「人間関係」を表す四字熟語(その2)親子・家族

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倚門之望

漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。

そこで今回は、「人間関係」を表す四字熟語のうち、「親子・家族」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。

1.親子の情

(1)倚門之望(いもんのぼう)

子の帰りを待ちわびる親の情のたとえ、子を思う親の愛情が切実なたとえです。特に母親の愛情についていいます。門に寄りかかって望み待つ意から。

「倚」は寄りかかる意で、「望」は遠くを見やる意です。

中国戦国時代、王孫賈(おうそんか)の母親が、賈が朝出かけて夕暮れに帰るのを家の門に寄りかかって待ち望み、夕暮れに出かけて帰らないときには、村里の門に寄りかかって帰りを待ちわびた故事から。

(2)凱風寒泉(がいふうかんせん)

親子の愛情が深いことです。

「凱風」は『詩経』にある詩の題名で、優しく吹く南風のことをいい、そこから母親の深い愛情にたとえた言葉です。「寒泉」は冷たい井戸水のことです。

井戸水ですら人の喉を潤すのに、子どもが七人いても、誰も母親を気遣わずに心配ばかりかけることを悔いる様子を言い表す言葉。

(3)厳父慈母(げんぷじぼ)

わが子に対して厳しい父親と愛情の深い母親のことです。

「厳」は、きびしいさま。「慈」は、いつくしむ・かわいがるで、「慈母」は、愛情の深い母親のこと。「厳父」「慈母」は、いずれも自分の父母に対する尊称として用いる言葉。

(4)骨肉之親(こつにくのしん)

親や兄弟など血筋のつながっている人のこと、また、それらの間の深い愛情のたとえです。

(5)顧復之恩(こふくのおん)

親に、いつくしみ育てられた恩のことです。

「顧復」は親が何度も振り返って、子を心配すること。

(6)子為父隠(しいふいん)

悪事や過ちは、父は子のために、子は父のために互いに隠してかばいあうことが人の道であるということです。

(7)四鳥別離(しちょうべつり)

親子の悲しい別れのことです。巣立つ四羽のひな鳥を見送る親鳥の別れの悲しみの意から。

「四鳥」は四羽のひな鳥。

孔子が早朝に悲鳴のような泣き声を聞き、高弟の顔回(がんかい)に尋ねたところ、顔回は「桓山(かんざん)で鳥が四羽のひな鳥を育て、巣立つとき母鳥は別れの悲しさに声をあげて鳴き送ると申しますが、あの声もその母鳥の鳴き声と同じです」と答えた。果たして父親が死んで、子を売らなければならなくなった、母親の泣き叫ぶ声であったという故事から。

(8)舐犢之愛(しとくのあい)

親牛が子牛をなめまわすように、親が子どもを溺愛することです。

「舐」は、なめる。「犢」は、子牛のこと。

(9)慈母敗子(じぼはいし)

教育は時には厳しさが必要であることのたとえです。母親が慈愛にあふれて甘すぎると、かえって放蕩な子ができる意から。

「慈母」は慈愛に満ちた母で、ここでは度を過ぎて甘い母のこと。「敗子」は家をやぶる子の意で、放蕩な子のこと。

「慈母に敗子有り」の略。

(10)孺慕之思(じゅぼのおもい)

幼い子供が親を慕うこと、または他人にそのような感情を抱くことです。

「孺」は幼い子供のこと。

幼い子供が親を慕って泣き叫ぶのを見た孔子の弟子の有子と子游が言ったという故事から。

(11)寸草春暉(すんそうしゅんき)

父母の恩・愛情は大きく、それに子がほんのわずかさえ報いるのがむずかしいことのたとえです。

「寸草」はわずかに伸びた丈の短い草のことで、子が親の恩に報いようとするわずかな気持ちのたとえ。

「春暉」は春の暖かい陽光。親の子に対する愛情のたとえ。

(12)属毛離裏(ぞくもうりり)

親と子の関係の深いことです。

「属」は付属する、つながる意。「毛」はからだの表面にあることから、陽の存在を意味して父親のこと。「離」は着く意。「裏」は血肉・母胎を意味し母親のこと。

子が父親を手本とし、母親に愛育されて成長することです。また、子が父親の気を受け継ぎ、母親の胎内を経て生まれ出ることをいい、血肉のつながりが深いことをいいます。

(13)椿萱並茂(ちんけんへいも)

両親がどちらも健康で暮らしていることです。

「椿」は古代の霊木。長寿の木で、父親のたとえ。
「萱」はわすれ草のことで、主婦の部屋の前に植えたことから、母親のたとえ。
「並茂」は並んで生い茂ること。

「椿萱並び茂る」と訓読します。

(14)白雲孤飛(はくうんこひ)

旅の途中で、親を思い起こすことのたとえです。

青い空に白い雲が一片ぽつんと飛んでいるのを見て、その下に住んでいる親を思って悲しむことから。

(15)伯兪泣杖/伯瑜泣杖(はくゆきゅうじょう)

両親が年をとって衰えたことに気がつき、悲しむことです。

「伯兪」は中国の漢の時代の人の名前。「杖」は鞭のこと。

親孝行で知られていた伯兪は、過ちの罰として母親に鞭でたたかれたが、少しも痛みを感じなかったことに母親が老いて衰えたことを感じて泣いたという故事から。

「伯兪杖(つえ)に泣く」と訓読します。

(16)罔極之恩(もうきょくのおん)

両親から受けた報いきれないほどの恩のことです。

「罔極」は限りがないという意味。

報いることが出来ないほどの限りない恩という意味から。

2.親孝行

(1)烏鳥私情(うちょうのしじょう)

親孝行して恩返しをしたい気持ちのことを謙遜していう言葉です。

「烏鳥」はからすのこと。「私情」は自分の気持ち。

からすは育ててもらった恩に親に口移しで餌を食べさせるということから。

(2)温凊定省(おんせいていせい)

親孝行をすること。冬は暖かく、夏は涼しく過ごせるように気を配り、夜には寝具を整え、朝にはご機嫌をうかがうこと。子が親に仕えて尽くすべき心がけを説いたものです。

「凊」はすずしい意。「定」は寝具を整え、快適に安眠できるよう配慮すること。「省」はかえりみる意で、安否を問う、ご機嫌うかがいをすること。

(3)家貧孝子(かひんこうし)

貧しい家庭で育った子どもは、親孝行な子どもになるということ。
または、人は苦しい状況のときこそ、本当の価値を発揮するということです。

「家貧しくして孝子顕(あらわ)れ、世乱れて忠臣を識(し)る」を略した言葉。

(4)齧指痛心(げっしつうしん)

親孝行の情がこの上なく厚いことのたとえです。

中国の春秋時代の曽参は、母親が自宅で指をかむと、胸騒ぎがしてどこにいてもすぐに帰宅する親孝行者だったという故事から。

「指を齧(か)みて心を痛ましむ」と訓読します。

(5)枯魚銜索/故魚銜索(こぎょかんさく)

親が生きている間に孝行すべきであるという教え。

「枯魚」は魚を干したもの。「銜索」は縄を通すこと。

魚の干物は腐らずに長く持ちそうに見えるが、すぐに虫に食われてしまうということから、一見元気に見える親も、いつ死んでしまうか分からないということ。

「枯魚索(なわ)を銜(ふく)む」と訓読します。

(6)昏定晨省(こんていしんせい)

(「礼記」曲礼上から)夕方に父母の布団を敷き、朝は安否を心配すること。子が父母に敬愛の心をもって仕えることです。

(7)三枝の礼(さんしのれい)

両親に礼儀を尽くし、両親への孝行を重んじることです。

鳩の子どもは、親の鳩がとまっている木の枝の三本下の枝にとまるという意味から。

「鳩に三枝の礼有り」ともいいます。

(8)三牲之養(さんせいのよう)

親を豪華な食事でもてなし孝行することです。親孝行を惜しまないという意。

(9)三釜之養(さんぷのよう)

薄給の身であっても、喜んで親を養い、孝行することです。「三釜の養をなす」という形で使われます。

「釜」は、中国春秋戦国時代の容量の単位で、約12ℓ。「三釜」は、約37ℓの米の量のこと。

孔子の弟子で、親孝行で有名だった曾子(そうし)が「たった三釜分の貧しい給料の時でも親を直接養えるときは、とても幸せだったが、出世して高給を取るようになったのに、親がすでに亡くなってしまったのが悲しい」と言ったという故事から。

(10)慈烏反哺(じうはんぽ)

子が親の恩に報いて孝養を尽くすことで、親孝行のたとえです。情け深いからすが幼いときの恩を忘れず、老いた親に口移しで餌を与える意から。

「慈烏」はからすの異称。「哺」は口中の食物のこと。

からすは、幼いとき親が口移しで餌を与えてくれた恩を忘れず、成長すると親に餌を与えてその恩を返すということから。

(11)菽水之歓(しゅくすいのかん)

貧しい生活をしていても、両親へ孝行して喜ばせることです。

「菽水」は質素な食事のたとえで、「菽」は豆のことをいい、豆の粥と水という意味から。
「歓」は喜ばせること。

孔子が弟子である子路(しろ)に孝行を説いた故事から。

(12)噬指棄薪(ぜいしきしん)

母と子の気持ちが通じ合うことです。

「噬指」は指をかむこと、「棄薪」は薪を放り出すことです。

「指を噬(か)みて薪(たきぎ)を棄(す)つ」と訓読します。

(13)全生全帰(ぜんせいぜんき)

人のからだは親から授かったものだから、一生大切にして傷つけないことが本当の親孝行であるということです。

「全」は欠けたところがないという意味。「帰」はもとあるところに落ち着くこと。欠けたところなく生んでもらったのだから、そのまま親に返すということです。

昔、楽正子春(がくせいししゅん)という人物が足にけがをした。けがはすぐ治ったのに毎日浮かない顔をしていた。そのわけを尋ねると、「私は『親は完全なからだを子に与えているのだから、完全な形で返すことが親孝行というべきである』という孔子の言葉に背き、からだを傷つけてしまった。」と嘆いた故事から。

(14)扇枕温衾(せんちんおんきん)

両親を大切にすることです。

夏は親の枕元で、扇であおいで涼しくし、冬は自分の体温で親の布団を温めて、親が過ごしやすいようにするということから。

「枕を扇(あお)ぎ衾(ふすま)を温(あたた)む」と訓読します。

(15)冬溫夏凊/冬温夏清(とうおんかせい)

親孝行をすることのたとえです。

冬は暖かく、夏は涼しく過ごせるように環境に配慮することから。

(16)斑衣之戯(はんいのたわむれ)

親孝行することのたとえ、または孝養を尽くすことのたとえです。

「斑衣」は子どもが着るような派手な模様の服のこと。

楚の老莱子は七十歳になっても、子供用の服を着て子どものように戯れ、親を喜ばせて年老いたことを忘れさせようとした故事から。

(17)反哺之孝(はんぽのこう)

親の恩に子が報いること、親孝行することのたとえです。

「反哺」は食べ物を返すこと。

中国の伝説で、烏は六十日で成鳥になり、その後は親鳥に六十日の間、親に餌を与えるということから。

(18)望雲之情(ぼううんのじょう)

遠くの地にいる故郷の父母を思う心情のことです。

唐の時代、狄仁傑という人物が、大公山に登って、白い雲が流れるのを見て、あの雲の下に父母がいると語り、長い間たたずんでいた故事から。

(19)養志之孝(ようしのこう)

親の心や気持ちを汲み取って、体だけでなく心も満たす親孝行のことです。

「養志」は親の志を養うという意味。

3.親から子へ

(1)一子相伝(いっしそうでん)

学問や技芸などの秘伝や奥義を、自分の子供の一人だけに伝えて、他には秘密にして漏らさないことです。

「相伝」は代々伝えること。

(2)過庭之訓(かていのおしえ)

家庭での教育のことです。父親からの教えという意味から。

「過庭」は庭を横切ること。

孔子は、自分の息子の鯉(り)が庭を横切るときに呼び止めて、詩や礼を学ぶことの大切さを諭し、鯉もそれによく従ったという故事から。

「庭訓」と略すこともあり、「過庭之教」とも書きます。

(3)父子相伝(ふしそうでん)

学問や技芸などの奥義を、父から子だけに伝えていくことです。

「相伝」は代々伝えること。

4.家族同居・子孫繁栄

(1)瓜瓞綿綿(かてつめんめん)

一族が長く続くことで、子孫の繁栄を願う言葉です。

「瓜」は大きい瓜(うり)。「瓞」は小さい瓜。「綿綿」は途切れることなく続いている様子。

一つの蔓(つる)から大小様々な瓜が実り、途切れることなく続くことから。

(2)三世一爨(さんせいいっさん)

三つの世代の家族が一つの家で一緒に住むことです。

「爨」はかまどのこと。

三世代の家族が、一つのかまどを共有して食事を作るということから。

(3)螽斯之化(しゅうしのか)

子宝に恵まれ、子孫が栄えることです。

「螽斯」は虫のいなごのことで、一度の産卵でたくさんの卵を産むとされていることから、子孫が栄えることの象徴とされています。

(4)蘭薫桂馥(らんくんけいふく)

子孫が繁栄することのたとえです。

植物の「蘭」と「桂」が立派に成長して香り立つという意味から。

(5)蘭桂騰芳(らんけいとうほう)

子孫が繁栄することのたとえです。

植物の「蘭」と「桂」が立派に成長して香り立つという意味から。

(6)累世同居(るいせいどうきょ)

数世代の子孫が同じ家に同居することです。

「累世」は代々または世を重ねるということ。「同居」は同じ家に一緒に住むこと。