カルロス・ゴーン被告が保釈条件違反出国!犯罪人引き渡し条約がなく逃げ得か?

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ゴーン逃亡

1.カルロス・ゴーン被告逃亡の衝撃

2019年12月31日に、元日産会長で保釈中のカルロス・ゴーン被告が偽名を使ってレバノンに出国したとの報道がありました。明らかな「保釈条件違反」ですが、日本とレバノンとの間には「犯罪人引き渡し条約」が結ばれていないため、日本の身柄引き渡し要求にレバノンが応じない場合、日本の警察の手が及ばず逃げ得を許す結果となります。裁判所が「保釈」を許可したことが禍根を残すことになりそうです。

「自宅入口に設置した『監視カメラ』で出入りを常に報告」、「パスポート取り上げ」など厳格な逃亡防止措置がされていたはずなのに、偽造パスポート(?)か、プライベートジェットを使ったにせよ、なぜ易々と出国できたのか不思議でなりません。レバノン政府の関与があるとすれば大問題ですが、どうなのでしょうか?確実な情報ではありませんが、「楽器箱に隠れて地方空港から密出国した」との報道もあります。保釈時に作業員姿に変装した彼のことですから、そんなこともやりかねません。

カルロス・ゴーン被告によるレバノンでの「証拠隠滅の恐れ」もあり、日本の検察と裁判所の失態となりそうです。日本では最近「保釈」を認める件数が急増し、それにつれて逃走などの問題が続発していますが、裁判所によるチェックの甘さが問われそうです。

裁判所は、カルロス・ゴーン被告の「長期拘留」に対する海外からの的外れな批判に屈することなく、「プリンシプル」をしっかりと持って毅然として保釈申請を却下すべきだったと私は思います。こんな失態を犯していては日本の司法の恥さらしです。

よく、外国人が日本において犯罪を犯した場合、その国との間で「犯罪人引き渡し条約」が結ばれていないため、日本の警察の手が及ばず、泣き寝入りするケースが時々あります。

2.ブラジル人女性による交通死亡事故

2005年10月に、静岡県湖西市内の交差点で、ブラジル人の女(31)運転の乗用車が、同市内の女性(39)の乗用車に衝突し、二歳の女の子が死亡しました。静岡県警は、ブラジル人の女の信号無視の疑いが強いとみて、逮捕状を取りましたが、既に帰国した後でした。

ブラジルとの間には「犯罪人引き渡し条約」が締結されていないため、逮捕できない「逃げ得」の状態となっています。

この「死亡事故ブラジル人『逃げ得』容疑者国外逃亡」に対して、67万人の怒りの署名が外務省へ殺到したそうです。

ただ、ブラジル憲法では、「いかなるブラジル人も犯罪人として外国に引き渡されることはない」と定めていますので、「犯罪人引き渡し条約」を締結したとしても、簡単に問題解決とはならないようです。

ちなみにブラジルは、22カ国と犯罪人引き渡し条約を締結していますが、いずれも自国民を引き渡す義務を除外しています。

やはり、犯人が国外逃亡してしまう前の「現行犯逮捕」や「早期の逮捕状発行」、「出国審査の水際での逮捕」が、今後ますます重要になってきます。

3.日本や他国の「犯罪人引き渡し条約」締結状況

犯罪人引き渡し条約とは、「国外に逃亡した犯罪容疑者の引き渡しに関する国際条約」です。本来、各国は他国からの要求があっても犯罪人を引き渡す義務を負うものではありませんが、この条約を二国間あるいは多国間で締結することで、犯罪人引渡しの義務を相互に約するものです。

日本は2カ国(アメリカ・韓国)だけです。ちなみにイギリスは115カ国、フランスは96カ国、アメリカは69カ国、韓国は25カ国と締結しています。

国家は自国民の生命・財産・安全を守る義務がありますし、公正・正義の見地からも、たとえ犯罪人引き渡し条約を締結している国からの要求であっても、全て受け入れるわけではありません。

日本の場合は、「犯人が日本国籍の場合や政治犯の場合など」の例外を除き、原則引き渡すこととされています。

日本が犯罪人引き渡し条約を結んでいない国で、被疑者が逮捕された場合は、日本への引き渡しではなく、その国の法律で刑事責任を追及する「代理処罰」を求めることになります。

4.人質外交・報復外交の懸念

「犯罪人引き渡し条約」の本題とは逸れますが、最近気になることがあります。

中国の携帯最大手のファーウェイ副会長が、アメリカの要請によってカナダで逮捕される事件がありました。

その後、トランプ大統領と習近平主席との間で、激しい米中貿易戦争が起こりました。

そのような中で、カナダ人のジャーナリスト2人が「中国の国家機密を探った」あるいは「中国の国家機密を盗んで国外に提供した」との疑いで中国当局に逮捕されました。

これは、ファーウェイ副会長がカナダからアメリカに引き渡されるのを阻止するための中国からの「圧力」と見られています。

カルロス・ゴーン被告のケースは人質外交でも何でもない純然たる犯罪者逮捕ですが、今後、このような「人質外交」や「報復外交」が増加するのではないかと私は懸念しています。本来公正で正義を守るべき「司法」ですが、それを上回る「政治的圧力」が最近目立つような気がします。