社会との関わりを表す四字熟語(その1)人の上に立つ心得

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遏悪揚善

漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。

そこで今回は、「社会との関わり」を表す四字熟語のうち、「人の上に立つ心得」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。

1.人の上に立つ心得

(1)遏悪揚善(あつあくようぜん)

悪い行いには罰則を与えて禁止し、善い行いには褒賞を与えて奨励すること。

「遏悪」は悪い行いを禁止したりとどめたりすること。
「揚善」は善い行いを奨励したり誉めたりすること。

「悪(あく)を遏(とど)め善(ぜん)を揚(あ)ぐ」と訓読します。

(2)晏嬰狐裘(あんえいのこきゅう)

高い身分にありながらも倹約に努め、職務に励むこと。人の上に立つ者の心得を説いた言葉。

「晏嬰」は人の名前。「狐裘」は狐(きつね)のわきの下に生えている白い毛皮で作られた高級な衣のこと。

中国の春秋時代の宰相「晏嬰」は、一つの高級な狐の衣を三十年間着続けて、国を治めることに尽力したという故事から。

(3)一罰百戒(いちばつひゃっかい)

一人の罪や過失を罰することで、他の多くの人々が同じような過失や罪を犯さないよう戒めとすること。一つの罰で百人の戒めにする意から。

(4)一饋十起(いっきじっき)

一回の食事の間に、十度も席を立ち上がる意。熱心に賢者を求め迎えるたとえ。

「饋」は食事の意。「一饋(いっき)に十起(じっき)す」または、「一饋(いっき)に十(と)たび起(た)つ」と訓読します。

中国夏の禹王(うおう)が、善政を行う補佐となる賢者を熱心に求め、一回の食事中に十度も席を立って、食べるのをやめて訪ねてきた賢者に会い、一回髪を洗う間に、三度も髪を握ったまま訪問者に面会したという故事から。

(5)一世木鐸(いっせいのぼくたく)

人々の指導者のこと。「一世」はこの世にいる人たちのこと。

「木鐸」は木の振り子がついている大きな鈴のことで、古代中国では、法律や命令を人々に伝えるときに鳴らしていたということから、指導者のたとえ。

(6)一張一弛(いっちょういっし)/一弛一張(いっしいっちょう)

弦を強く張ったり、ゆるめたりすること。転じて、人に厳しく接したり、やさしく接したりすること。

政治家・上司、また教育者の心得で、時には厳格に、時には寛大に程よく人に接するべきことをいう。また、現在では取引所の用語として、相場が小幅に高下を繰り返すこと。

聖天子といわれる周の文王や武王が政治を行うのに、人民に、時には厳格に接し、時には寛大に接して心を緩やかにさせ、程よく人民に接して太平をもたらした故事から。

(7)一飽一襲(いっぽういっしゅう)

質素な服装と食事。

「一飽」は一度の食事で満腹になること。「一襲」は一式揃った衣服。
生活に困らない程度の衣服と食事ということから。

(8)偃武修文(えんぶしゅうぶん)

戦いをやめ、文教によって平穏な世の中を築くこと。

「偃武」は武器を伏せかたづける意。戦いをやめること。「偃」は伏せる意。「修文」は文徳を修めること。学問を修めること。

「武(ぶ)を偃(ふ)せ文(ぶん)を修(おさ)む」と訓読します。

(9)応機接物(おうきせつもつ)

相手に応じて、適切なやり方で教育、指導すること。

仏教の言葉で、「機(き)に応(おう)じ物(もの)に接(せっ)す」と訓読します。

(10)王道楽土(おうどうらくど)

公平で思いやりのある政治が行われている平和で楽しいところ。

「王道」は帝王として踏み行うべき道で、徳をもって、公明正大で公平な政治を行うこと。また、武力や威力によらず、仁徳のある帝王が、道徳によって天下を治めること。

「楽土」は安楽な土地・安楽な国のこと。

(11)応病与薬(おうびょうよやく)

人の性質や素質、理解力など状況に応じて適切な指導をすること。また、状況に応じて適切な措置を講じること。病状にあわせて、それに適した薬を与える意から。

もと仏教語。「病(やまい)に応(おう)じて薬(くすり)を与(あた)う」と訓読します。

(12)恩威並行(おんいへいこう)

人の上に立つ者は、適切な賞罰をはっきりと行うことが必要だということ。飴と鞭を適切に用いること。

「恩威」は恩恵と刑罰、賞罰。また、恩恵と威厳。「並行」は並び行う意。

「恩威(おんい)並(なら)び行(おこな)う(行わる)」と訓読します。

(13)解衣推食(かいいすいしょく)

人に恩を施すたとえ。人を深く思いやるたとえ。また、人を重用すること。自分の着衣を脱いで着せ、自分の食べ物をすすめて食べさせる意から。

「推」はおしすすめる意。「衣(い)を解(と)き、食(しょく)を推(お)す」と訓読します。

漢王の劉邦が韓信に楚の項王を討たせようとしたとき、項王は使者を送って味方になるよう説得したが、韓信は「以前、項王に仕えたときは自分の進言も策略も取り上げてくれなかった。今仕えている漢王は、進言も策略も聞き入れてくれたばかりか、自分を将軍として数万の軍隊を与えてくれたうえ、自分の衣を解き、食を推(すす)めてくださった」と言って断ったという故事から。

(14)下意上達(かいじょうたつ)

下の者の気持ちなどが、上の者によく通じること。また、下々の者のことが朝廷や為政者などの耳に届くこと。

「下意」は下々の者の気持ちや考え。「上達」は上の者に達する、届く意。

(15)誨人不倦(かいじんふけん)

手を抜かずにしっかりと人を教え導くこと。「誨」は教えるという意味。

相手が理解するのに時間がかかっても、諦めずに教えることをいう。

「人(ひと)を誨(おし)えて倦(う)まず」と訓読します。

(16)塊然独処(かいぜんどくしょ)

独りきりで動かず静かにしていること。

「塊」は土の塊のことで、「塊然」は動かずに独りきりでいる様子。
「独処」は独りきりで静かにしていること。

『荀子』にある天子の理想を述べた一節のことで、見ようとしなくても見え、聞こうとしなくても聞こえ、考えようとしなくても理解でき、動こうとしなくても功績が上がるために、独りで座っているだけで世の人々が自然につき従うので、一つの身体のようであるということ。

「塊然(かいぜん)として独(ひと)り処(しょ)す」と訓読します。

(17)階前万里(かいぜんばんり)

天子が地方政治の実情をよく知っていて、臣下は天子を欺くことができないたとえ。万里の遠方の出来事も、手近な階段の前のことのように分かる意から。

「階前」は階段の前。宮殿の階段の前の意。

(18)苛政猛虎(かせいもうこ)

民衆にとって過酷な政治は人食い虎よりももっと恐ろしいということ。

「苛」は、いじめることで、「苛政」は、民衆をいじめるようなむごい政治のこと。

「苛政(かせい)は虎(とら)よりも猛(たけ)し」と訓読します。

(19)尭階三尺(ぎょうかいさんじゃく)

君主がつつましい生活をすることのたとえ。

古代中国の伝説の聖天子の宮殿は、土を固めただけの階段があり、高さは三尺ほどしかなかったということから。

君主の生活の理想とされている。

(20)九年之蓄/九年之儲(くねんのたくわえ)

国が豊かなこと。「蓄」は食料の貯蓄のこと。

国民の一人一人に、九年分の食料の貯蓄があるという意味から。

(21)君子自重(くんしじちょう)

学識があり、徳の備わった人格者は、自身の行動を慎んで、軽率な行動をしないこと。

「君子」は教養があり、高い徳がある人格者。
「自重」は慎んで、軽はずみな行動をしないこと。

(22)経世済民(けいせいさいみん)

世の中をよく治めて人々を苦しみから救うこと。また、そうした政治をいう。

「経」は治める、統治する。「済民」は人民の難儀を救済すること。「済」は救う、援助する意。「経世済民」を略して「経済」という語となった。

(23)綱紀粛正(こうきしゅくせい)

国の法律や規則を引き締めて、不正を厳しく取り締まること。転じて、一般に規則を厳しく適用して不正行為をなくすこと。

「綱」は、大きな綱。「紀」は、小さな綱。「綱紀」は、国を治めるための法律や規則のこと。「粛正」は、厳しく取り締まって、不正を正すこと。

(24)載舟覆舟(さいしゅうふくしゅう)

君主は人民によって支えられ、また、人民によって滅ぼされること。

君主は人民を愛し、政治に安んじさせることが必要であるということをいう。また、人は味方して盛り立ててくれることもあれば、敵となってつぶしにかかることもあるということ。

水は舟を浮かべるものであるが、同時に舟を転覆させもする意。君主を舟、民衆を水にたとえたもの。

「舟(ふね)を載(の)せ舟(ふね)を覆(くつがえ)す」と訓読します。

(25)車轍馬跡(しゃてつばせき)

政治を行う人が全国の隅から隅まで巡り歩くこと。

「車轍」は通った跡に残る車輪の跡。「馬跡」は馬が通った跡に残る蹄の跡。

昔の政治家は、監督のために馬車で全国を巡り歩いたために、通った後に車輪や蹄の跡が残されたということから。

(26)舟中敵国(しゅうちゅうてきこく/しゅうちゅうのてきこく)

君主が徳を修めなければ、味方も敵になるということ。また、味方でも敵になることがあるたとえ。

味方の中にも敵がいるたとえとして用いられることがある。

利害を同じくする、同じ舟に乗っている者がみな敵になる意から。

(27)上医医国(じょういいこく)

すぐれた医者は、人の病気を治すだけではなく、国の乱れを正すものだということ。

「上医」はすぐれた技術をもつ名医という意味から、才能のある政治家のたとえ。

「上医(じょうい)は国(くに)を医(い)す」と訓読する言葉で、すぐれた政治家の心得をいう。

(28)宵衣旰食(しょういかんしょく)/旰食宵衣(かんしょくしょうい)

夜が明ける前から衣服を身に着けて夜遅くに夕食を取ることから、為政者が早朝から夜遅くまで懸命に政治に取り組むこと。

「宵」は夜が明ける前。「旰」は日が暮れる頃。または、深夜。

(29)信賞必罰(しんしょうひつばつ)

賞罰を厳格に行うこと。賞すべき功績のある者には必ず賞を与え、罪を犯し、罰すべき者は必ず罰するという意味。

「信賞」は間違いなく賞を与えること。「必罰」は罪ある者は必ず罰すること。

(30)垂拱之化(すいきょうのか)

天子の徳により民衆が感化されて、天子が何もしなくてもおのずと天下が平穏に治まること。

「垂拱」は袖を垂れて手をこまねくという意味から何もしないこと。
「化」は感化、教化されること。

(31)善巧方便(ぜんぎょうほうべん)

相手や状況に合わせたやり方を考えること。

「善巧」は上手いこと。「方便」はやり方。

仏教の言葉で、仏が人々に仏法を説く時のやり方をいうもので、相手の能力に合わせてやり方を変えるということから。

(32)僭賞濫刑(せんしょうらんけい)

程度が不適切な褒美と罰のこと。

「僭賞」は度を超えた褒美のこと。「濫刑」はむやみに罰を与えること。

(33)吮疽之仁(せんそのじん)

部下の苦労をねぎらって大切にすること。

「吮」は口で直接吸い出すこと。「疽」は悪性の腫物。

中国の戦国時代の楚の将軍の呉起は、悪性の腫物で苦しんでいる部下の血膿を吸い取ってやったという故事から。

(34)先憂後楽(せんゆうこうらく)

政治家は、人々よりも先に国のことを心配し、人々が楽しんだ後で自身も楽しむべきだということ。政治を行う者の心得を説く言葉。

また、先に苦労したり心配事をなくしたりしておけば、後で楽ができるという意味で用いられることもある。

「天下の憂いに先んじて憂い、天下の楽しみに後れて楽しむ」という北宋の范仲淹(はんちゅうえん)が言った言葉を略したもの。

東京都と岡山県にある日本庭園「後楽園」の語源。

(35)草偃風従(そうえんふうじゅう)

君主の徳によって自然と民衆が従うこと。

「草偃」は草がなびくことで、風が吹けばそれに従い草がなびくという意味。

(36)草満囹圄(そうまんれいご)

平和に治まっていて、よい政治が行われ、犯罪がないことのたとえ。

「草満」は草が生い茂ること。「囹圄」は牢屋のこと。

犯罪を犯す人がいないために、牢屋が使われることなく、牢屋に草が生い茂るという意味から。

「草(くさ)囹圄(れいご)に満(み)つ」と訓読します。

(37)対機説法(たいきせっぽう)

相手の事情や、能力に合わせて説法を変えること。

「機」は教えを受ける人の才能や能力のこと。

「機(き)に対(たい)して法(ほう)を説(と)く」と訓読します。

(38)対症下薬(たいしょうかやく)

病状に応じて薬を処方すること。問題点を確認したうえで、有効な解決方法を講ずることのたとえ。

「対症」は病気の種々の症状に応ずる意。「下薬」は薬を与えること。

「症(しょう)に対(たい)して薬(くすり)を下(くだ)す」と訓読します。

(39)大人虎変(たいじんこへん)

すぐれた賢者が、時の流れに合わせて、日に日に自己変革すること。または、すぐれた統治者の制度変革によって、古い制度が新しくてよりよい制度に改められること。

「大人」は徳があって立派な人、「虎変」は虎の毛が美しく立派に生え変わることから、変化や改革を見事にすることのたとえ。

(40)度徳量力(たくとくりょうりき/たくとくりょうりょく)

自分の徳を量り、信望や力量を確かめ、事に当たること。身のほどを知ること。為政者が人々に信頼される人格と、政治を行う能力をもっているかどうか推し量ること。

「度」「量」はともにはかる意。

「徳(とく)を度(はか)り、力(ちから)を量(はか)る」と訓読します。

(41)天高聴卑(てんこうちょうひ)

帝王は高い場所にいるが、地上にいる普通の人々のことも聞いてよく知ることができるということ。

帝王の理解力や判断力がすぐれていることをいう。

「天高(てんたか)きも卑(ひく)きを聴(き)く」と訓読します。

(42)冬日之温(とうじつのおん)

君主から臣下への恩恵は、寒い冬の日の陽光のように優しく暖かいということ。

「冬日」は冬の日の太陽の光。「温」は暖かく心地よいこと。

(43)博施済衆(はくしさいしゅう)

出来る限りたくさんの人々に恵を与え、一人でも多く苦しみから救うこと。

「博施」は多くの人々に恩恵を与えること。「済衆」は多くの人々を救うこと。

政治を行う者の心得をいう言葉。

「博(ひろ)く施(ほどこ)し衆(しゅう)を済(すく)う」と訓読します。

(44)平明之治(へいめいのち)

公平で道理にかなった政治のこと。

「平明」は公平で道理に明るいこと。「治」は政治のこと。

(45)蒲鞭之政(ほべんのせい/ほべんのまつりごと)

思いやりのある政治を行うこと。

「蒲鞭」は植物の蒲の穂の鞭。

刑罰に柔らかく痛みを与えない蒲の穂の鞭を使い、辱めを与えるだけの政治ということから。

(46)耀蝉之術(ようぜんのじゅつ)

政治を行う者が自身の持つ徳を示すことで、その徳を慕って人々が自然に集まるようにすること。

「耀」は輝くようにする、はっきりと分かるようにするということ。「蝉」は昆虫のせみ。

明かりをつけると、その明かりに蝉が集まってくるので、集まってきた蝉を捕まえるということから、君主が徳を示して人々を従わせることをいう。

(47)利用厚生(りようこうせい)

物事を十二分に活かして、人々の生活を豊かにすること。

「厚生」は国民の全ての生活を豊かなで健康なものにすること。

政治の秘訣を説いた言葉。

(48)量才録用(りょうさいろくよう)

各々の能力をしっかりと見据えて、能力を生かせる地位に登用すること。

「量才」は能力を量ること。「録用」は採用すること。

「才(さい)を量(はか)りて録用(ろくよう)す」と訓読します。