今年5月の10連休後に、退職代行サービスの「EXIT」には代行依頼が急増したという話を聞きました。また最近では、夏休み前に利用が急増し、夏休み明けの予約が殺到しているという話も聞きます。退職代行サービスは、2018年から一般的に使われるようになったサービスです。
「五月病」や「長期休暇」の後で会社に行きたくなくなる人が増えたのかと思ったら、大半はそうではなく、「人手不足企業に勤めている人で、『低賃金』や『長時間労働』などの理由で会社を辞めたいが、会社からは引き留められるので本人からは言いだしにくい」というのが急増の理由だそうです。
1.人手不足企業
中小企業はもちろんですが、大手企業でも介護・看護業界、運送業、建設業、情報通信・情報サービス業、販売・飲食業などでは、人手不足が深刻で、現有勢力が少しでも欠けると、業務運営に支障をきたす状況のようです。
このような企業にとっては、せっかく数年間の教育を施してやっと戦力になったと思ったら「辞めます」では、「とんでもない」という話になるのも無理はありません。
中には、「教育に多額の金をかけてここまで育てたのに、今やめられたら損が出る。損が出たら賠償請求する」と執拗に引き留める会社もあるようです。
会社を辞めさせてもらえず、精神的に追い詰められたという人も出ているようです。
全国の労働局に寄せられる相談でも、最近は「解雇」よりも「退職」に関するものが多くなっているそうです。
我々団塊世代が現役サラリーマンだったころと違って、「終身雇用制度」が崩壊寸前になった現在では、「転職」に対するハードルはかなり低くなっているようです。
2.人手過剰企業
一方、事務系サラリーマンの多い企業は、業界再編で合併を繰り返し、リストラを実施していても正社員が人員過剰になっている所が多いと思います。
このような企業では、「退職希望者」があれば「どうぞ、どうぞ」とウェルカムのはずです。
ただ、人員構成がいびつになっていて、中堅・ベテランが手薄になっているという問題を抱えている企業もあると思います。
3.退職代行サービスの問題点
退職代行サービスを行っているのは、民間業者では「EXIT」「SARABA」「辞めるんです」などがありますが、法律事務所でこのサービスを始めている所もあります。
(1)退職の法的位置づけ
期間の定めのない雇用契約の場合、「退職に会社側の承認は不要」です。民法627条1項(*)により退職の申し入れから2週間で自由に会社を辞められるのです。
(*)当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(2)退職代行サービスを民間業者が行うのは弁護士法に抵触する可能性
弁護士法では、弁護士以外の者が法律的交渉を行うことを「非弁行為」として禁じています。退職代行サービス業者の中には、弁護士法に抵触する業者もあるのではないかとの指摘も出ています。
ちなみに「EXIT」の新野俊幸共同代表は、「我々がやっているのは、退職に関する連絡の仲介です。我々はお電話をして『退職届をご本人が送っているのでご確認ください』と。こういうやり方であれば、非弁(行為)に当たらないと判断をして今、業務を行っている」と述べています。
ただそれだけなら、本人が退職届を郵送するだけとあまり変わらないと思います。会社への連絡が必要と思うのなら、家族か友人にでも頼めばいいような気がします。わざわざな「退職代行サービス業者」に依頼する意味があるのでしょうか?
もし、「内容証明郵便」で退職届を郵送しても、破棄されたり、受け取り拒否されたりする場合は、「労働基準監督署」に相談すべきです。
このような悪質な引き留めをするブラック企業については、「退職代行業者」の手には負えないと思います。弁護士に相談する前に公的機関である「労働基準監督署」に相談するのがベターです。