人事の2020年問題では、内部留保増加に比べ低い労働分配率の向上が最重要!

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内部留保2020

最近、人事の「2020年問題」というのがあちこちで話題になっています。これは、「『バブル世代・団塊ジュニア世代(現在44歳~53歳)が、管理職年齢となり賃金水準がピークになるのに対し、それに見合うポストが足りないという問題です。

同様のことは、我々「団塊世代」の時にも起こりましたが、その際の対応を振り返ると共に、今回の「バブル世代・団塊ジュニア世代」の対処法について考えて見たいと思います。

1.団塊世代の場合の対応

「団塊世代」の場合の対応は下記のとおりでした。

(1)「早期退職の奨励」「セカンドキャリアの奨励」と「割増退職金」の支払い

(2)残った「団塊世代」社員の賃金水準の引き下げ

(3)関係会社への「出向者」を会社本体から切り離し、「転籍」させる

(4)福利厚生の削減・廃止

全ての民間企業がそうだったかわかりませんし、公務員の場合はどうなのかは部外者なので分かりませんが、私の経験をお話しします。

55歳で最初の「定年」を迎えた時点で、既にボーナスの削減などを含めて給与水準の引き下げが行われており、第二の職場で「フルタイム」で働いた時の給料は、「定年前」の6割くらいで、60歳になると、年金の一部支給が開始されるということで、さらに2割くらい減らされましたので、「定年前」の半分弱になってしまいました。今は「派遣社員」ということで月14日勤務ですが、月収は小遣い程度です。

かつてのように、毎年ベースアップと定期昇給があった時代に比べて、バブル崩壊後のかなり早い段階から、多分40代の頃から賃金水準は「頭打ち」か「切り下げ」に変わっていたのです。

1985年9月の「プラザ合意」により、「円高」が進行しました。円高不況対策として日銀は公定歩合を引き下げるなどの大幅な金融緩和を実施したため「過剰流動性」が生まれ、「バブル景気」は始まります。絶頂期は1989年12月29日に日経平均株価が38,915円という「史上最高値」を付けた時でしょう。

バブルが弾けたのは1991年です。大蔵省が1990年3月に「土地融資の総量規制」という金融引き締め策を発動し、日銀の三重野総裁が、1990年8月に公定歩合を6%に大幅に引き上げたことで、景気に急ブレーキをかけたのが原因です。1991年には「地価税法」が施行され、バブル崩壊(クラッシュ)を決定的にし、「失われた20年」をもたらしました。もう少し「ソフトランディング」させる政策判断をすべきだったと私は思います。

このように、我々「団塊世代」の場合は、給与が減り、将来の年金受給に対する不安もありましたので、個々の家庭では「家計の引き締め」が行われ、「節約志向・安値志向で、少しでも余力があれば貯蓄に回す」ことになりました。当然の結果として、デフレが長く続くことになった訳です。

一方、アメリカのFRBは、この日本の政策失敗による急激なバブル崩壊を教訓として、2000年にネットバブルが崩壊し始めると素早い「金融緩和」で対応したため、アメリカ経済は順調に拡大を続けました。

2.バブル世代・団塊ジュニア世代への対処法

「バブル世代・団塊ジュニア世代」は年齢構成が「団塊世代」より広いため、総労働人口は「団塊世代」が同年代の頃より多くなっています。彼らへの対処法としては、次のようなことが考えられます。

(1)企業の経営者は、「製品価格引き上げ」などで、売上が多少低下しても利益の出る体質にして、「労働分配率の向上」(労働者に対する賃金引上げ)に努める。現状でも、好業績で、それに見合った給与を支給していない企業は率先して賃上げを行う

(2)その上で、50歳までの時点で、「実体のあるポストを与える『ライン』社員」と、「名目上の肩書だけ与える『スタッフ』社員」とに、社員を振り分ける

(3)実体のある「ポスト」の数には限度があるため、名目上同様の「肩書」を与える。具体的には、「課長待遇」、「次長待遇」、「部長待遇」や「部付部長」などの肩書とする。これらの社員については、賃金水準上昇を低くする。利益が出る体質になったら、さらに賃金引上げを行う

(4)「実体のあるポストを与える『ライン』社員」については、従来通りのペースまたはそれ以上のペースで昇給を続ける

(5)今年は「副業解禁元年」と言われるが、「副業」を大々的に認め、「名目上の肩書だけ与える『スタッフ』社員」の収入を補完させるとともに、「セカンドキャリア」としての展望も持たせる

このように、給与支給総額を抑制する従来の人事政策は取らずに、会社として、価格の引き上げなどで利益の出る体質に改善することが先決と思います。現実には、現時点でも内部留保に固執しなければ「賃上げ余力のある企業」は沢山あると思います。

これは、私が以前から思っていることなのですが、中国や韓国との価格競争で、日本製品の価格を低く抑え過ぎているため、労働者に十分な報酬を与えられない企業体質になって久しいと思いますが、この辺で「メイドインジャパン」の価値を前面に出して、思い切った価格引き上げに舵を切るべきではないでしょうか?

現在、「バブル世代・団塊ジュニア世代」のサラリーマンは、賃金の頭打ちや将来の年金支給時期の先送りなどの不安を抱えていると思います。安倍首相は経団連に賃金引上げを直接要請するなど思い切った行動を取っており、日銀も「インフレ目標率2%」を掲げています。しかし、企業経営者が従来のような総賃金抑制策を続けるなら、事態は改善しないと思います。

ここ最近の「労働分配率」(人件費/付加価値)は、歴史的な低水準が続いています。サラリーマンの多くが、「好景気」を実感できないのは当然です。この辺で、大企業の経営者は、自らの在任期間中の業績低下を気にすることなく、賃上げを断行して、サラリーマンを始め首相や日銀の期待に応えるべきではないでしょうか?それが中小企業にも波及すれば理想的です。「バブル世代・団塊ジュニア世代の賃金水準ピーク」というピンチをチャンスに変える時だと思います。

そして、蛇足ですが、日本銀行には行き過ぎた「ゼロ金利政策」「マイナス金利政策」は即刻取りやめて、徐々に金利上昇を図るべきだと思います。現在、大多数の預金者も、銀行も「実質預金金利ゼロ」が長く続いていることに不満が鬱積しています。もし、消費拡大でインフレ率2%を目指しているのであれば、アメリカのFRBのような柔軟な考え方で、速やかに政策転換を行うべきだと考えます。