「鷹化して鳩となる」「龍天に登る」「風死す」「畳替」などの面白い季語

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鷹鳩

前に「山笑う」や「蓑虫鳴く」「蛙の目借時」「虎落笛」「秋渇き」「卯の花腐し」「末黒の薄」「鰤起し」「鎌鼬」「虎が雨」などの面白い季語をご紹介しましたが、ほかにも「面白い季語」というか「不思議な季語」「奇想天外な季語」「珍しい季語」があります。

古代中国の人が考えた言葉もありますが、それにしても俳人は発想が豊かなのでしょうか、季節感と結びつけて奇想天外な不思議な季語を生み出したものだと感心します。

1.鷹化して鳩となる(たかかしてはととなる)

「春の穏やかな気配の中では、鷹は鳩に変身してしまう」という意味で、「春」の季語です。

「鷹化為鳩」は中国の「七十二候」の一つで、「獰猛な鷹が春の麗(うら)らかな陽気によって鳩(郭公とも)と化すこと」で「仲春」を指します。ちなみに日本の「七十二候」では「菜虫化蝶(なむしちょうとなる)」に相当します。

古代中国の「呂氏春秋(りょししゅんじゅう)」(*)にあり、非科学的な言葉ですが、春の幻想的な気分を反映しており、古くから歳時記に記されています。

(*)呂氏春秋とは

古代中国の戦国時代(紀元前5世紀~紀元前221年)末期、秦の呂不韋が食客を集めて共同編纂させ紀元前239年に完成した書物です。天文暦学や音楽理論、農学理論など自然科学的な論説が多く見られ、自然科学史においても重要な書物とされています。

子季語・関連季語には「鷹鳩と化す」「鳩と化す鷹」「鷹鳩に」があります。

例句としては、次のようなものがあります。

・新鳩よ 鷹気を出して 憎まれな(小林一茶

・鷹鳩に 化して青天 濁りけり(松根東洋城)

・鷹鳩と 化して童女を とりかこむ(大串 章)

・鷹鳩と 化して神木は 歩かれず(鷹羽狩行)

2.龍天に登る(りゅうてんにのぼる)

昇龍

「龍は想像上の動物で、春分の頃に天に登り雲を起こして雨を降らせる」という中国の古代伝説から「春」の季語となりました。「竜天に登る」とも書きます。

例句としては、次のようなものがあります。

・竜天に 昇りしあとの 田螺(たにし)かな(内田百閒)

・竜天に 登ると見えて 沖暗し(伊藤松宇)

・竜天に 黄帝の御衣 翻へる(石井露月)

・竜天に 登るはなしを 二度三度(宇多喜代子)

3.風死す(かぜしす)

夏の暑さの中、少しでも風が吹けば心地よいものですが、風がぴたりと止むと誠に耐え難い暑さとなります。いわゆる「凪(なぎ)」と呼ばれる現象ですが、「風死す」と言えばその息苦しさがよく感じられます。

「夏」の季語です。

例句としては、次のようなものがあります。

・風死んで 三百尺の 岩の壁(高橋悦男)

・断層の 億年のこゑ 風死すせり(池添怜子)

・風死すして 鉛の色に 湖(うみ)たたへ(富安風生)

・秋の風 死して世を視る 細眼なほ(飯田蛇笏)

4.畳替(たたみがえ)

畳替え

「畳替」とは、文字通り畳を替える(表替えする)ことです。畳の改まった塵一つない部屋は香気に満ちて、新年を迎えるにふさわしい部屋となります。

青々とした畳表を敷き詰めた部屋には、藺草(いぐさ)の良い匂いがたちこめ、快いものです。

今は「畳替」をすることはあまりありませんが、昔は正月を迎える年用意の一つとして、12月の年の瀬に汚れたり傷んだりした畳表を取り替えて、お正月を新畳で迎える家庭が多かったため、「冬」の季語とされたのでしょう。

子季語・関連季語には「替畳」があります。

例句としては、次のようなものがあります。

・一日を 洋間にこもり 畳替(杉山木川)

・畳替 すみたる箪笥 据わりけり(久保田万太郎)

・一枚を 灯下に仕上げ 畳替へ(鷹羽狩行)

・天井の 竜の見てゐる 畳替(後藤 章)

余談ですが、「畳替え」と言えば、私は「忠臣蔵」の序盤の名場面、「芝増上寺の畳二百畳(五百畳という話もあります)の畳表の畳替え」を思い出します。

芝増上寺畳替

江戸中の畳職人を急遽狩り集めて一晩のうちに仕上げたというあの話です。

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