高浜虚子・渡辺水巴・村上鬼城・飯田蛇笏・前田普羅・原石鼎・水原秋桜子・阿波野青畝・山口誓子・高野素十・山口青邨・富安風生・川端茅舎・星野立子・高浜年尾・稲畑汀子・松本たかし・杉田久女・中村汀女などの「ホトトギス派の俳人」については、前に記事を書きました。
このように俳句の世界では、「有季定型」「花鳥諷詠」「客観写生」を旨とする「ホトトギス派」が伝統的に一大勢力となっており、上記のように有名な俳人が多数います。
しかし、最初ホトトギス派に所属したものの後にホトトギス派を離脱した「元ホトトギス派」をはじめ、ホトトギス派に反発した「反ホトトギス派」、独自の道を歩んだ「非ホトトギス派」の俳人もいます。
そこで今回から、このような「ホトトギス派以外の俳人」を順次ご紹介していきたいと思います。俳句に興味をお持ちの方なら、名前を聞いたことのある俳人が必ず何人かいるはずです。
なお、日野草城・加藤楸邨・中村草田男・河東碧梧桐・荻原井泉水・種田山頭火・尾崎放哉などの「ホトトギス派以外の俳人」については、前に記事を書いていますので、それぞれの記事をぜひご覧ください。
1.長谷川櫂とは
長谷川 櫂(はせがわ かい)(1954年~ )は、熊本県出身の俳人です。
朝日俳壇選者、ネット歳時記「きごさい」代表、俳句結社「古志」前主宰、東海大学文芸創作学科特任教授、神奈川近代文学館副館長。「蛇笏賞」(角川文化振興財団)、「奥の細道文学賞」「ドナルド・キーン大賞」(草加市)選考委員。
新聞社に勤務するかたわら俳人としても活動し、第一句集『古志』(1985年)で注目されました。伝統を重んじる俳風ながら、わかりやすい平明な句が多いです。句集に『天球』(1992年)、『虚空』(2002年)、評論に『古池に蛙は飛びこんだか』(2005年)などがあります。
2.長谷川櫂の略歴
長谷川櫂は、中学時代から俳句をはじめ、のちに平井照敏(加藤楸邨門下、「槙」主宰)、飴山實(安東次男に兄事、主宰誌なし)に学びました。東京大学法学部卒業後、読売新聞記者を経て俳句に専念することになりました。
1993年、39歳で俳句結社「古志」を創刊、2009年に、当時31歳の大谷弘至に「古志」主宰を譲りました。
複数の句集、東日本大震災を詠んだ歌集を著し、松尾芭蕉、小林一茶、正岡子規(選集編集にも参加)、高浜虚子、加藤楸邨、飯田龍太などの俳人研究、俳句入門書などの著書を刊行しています。日本文化についての一連の論稿・随想も多くあります。
特に芭蕉の古池の句の解釈をもとにした俳句の「切れ」と「間」や「奥の細道」解説、また一茶の再評価を梃子にして俳句史の見直しを行っています。
『俳句の宇宙』でサントリー学芸賞(1990年)、句集『虚空』で読売文学賞(2003年)を受賞しています。
2004年より読売新聞に詩歌コラム「四季」を連載開始し、プライベートサイト「一億人の俳句入門」で「ネット投句」「うたたね歌仙」を主宰しています。
また1970年に始まった「歌仙の会」(石川淳、丸谷才一、安東次男、大岡信、杉本秀太郎、岡野弘彦らが連衆)を、三浦雅士(文芸評論家)と共に引き継ぎました。
「100分de名著 松尾芭蕉『おくのほそ道』」(NHK、2013年)、「課外授業 ようこそ先輩」(NHK、2014年)などのテレビ番組にも出演しています。
3.長谷川櫂の俳句
<春の句>
・東京の いつもこのころ 春の雪
・村ぢゆうの 畦あらはるる 雪解(ゆきげ)かな
・合戦の 跡を寺とし 春田かな
・妻入れて 春の炬燵と なりにけり
・こんにやくを くるりとねぢり 梅の花
・初花や 透けて平目の 薄造り
・雪折(ゆきおれ)の 枝の初花 甕にさす
・たちまちに 春着を脱いで 遊びをり
・日が差して 春の障子と なりにけり
・はくれんの 花びら反れり 石の上
・花守を やめてこの世に 帰りこし
・鯛焼の 売れ残りゐる 花の雨
<夏の句>
・高きより この世へ影し 今年竹(ことしだけ)
・住みつきし 猫に子が生れ 柿の花
・ふるさとに 似たる在所や 柿の花
・花店の ガラス戸のなか 梅雨深し
・涼しさに 転がしておく 木魚かな
<秋の句>
・桃の箱 桃の畑の 匂ひあり
・桃食ふや 冷たき水を 浴びてきて
・道元の つむりに似たる 梨一つ
・その花の 俤(おもかげ)はあり 柿の蔕(へた)
・地下鉄は 街の腸(はらわた) 秋暑し
・秋暑し 茹でて売らるる 豚の顔
・近江より 雲流れくる 松手入(まつていれ)
・電球の まはり明るし 秋の暮
・家にゐて 旅のごとしや 秋の暮
・秋の夜や 煌と明るき 通過駅
・ひやひやと 日のさす秋の 昼寝かな
・箸つかふ 月の光を 浴びながら
<冬の句>
・新しき 家の見取り図 水仙花
・着膨れて 海豹(あざらし)の貌 してゐたる
・外套に 荒ぶる魂(たま)を 包みゆく
・町ひとつ 打ち捨ててある 枯野かな
・鎌倉の 町を埋(うづ)める 落葉かな
風花(かざはな)と おもふ間もなく 止みにけり
・金屏や 寒風描き あるごとく
・きらきらと 氷つてゐたり 雪兎
<新年の句>
・千年の 始めの年の 若菜粥
・太箸に 枝の俤(おもかげ) ありにけり
・大阪で ひとつ歳とる 雑煮かな