「超写実絵画」のリアルさには不思議な存在感があり、画家の超絶技巧が光る!

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上皇陛下夫妻

(野田 弘志)

最近、「超写実絵画」(あるいは単に「写実絵画」)というのが静かなブームを巻き起こし、注目を集めています。カメラのない時代であれば、「ありのままの姿を記録として残す」という意味はあったでしょうが、現在でもその意味はあるのでしょうか?

今回は、超写実絵画ならびに絵画の歴史についてご紹介したいと思います。

1.「超写実絵画」とは

超写実絵画は、ボタニカルアートと同様「対象の本質に迫る描写」が魅力です。これは、「写真とは似て非なるもの」です。

私が超写実絵画に初めて出会ったのは、1974年に京都・岡崎の京都国立近代美術館で開かれた「アンドリュー・ワイエス展」においてです。アンドリュー・ワイエス(1917年~2009年)は「アメリカン・リアリズム」の代表的画家です。彼はアメリカ東部の田舎に生きる人々を、やさしい眼差しで詩情豊かに描いていました。

アンドリューワイエス

(アンドリュー・ワイエス)

日本における写実絵画界のリーダーである野田弘志氏(1936年~ )は、平成天皇・皇后両陛下の肖像画を約4年の歳月をかけて平成30年に完成させたことで知られています。彼は著書「リアリズム絵画入門」の中で、次のように述べています。

写実絵画とは、物がそこにある(存在する)ということを描くことを通してしっかり確かめようとすること。物が存在するということの全てを二次元の世界に描き切ろうという、一種無謀とも見える絵画創造のあり方。物がそこにあるということを見える通りに、触れる通りに、聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描き切ろうとする試み。

写実絵画は写真のようだと言われることがありますが、写真は「一点から見た画面」すなわち「単眼」ですが、人間の目は「両眼」なので、視差によって遠近を知覚します。

しかも、写真とちがって、描く人それぞれの眼差し、感情というか情念が入って来ますので、何か「プラスアルファ」があるように思います。

その意味で「描いた人間の目で見たままを心で感じたままに」描いているのが写実絵画だと言えます。

なお、この「写実絵画」は、近年アメリカを中心に台頭した、「写真」を利用して克明に描く「スーパーリアリズム」とは一線を画しています。

私から見ると現代日本の超写実絵画は、西洋のボッティチェリ、ジョルジョーネ、アングル、フェルメールなどよりも技量の面で優れているようにさえ感じます。

私は、「超写実絵画」は、「絵画の原点への回帰」のように思います。これは、最近アニメ映画で、スタジオジブリの宮崎駿監督や、「君の名は」や「天気の子」で大人気の新海誠監督のように、大人の鑑賞にも耐える「写実的な風景描写」「詩情溢れる風景描写」の流れと無縁ではないような気がします。アニメの名場面の「聖地巡礼」も盛んに行われていると聞きます。やはりこのような「写実的な描き方」をすることによって、子供だけをターゲットにした漫画(アニメ)が、大人にも感動を与え、虜にするような芸術性の高い作品に昇華されているのではないでしょうか?

写実絵画(その3)

(島村 信之)

写実絵画(その2)

(森本 草介)

生島浩

(生島 浩)

塩谷 亮

(塩谷 亮)

2.ホキ美術館

千葉市にある「ホキ美術館」(*)は、実業家の保木将夫氏が2010年に設立した日本初の「写実絵画専門美術館」です。

この美術館では、巨匠から若手までの約50人の画家の480点の写実絵画作品を所蔵しています。

ホキ美術館の代表作家たちの「写実絵画の定義」は次のようなものです。

「抽象以外の具象は全て写実的なものともいえる。その中でも再現性の程度の高いものや細密に描かれているもの」

「写実とは、目の前にある対象を再現することでも模倣することでもなく、その対象のずっと奥にあるものと出合うこと」

「物事の本質を見つめ続け、存在を描くこと」

「現実にある要素を抽出し、人為的な操作を加えて存在するかのように描くもの、また、情緒的な部分を排除し本当に現実に迫るリアリズムもある」

「写生とは違い、前向きにそいでいくように物を見て自分の世界をつくり、自然をもう一つ再現していくこと」

(*)ホキ美術館

所在地:〒267-0067 千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15

電話:043-205-1500

開館時間:10:00~17:30

休館日:火曜日

入館料金:一般1800円、大学高校生・65歳以上1300円、中学生900円、小学生以下無料

3.古典主義やロマン主義から写実主義に至る絵画の歴史

蛇足ですが、写実主義に至る絵画の歴史を振り返ってみたいと思います。

(1)古典主義・バロック主義・新古典主義

「ルネサンス」は、14世紀のイタリアで起こった「古典古代の文化を復興しようとする文化運動で、やがて16世紀にかけて西欧各国に広まりました。

「古典主義」は、ルネサンスの流れを受けて、17世紀のヨーロッパに起こった精神運動で、「ギリシャ・ローマの古典・古代を理想と考え、その時代の学芸・文化を模範として仰ぐ」ものです。

絵画の世界においては、フランスのプッサンやロランが代表的な画家です。

一方、16世紀末から17世紀初頭にかけて、イタリアで誕生しヨーロッパ各地に広まった美術・文化の様式に「バロック主義」があります。これは「調和・均整」を目指すルネサンス様式に対して、「劇的な流動性」「過剰な装飾性」を特色としています。

絵画の世界においては、ネーデルランド(フランドル)のルーベンス、ネーデルランド(オランダ)のレンブラント、フェルメール、スペインのベラスケスが代表的な画家です。

18世紀のフランス革命前後からは、バロック主義に対して「新古典主義」が主張され始めました。貴族的なバロックに対して、市民的なのが新古典主義です。それまでの装飾的・官能的なバロック・ロココに対する反発を背景に、より確固とした荘重な様式を求めて、古典古代とりわけギリシャの芸術が模範とされました。

絵画の世界においては、フランスのダヴィッド、アングルが代表的な画家です。

(2)ロマン主義

18世紀末から19世紀前半のヨーロッパを中心にして起こった、それまでの「理性偏重」「合理主義」などに対して、「感受性」や「主観」に重きを置こうとする精神運動で、文芸・美術・音楽・演劇など様々な芸術分野に及びました。

絵画の世界において、「ロマン主義」というのは、スペインのゴヤやフランスのドラクロワ、イギリスのターナーなどが代表的な画家で、日本では藤島武二、青木繁などが知られています。

のちにその反動として、写実主義や自然主義の運動が起こります。

(3)写実主義

絵画の世界において、「写実主義」というのは、19世紀のフランスでギュスターヴ・クールベ(1819年~1877年)によって提唱されました。これは「ロマン主義」に対して「日常生活や現実をそのまま表現すること」を目指したものです。バルビゾン派のミレー(1814年~1875年)も写実主義の画家です。

モネやルノアールなどの「印象派」ぐらいまでは私も理解できます。しかしその後の、キリコやダリなどの空想的・幻想的な「シュルレアリスム」やピカソなどの立体的感覚を盛り込んだ「キュビズム」、カンディンスキーやモンドリアンのような「抽象絵画」といった現代美術の潮流は、私にはなかなか理解できません。特に絵の具を叩きつけて飛び散らせたような「抽象絵画」などは、縦塗横抹(じゅうとおうまつ)の落書きのように見えます。

ただ、ピカソの少年時代のデッサンの習作を見ると見事な写実主義なので、絵が下手でないことは私にもわかります。ただ、平面の絵画に、複数の視点から見た画面を再構成して盛り込む(立体的な要素を無理やり押し込む)やり方は理解に苦しみます。

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コメント

  1. たか(たかたかのトレッキング) より:

    今日はコメントを有難うございました。
    友人にパンフレットを戴いた時は、あまりの素晴らしさに今すぐにでもホキ美術館を訪れたいと思ったものでしたが
    今だチャンス無く日にちが、どんどん過ぎてしまっております。
    群馬から千葉は近そうで遠いところなのです。でも何時か必ず行ってみたいと思っております。

    ブログ、興味深くじっくり拝見させて頂きました。
    とても勉強になりました。
    また寄らせていただきますね。
    有難うございました。