数年前にテレビを見ていると、私と同じ年齢くらいの頭の禿げ上がったおじさんが自転車を懸命に漕いで急いでいる様子が映りました。
テレビのレポーターが、「何をそんなに急いでいるのですか?」と聞くと、「今日が株主優待の期限なので、急いであちこちを回っているのです」という答えでした。
「変わった人がいるものだ」というのが、その時に私の率直な感想でした。
これが、桐谷広人(きりたにひろと)さんとの初めての出会いでした。
1.桐谷広人さんとは
桐谷広人さんは、1949年(昭和24年)生まれの69歳で私と同じ団塊世代で、プロの将棋棋士(7段)で投資家でもあります。
豪快で型破りだった升田幸三名人(1918年~1991年)の門下です。将棋は2007年に「引退」しています。彼は、当時はまだ珍しかった「研究派」の棋士で、「コンピューター桐谷」の異名を取りました。
将棋観戦記なども手掛け、囲碁・将棋チャンネルの「桐谷広人の将棋講座」および「名勝負の解説」では師匠の升田幸三の将棋の解説もしています。
棋士としては、升田幸三門下でしたが、米長邦雄に傾倒し、米長の「著作の代筆」(ゴーストライター)を20年以上勤め、米長のために婚約者と破局を迎えたことが一度ならずあったと、後日マスコミに告白しています。
彼の転機は、1984年に東京証券協和会に将棋部が設置され、その師範となったことをきっかけに独学で株式投資を学び始めたことです。
その後、「財テク棋士」として有名になり、財テク専門誌の「ダイヤモンドZAi」や「日経マネー」に登場したり、NHKテレビの「家計診断おすすめ悠々ライフ」で株主優待について解説したりしています。
2006年時点では株式を約400銘柄、時価3億円分を保有し、そのうち1億円が優待銘柄だったとのことです。株主優待を活用することで生活費はほとんど現金を使わず、将棋棋士としても発揮した優れた記憶力で、手元に届いた数多くの商品券の使用期限を全て把握しているといいます。
自分にとって利用価値が低い期限付き商品券については、金券ショップに売っており、様々な方法を駆使して高く売却するように心がけているそうです。現金を使うのは家賃と光熱費とインターネット使用料程度で、これらの支払いも株式の配当金で賄うことができるそうです。
2008年のリーマンショックや引退後に頻繁に行った信用取引が裏目に出て、2013年時点で株式の時価は約5000万円にまで激減したそうです。その後は優待・配当銘柄を売らずに持つ投資戦略をより重視するようになったとのことです。その後、アベノミクスによる株価上昇で、2017年には過去最高額の3億円に戻ったそうです。
2012年頃から、バラエティ番組に出演する機会が増え、「株主優待の桐谷さん」として有名になりました。
なお、私生活では、婚約解消後は結婚経験はなく、「結婚相談所」に登録しているそうです。
これは、結婚相談所や婚活サイトを運営する「(株)IBJ」の株主優待券を使ってお見合い相手を探しているものですが、今のところまだ「ゴールイン」はされていないようです。
2.日本の戦後の株式投資について
日本経済が「高度成長期」の時は、日本経済の成長と歩調を合わせるように多くの株が値上がりし、「額面増資」や「無償増資」も盛んに行われました。もし、終戦後間もない頃に松下電器産業やトヨタ自動車の株式を買ってずっと持ち続けていたら、今では何百倍もの価値になっているという話を聞いたことがあります。
しかし、戦後の混乱期に「株式投資」をしようという人はほとんどいなかったと思いますし、これはあくまで「結果論」「机上の空論」と言うべきものでしょう。
「株式投資ブーム」が起こった昭和30年代には、日興証券の「マネービル」という言葉や「投資信託」というものが流行し、株式投資の裾野が広がりました。
しかし1961年(昭和36年)に「岩戸景気」が終焉し、証券相場は7月をピークに下げに転じます。この「証券不況」で、投資信託の解約が増加したり手数料収入が減少したりして、山一證券の経営は悪化して行きます。投資家にとって専門家に投資を一任する「投資信託」は、結局あまり儲からなかったのではないでしょうか?
そして、1965年(昭和40年)には山一證券の「取り付け騒ぎ」などの経営危機で冷水を浴びせられます。しかし当時の田中角栄大蔵大臣の決断で「日銀特融」が決まり、最悪の事態は回避されました。
「バブル期」も、短期間ながらどんどん株価が上がる状態でしたが、「バブル崩壊」で悲惨な状態となり、その後の「リーマンショック」などもあり、日本の株式相場は未だに低迷が続いています。
アメリカのニューヨーク株式市場が「史上最高値」を更新しているのとは好対照です。やはり、当時の日本の大蔵省や日銀の「バブル景気の終息のさせ方」が拙劣で、「急激なクラッシュ」を招くような「ハードランディング」だったことが原因だと私は思います。