる一方で、「死んだらさっさと消してほしい」という人もいます。
(1)家族に託すのが一番
家族に託すのが一番です。ブログやSNSについても「俺が死んだら消しといて」とか、「ネット上でしか付き合いのない人もいるから、こういうメッセージを入れといて」といった具合にお願いをしておくのが確実です。
(2)家族がいなかったり、家族と連絡を取りたくない場合
「死後事務委任契約」をするという手段もあります。弁護士や司法書士の人に、死亡後の各種手続きや葬儀や知人への連絡の手配などを委託するというものです。
ネット上のアカウントの処理についても委託できます。ただし、まだ対応してくれるところは少ないし、プロに頼むのでお金はかかります。
3.遺族がブログの存在に気付かなかったり、ブログ運営会社に連絡しなかったらどうなる?
(1)10年以内に自然消滅
無料サービスなら当面はそのまま残ります。遺族遺族が気づいたり、よほど犯罪性のある荒らしに遭ったりしない限りは、誰かが能動的に関わることはないでしょう。とはいえ10年残ることは稀です。一つのサービスが10年続くことは珍しいので、サービス終了に伴い、自然に消えていくのは典型的なパターンのひとつです。
(2)サイトを放置するリスク
ただ、人工知能(AI)の登場で、サイトを放置するリスクが利用者にとっても運営側にとっても高まっています。放置されたページであっても生きている誰かとつながりがあれば簡単に紐付けられるからです。
たとえば、亡くなった親のブログの内容から、そこで今も暮らしている娘の住所を瞬時に割り出したりとか。そういうリスクが上がれば、今のようにほったらかしのままではいられなくなるかもしれません。
またスパム業者による「悪意あるスパムコメント」の格好の標的になるリスクもあります。
そうなると運営側にとっても削除コストが上がっていくので、たとえば「3カ月間何もしなかったら削除します」のような、以前のホームページサービスでよくあった規約が復活する可能性があります。