<2020/7/1追記>香港国家安全維持法成立によって「一国二制度」は事実上崩壊
「香港国家安全維持法」が2020年6月30日に施行されました。これによって香港の「一国二制度」は事実上崩壊したと言えるでしょう。この点については、「イギリスからの返還後50年間は、香港に高度な自治を認め、一国二制度を堅持する」とした江沢民主席の宣言を踏みにじるものであり、暴挙と言ってよいと私は思います。日本政府は欧米諸国と足並みを揃えて強く反対する意思表示をすべきだと思います。
最近、中国政府による「チベット自治区に居住する少数民族チベット族への弾圧」や「新疆ウイグル自治区に居住する少数民族ウイグル族への弾圧」、「香港の民主化運動に対する強硬な弾圧」などの人権抑圧の報道をたびたび目にします。
11月27日には「香港人権・民主主義法」が、トランプ大統領が法案に署名したことで成立しました。同法は、香港の自治を保証する「一国二制度」が守られているか米国務省に毎年の検証を義務付け、香港での人権侵害に関与した政府関係者らに制裁を科す内容です。
今回はこの中の一つ、「香港の民主化運動」について考えてみたいと思います。
1.最近の香港の民主化運動
最近の「香港の民主化運動」などの香港情勢について考える場合、過去の歴史を振り返ることが重要です。
イギリスは、インドで製造したアヘンを清に輸出して巨額の利益を得ていました。アヘンの蔓延に危機感を募らせた清がアヘンの全面禁輸を断行し、イギリス商人の保有するアヘンを没収・焼却したため、イギリスが戦争を仕掛けたものです。これが「アヘン戦争」(1840年~1842年)です。
この戦争に勝利したイギリスは、1842年に南京条約を締結し、「香港島」を割譲させ、直轄植民地としました。その後、1860年の北京条約で「九竜半島」の南部を割譲させます。さらに帝国主義列強による中国分割が進む中で、1898年には九竜半島北部とその周辺の島嶼をイギリスが「99年間租借」することになります。
1997年に香港はイギリスから中国に全面返還されましたが、イギリス統治時代からの資本主義・民主主義の制度や考え方は多くの香港の人々に浸透していました。
このような資本主義・民主主義の制度や考え方が浸透した香港の人々にとっては、中国共産党の一党独裁政権が定めたいびつな「一国二制度」も期限付き(香港返還日から50年間)である上、最近の「逃亡犯条例改正案」問題(民主派の市民や学生たちの抗議を受けて、最終的には撤回されました)もあって不安感や不信感が募り、デモが続いているのだと思います。
香港の人々が「逃亡犯条例改正案」に反対した理由は、「中国政府に都合の悪い(民主活動家や社会評論家などの中国政府に反感を持つ)香港人が別件逮捕で簡単に中国へ引き渡され、『政権転覆扇動罪』などの名目で中国の司法で裁かれ、人権が侵される恐れがある」ということです。もっと言えば「簡単に拘束・逮捕され、拷問などを受けて罪人に仕立て上げられる恐れがある」ということです。この「逃亡犯条例改正案」は「香港にいる外国人」にも適用されることになっていました。日本人も他人事ではなかったのです。
日本人の学者や商社マンなどが中国で「スパイ容疑」(たぶん冤罪ではないかと思われます)で逮捕されたり、実刑判決を受けたりするニュースが時々ありますが、香港の人々もそのような事態を恐れているのでしょう。
2019年11月の香港の「区議会議員選挙」では「民主派」が「親中派」に圧勝し、80%強の議席を獲得しました。これは香港市民が、民主化を求めて中国に対する抗議活動やデモを行った「民主派」を圧倒的に支持した結果です。
2.一国二制度の期限と香港の将来像
(1)一国二制度の期限
中国政府が恐れているのは、このような香港の民主化運動が続けば、2047年に期限を迎える「一国二制度」の「延長」を求めたり、「香港の分離独立」を求める動きが起きることです。これを警戒して民主派に対して強硬な抑え込みを図っているのだと思います。
これは、中国政府が「一国二制度の形骸化」を狙っているように見えます。裏を返せば中国共産党一党独裁体制の危機感の表れではないでしょうか?
(2)香港基本法と香港の将来
香港のミニ憲法と呼ばれる「香港基本法」には、「50年間は、現在の社会、経済、法体系を維持し、軍事、外交面を除く高度な自治権を認める」とあります。
また「香港基本法」には、中国本土では制約のある「言論・報道・出版の自由」、「集会やデモの自由」、「信仰の自由」なども明記されています。最近の香港警察のデモ隊に対する弾圧のような強圧的態度は、「香港基本法」に悖(もと)るような気がします。デモ鎮圧は、中国政府の強い意向を受けたものなのでしょうが・・・
もともと、「一国二制度」というのは、「台湾との平和的統一」と「香港・マカオの主権回復」をスムーズに実現するために1978年に考案された制度です。台湾同様、資本主義地域の香港やマカオに高度な自治権を認めて「一国二制度」がうまく運用できれば、台湾もこの制度を信頼して平和的統一が実現できるのではないかというのが中国政府の考えでした。
2047年の香港の姿を確認することは、私の寿命の関係で出来そうにありません。それまでに中国共産党の一党独裁体制が崩壊して、中国全体が「真の民主主義が行われる資本主義国」の仲間入りをするのがベストだと私は思うのですが、夢物語かもしれません。