一昨年、北朝鮮はミサイル発射や核実験によるアメリカへの軍事的挑発を繰り返しました。最近は韓国の文在寅大統領の「北朝鮮との融和への前のめり姿勢」とトランプ大統領の「米朝会談への積極姿勢」で、アメリカと北朝鮮との「一触即発の軍事的対立」は小康状態になっています。
しかし、北朝鮮は昨年の平昌五輪の「微笑み外交」の陰で、核開発を継続していましたし、今後も核を放棄することはあり得ないと私は思います。
一方で最近は、米中の貿易戦争・サイバー戦争、米ロの核軍拡競争・サイバー戦争、米中ロの「覇権国家」争いなど国際的な緊張関係が続いており、「第二次冷戦(Second Cold War)」「新冷戦時代」とも呼ばれています。
現在のこのような国際政治・国際関係を理解するために、過去の歴史を振り返ることは有意義なことです。
今回は、太平洋戦争での「ABCD包囲網」と、終戦直前の「原爆投下と無条件降伏」について考えて見たいと思います。
1.ABCD包囲網
日本・ドイツ・イタリアの「枢軸国」と、アメリカ・イギリス・中国・オランダによる「ABCD包囲網」の対立の構図は、たとえが悪いかも知れませんが、北朝鮮・ロシア・中国の3国と欧米や日本などの民主主義連合との対立の構図と似ている感じがします。
「石油禁輸」などの経済制裁(経済封鎖)で日本を追い詰めた連合国は、日本が「窮鼠猫を嚙む」ように戦争に訴えざるを得ないように仕向けたとも言えます。石油がなければ、戦車も戦闘機も戦艦も動かせません。このままでは、「中国からの全面撤退・利権の全面放棄」だけでなく「植民地支配」が待っていたかもしれません。
アメリカのルーズベルト大統領は、日本が中国での利権を独占することが許せなかったので、日本を徹底的に追い詰めたのです。
アメリカやロシア・中国などが核武装をしておきながら、北朝鮮の核開発を阻むのは理不尽だとする北朝鮮の主張には一理あります。
なお、北朝鮮に対する「経済制裁」は、ロシアと中国の後ろ盾があるので、実質的には「尻抜け」になっています。
元駐韓大使の武藤正敏氏によれば、最近では韓国の文在寅政権による「経済制裁逃れの北朝鮮支援」が行われているとのことです。また「人道支援」という美名の援助も「金正恩体制」の延命を助けています。
最近も、中国吉林省に住む「取材協力者」からの「現地報告」として「中朝間の国境である二つの河川(鴨緑江と豆満江)が完全に凍結している12月末~3月中旬の厳寒期に、中国から北朝鮮への密輸が大規模に行われている。自動車に鉄鋼材、医薬品まである。」とのニュースがありました。「尻抜け」の具体的な証拠です。
2.原爆投下と無条件降伏
日本は、終戦までに水面下で、何度もアメリカと和平条件交渉を進めていたそうです。しかし、アメリカはこれをずっと無視し、無理難題の「無条件降伏」しか飲めないと拒否し続けました。そして、トルーマン大統領の指示によって広島・長崎への「原爆投下」となる訳ですが、これは明らかに軍人でない多数の無辜の国民を殺傷し、軍用施設以外の建物を破壊する「国際法違反」の行為です。
これは、戦後世界の覇権がアメリカにあることを誇示したいルーズベルト大統領の「狂気の沙汰」だったようです。
日米開戦に向けた「ハル・ノート」という無理難題の最後通牒を使った画策とその結果の「真珠湾攻撃」にしても、終戦に向けた「無条件降伏」という無理難題による画策とその結果の「原爆投下」にしても、ルーズベルト大統領の卑怯でずる賢い策略がもたらしたものです。
日本が敗れたため、日本の首相や軍人などが、「A級戦犯」「BC級戦犯」という汚名を着せられて、処刑されたり処罰されていますが、これは「勝者による一方的な軍事裁判(Victor’s justice)」だからです。「勝てば官軍負ければ賊軍」です。
もしアメリカが敗れていたら、日本が「極東軍事裁判」のような一方的な裁判をしたかどうかわかりませんが、同様の裁判をすれば、東京・大阪・名古屋などへの空襲(都市部などへの無差別爆撃で多数の市民を殺傷し、家屋などを破壊した空襲)を指示したルーズベルト大統領、原爆投下を指示したトルーマン大統領や多くの軍人が処刑されていたでしょう。
公平に「国際法」に照らして、「戦争犯罪」を断罪するのであれば、アメリカだけでなく、ソヴィエトにもスターリンという「戦犯」は明らかに存在しますが、「勝てば官軍」で不問に付されています。
3.極東軍事裁判
私には、「極東軍事裁判」(東京裁判)において、連合国が派遣した判事の一人であるインドの法学者・裁判官のラダ・ビノード・パール判事(1886年~1967年)が、唯一人「良心的な裁判官」であったのが印象的です。
ほかの判事たちが、連合国首脳の意向を忖度して、全員一致の有罪判決を目指す動きに反対し、「平和に対する罪と人道に対する罪」という罪名は、戦勝国によって作られた「事後法」であり、事後法を以って裁くことは国際法に反するなどの理由で、「被告人全員無罪」の意見書(通称「パール判決書」)を提出した人です。
ところで、「A級戦犯」「BC級戦犯」という言葉が、当たり前のように「独り歩き」していますが、皆さんはその本当の意味をご存知でしょうか?
これは、1945年8月8日にアメリカ・イギリス・フランス・ソ連の4カ国がロンドンで調印した「国際軍事裁判所憲章」(「国際軍事裁判所条例」とも呼ばれる)のa項(平和に対する罪)、b項(戦争犯罪)、c項(人道に対する罪)にある罪名に当たる戦犯ということで勝手に作ったものです。
a項は、侵略戦争あるいは国際条約・協定・誓約に違反する戦争の計画、準備、開始、あるいは遂行、またこれらの各行為のいずれかの達成を目的とする共通の計画あるいは共同謀議への関与
b項は、戦争の法規または慣例の違反。これは占領地所属あるいは占領地内の一般人民の殺害、虐待、奴隷労働その他の目的のための移送、俘虜、または海上における人民の殺害あるいは虐待、人質の殺害、公私の財産の略奪、都市町村の恣意的な破壊または軍事的必要により正当化されない荒廃化を含む。ただし、これらは限定されない
c項は、犯行地の国内法の違反であると否とを問わず、裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として、あるいはこれに関連して行われた、戦争前あるいは戦争中に全ての一般人民に対して行われた殺害、殲滅、奴隷化、移送及びその他の非人道的行為、もしくは政治的、人種的または宗教的理由に基づく迫害行為
これらの罪を公平に裁くのであれば、アメリカによる「日本本土空襲」や「原爆投下」「日系人の強制収容」、ソ連による「日ソ不可侵条約(日ソ中立条約)違反の侵略・不法占拠」「シベリア抑留と強制労働」も、厳しく断罪されなければなりません。
極論かも知れませんが、もっと言えば、欧米の帝国主義列強の「植民地政策」もこれに該当するわけで、欧米諸国は、植民地とされた国々に対して、子々孫々まで賠償と謝罪をし続けなければならないのではないでしょうか?
4.軍部・日本政府の誤算
蛇足ですが、日本がアメリカとの物量の差を正しく認識していれば、いくら追い詰められても、戦争が不可避だったとしても、早期に戦争終結を目指したことでしょう。しかし、緒戦の勝利に酔って戦線を拡大し過ぎた訳です。孫子の「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ということですね。
また、戦術的には、戦艦大和のような「大艦巨砲主義」は、「航空母艦」と「戦闘機軍団」による近代戦争の戦法とは相いれない「時代錯誤の産物」でした。昔の日本の戦いにたとえれば、刀や長槍で鉄砲隊に対抗しようとするようなもので、勝敗は明らかです。
最後には、補給線のない「延びきった戦線」の中で、木製の戦闘機や、片道だけの燃料しかない特攻機を飛ばすなど自滅への道をまっしぐらでした。
ところで、日本が敗戦後、GHQ(アメリカ)に占領されたことは、南北朝鮮や南北ベトナムのように、ソ連が北半分、アメリカが南半分を支配する国にならずに済んだという意味では、不幸中の幸いだったかもしれません。ソ連による占領であれば、今の日本は「共産主義国」となり、日本国民は戦前よりも悲惨な状況に追い込まれたかもしれません。