揺れる気持ちを表す四字熟語(その4)望郷・別れの辛さ・孤独

フォローする



越鳥南枝

漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。

そこで今回は、「揺れる気持ち」を表す四字熟語のうち、「望郷」「別れの辛さ」「孤独」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。

1.望郷

(1)越鳥南枝(えっちょうなんし)

中国南方の越の国から渡ってきた鳥は、巣を作るとき故郷を思って南の枝にとまるという意から、故郷を懐かしみ忘れがたく思う気持ちのたとえ。また、望郷の念にかられること。

「越鳥」は、中国南方の越の国に生まれた鳥。出典(『文選(もんぜん)』古詩十九首)の「胡馬(こば)は北風(ほくふう)に依(よ)り、越鳥は南枝に巣くう」による。

(2)狐死首丘(こししゅきゅう)

故郷を忘れないことのたとえ。また、物事の根本を忘れないことのたとえ。

「首」は、頭を向けること。狐は死ぬとき、自分のすんでいた穴のある丘の方角に頭を向けるという意から。

「狐(きつね)死(し)して丘(おか)に首(かしら)す」と訓読する。

(3)胡馬北風(こばほくふう)

故郷を懐かしむことのたとえ。また、望郷の念にかられること。

「胡馬(こば)、北風(ほくふう)に依(よ)る」「胡馬(こば)、北風(ほくふう)に嘶(いなな)く」の略。

「胡馬」は胡(中国北方・西方の遊牧民の住む土地)の馬の意。胡で生まれ育った馬は、他の地方に行っても、北風が吹くと風に身をまかせて、風が吹いてくる方角にある故郷を懐かしむということから。

(4)蓴羹鱸膾(じゅんこうろかい)

故郷を懐かしく思い慕う情のこと。

「蓴羹」は蓴菜(じゅんさい)の吸い物。「羹」はあつもの・吸い物。「鱸膾」は鱸(すずき)のなますの意。

中国晋(しん)の張翰(ちょうかん)が、故郷の料理である蓴菜の吸い物と鱸のなますのおいしさにひかれるあまり、官を辞して帰郷した故事から。

(5)黍離之歎/黍離之嘆(しょりのたん)

国が滅んだことへの嘆き。

「黍離」は『詩経』「王風」の詩篇の名称。

中国の東周の大夫が、西周の宮殿の跡地が荒地になっているのを見て嘆いて作った詩といわれている。

(6)楚囚南冠(そしゅうなんかん)

捕虜として捕らわれていても、祖国のことを忘れないこと。
または、捕らわれて他国にいる人のこと。

「楚囚」は他国に捕らわれた楚の国の人。
「南冠」は南方にある国の様式の冠で、この場合の南方は楚の国のことをいう。

中国の春秋時代、楚の鐘儀は晋に捕らえられていても、祖国である楚の国の冠をいつも被っていたという故事から。

(7)池魚故淵(ちぎょこえん)

池の魚は生まれた池を懐かしく思うということから、故郷を懐かしく思うこと。

2.別れの辛さ

(1)愛別離苦(あいべつりく)

親愛な者と別れるつらさ。親子・夫婦など、愛する人と生別または死別する苦痛や悲しみ。仏教でいう、八苦(*)の一つ。

(*)仏語。人間の八つの苦しみ。生・老・病・死の四苦に、愛別離苦・怨憎会苦 (おんぞうえく) ・求不得苦 (ぐふとくく) ・五陰盛苦 (ごおんじょうく) を加えたもの。

(2)河梁之吟(かりょうのぎん)

親しい友人を見送るときの離れたくないという気持ち。

「河梁」は川を渡るための橋。

中国の漢の時代、異民族の匈奴(きょうど)に捕まった李陵(りりょう)が、一緒に捕まっていた蘇武(そぶ)が国に戻る時に送った詩から。

(3)河梁之別(かりょうのわかれ)

送別のこと。親しい人を送るときの別れがたい気持ちのこと。もとは人を見送って橋の上で別れる意。

中国前漢時代、匈奴に捕らわれていた李陵が、同じく捕らわれていた蘇武が中国本土に帰るときに惜別の詩を送ったという故事から。

(4)牽衣頓足(けんいとんそく)

非常につらい別れを惜しむことの形容。もと出征する兵士の家族が、兵士の服にすがり引き留め、足をばたばたさせて別れを悲しむ意から。

「牽衣」は服にすがり引っぱること。「頓足」は足をばたばたさせる。地団駄をふむ。

「衣(い)を牽(ひ)き足(あし)を頓(とん)す」と訓読する。

(5)生離死別(せいりしべつ)

人の世の中でもこのうえない悲しい別れ。非常に悲しい生き別れと死に別れ。

「生離」は生きながらの別れのこと。「死別」は死によって永遠に別れてしまうこと。

(6)朝有紅顔(ちょうゆうこうがん)

人の一生は変わりやすく、儚いことのたとえ。

「紅顔」は色つやのよい顔ということから、若い人のたとえ。

「朝(あした)に紅顔有りて夕べに白骨となる」を略した言葉で、朝に元気な若者だった人が、夕方には死んで白骨になるという意味から。

3.孤独

(1)一雁高空(いちがんこうくう)

群れから離れた一匹の雁が、他よりも高く飛んでいる様子。

他よりも飛びぬけて優れていることのたとえ。

(2)形影相弔(けいえいそうちょう)

「形影」は、からだとその影のこと。転じて、常に寄り添って離れないもののたとえ。

「弔」は、慰めること、あわれむこと。だれも慰めてくれる者がいないので、自分のからだとその影で互いに慰め合うしかないという意から。

「形影(けいえい)相(あい)弔(とぶら)う」と訓読する。

(3)形単影隻(けいたんえいせき)/影隻形単(えいせきけいたん)

独りぼっちで孤独なこと。独り身で助けてくれる人のいないこと。からだも一つ、影も一つの意から。

「形」はからだのこと。「隻」は一つの意。

(4)孤影悄然/孤影蕭然(こえいしょうぜん)

一人ぼっちでさびしげなさま。一人だけで悲しむさま。

「孤影」は一人ぼっちでさびしげな姿。「悄然」は憂い悲しむさま。物さびしいさま。

(5)孤影飄零/孤影漂零(こえいひょうれい)

資産や地位、身分などを失い、孤独でさびしげな様子。

「孤影」は一人きりでさびしげな様子。「飄零」は落ちぶれること。

(6)蕭条無人(しょうじょうむにん)

人が一人もいなくて寂しいこと。

「蕭条」は静かで寂しい様子。

「蕭条(しょうじょう)として人無し」と訓読する。

(7)凄凄切切(せいせいせつせつ)

きわめて物さびしいさま。

「凄切」がきわめて物さびしいさま。それを重ねて、さらに意味を強調した四字句。

(8)枕冷衾寒(ちんれいきんかん)

一人で寝ることの寂しさを言い表す言葉。

「衾」は掛け布団のこと。枕も掛け布団も冷たくて寒いということから。

「枕冷ややかに衾(しとね)寒し」と訓読する。

(9)天涯孤独(てんがいこどく)

身寄りがひとりもなく、ひとりぼっちであるさま。また、故郷を遠く離れて、ひとりぼっちで暮らすさま。

「天涯」は空の果て。また、非常に遠い所の意。

(10)道傍苦李(どうぼうのくり/どうぼうくり)

誰からも関心を示されずに見捨てられたもののたとえ。

「道傍」は道端のこと。「苦李」は苦い味のすもも。

道端にある誰の物でもないすももの木に実がなっていても、苦いすももは誰もとろうとしないという意味から。

中国の三国時代の賢者の王戎が、多くの人が道端のすももをとり合っていたが、王戎はとろうとしなかったという故事から。

(11)満目荒涼(まんもくこうりょう)

見渡す限り、荒れ果ててさびしいさま。

「満目」は見渡す限り、あたり一面の意。「荒涼」は荒れ果てて物さびしいさま。

(12)満目蕭条(まんもくしょうじょう)

見渡す限り、物さびしいさま。

「満目」は見渡す限り、あたり一面の意。「蕭条」は物さびしいさま。

(13)満目蕭然(まんもくしょうぜん)

目で見える全てが物寂しい様子。

「満目」は見ることができる全て。見渡す限り。「蕭然」はどことなく寂しい様子。

(14)門前雀羅(もんぜんじゃくら)

門の前に網を張って雀を捕まえることができるほど訪問者もなく、人の往来もない寂れたさま。

「雀羅」は雀を捕まえるときに使う霞網(かすみあみ)のこと。「羅」は「網」に同じ。

「門前雀羅を設(もう)くべし」の略。

(15)離群索居/離羣索居(りぐんさっきょ)

仲間と離れて一人で孤独にいること。山里でわび住まいをすること。

「群」は仲間、「索」は寂しい、離れる意。「索居」は寂しく一人でいること。