電通の東大卒新人女性社員の高橋まつりさんの自殺と「鬼十則」。命あっての物種

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電通鬼十則

電通の東大卒新人女性社員の高橋まつりさんが、過労により24歳の若さで自殺したのは2015年12月のことでした。深夜勤務が常態化し、時間外労働時間は月100時間を超えていたということです。

ただ、私が現役サラリーマンだった若いころは、日曜日と祝日しか休みのない時代が長く続き、日曜出勤もあり、「持ち帰り仕事」もありましたので、実質的な時間外労働時間はそれに近いものがあったのではないかと思います。何しろ「モーレツ社員」「企業戦士」と呼ばれた時代ですから・・・

私が「第三セクター」に出向していたころ、広告代理店の「電通」「博報堂」「大広」の三社の社員が会社に出入りしていました。

その中でも、一番熱心だったのが「電通」の社員でした。第三セクターの社内運動会にも、休日にも拘らず「応援」に駆け付けるという熱の入れようでした。

彼らの精力的な営業活動の背景には、1951年に四代目社長の吉田秀雄氏が作った「鬼十則」と呼ばれる「電通マンの行動規範」があったことは疑いの余地がありません。

1.電通「鬼十則」

「鬼十則」とは次のようなものです。

①仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。

②仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受身でやるものではない。

③大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。

④難しい仕事を狙え、そしてそれを成し遂げるところに進歩がある。

⑤取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは・・・。

⑥周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。

⑦計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。

⑧自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらがない。

⑨頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。

⑩摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

上の⑤は、戦時中の尋常小学校の修身教科書に載せられた「木口小平(きぐちこへい)は敵の弾に当たりましたが、死んでもラッパを口から離しませんでした」を想起するような文言ですが、1951年当時はもちろん、高度成長期の社内向け訓示ではよく似た檄が飛んでいたのではないかと思います。

この「鬼十則」は、「社長が期待する社員のあるべき姿」という意味では、過激な表現はあるものの、内容的には納得できるものです。中小企業のワンマン社長なら同様の社訓を作っていたのではないでしょうか?

私が若いころ勤務していた会社でも、営業担当の上司が「知恵のある者は知恵を出せ。知恵のない者は汗を出せ。知恵も汗も出ない者は直ちにこの場から去れ」と発破をかけていました。

2.電通「裏十則」

ところで、この「鬼十則」の逆バージョンの「裏十則」というのがあることを最近知りました。

裏十則 | Blog | nozomu.net – 吉田望事務所 –

1)仕事は自ら創るな。みんなでつぶされる。
2)仕事は先手先手と働きかけていくな。疲れるだけだ。
3)大きな仕事と取り組むな。大きな仕事は己に責任ばかりふりかかる。
4)難しい仕事を狙うな。これを成し遂げようとしても誰も助けてくれない。
5)取り組んだらすぐ放せ。馬鹿にされても放せ、火傷をする前に…。
6)周囲を引きずり回すな。引きずっている間に、いつの間にか皆の鼻つまみ者になる。
7)計画を持つな。長期の計画を持つと、怒りと苛立ちと、そして空しい失望と倦怠が生まれる。
8)自信を持つな。自信を持つから君の仕事は煙たがられ嫌がられ、そしてついには誰からも相手にされなくなる。
9)頭は常に全回転。八方に気を配って、一分の真実も語ってはならぬ。ゴマスリとはそのようなものだ。
10)摩擦を恐れよ。摩擦はトラブルの母、減点の肥料だ。でないと君は築地のドンキホーテになる。

これはなかなかうまく考えたものですね。「電通マンの本音」を表した「狂歌・落首」のようなものです。

この作者は、最初のうちは「鬼十則」を実践しようと真面目に取り組んだのでしょう。しかし現実はそれほど甘くなく、ことごとく裏切られ挫折したのでしょう。それで後輩のために「自分の轍を踏まないように」とこの「裏十則」を作ったのではないかと私は思います。

大半の電通マンは、この二つの「十則」(「建前」と「本音」)を念頭に置いて、「精神のバランス」を保ちながら仕事に取り組んでいたのではないかと想像します。

3.命あっての物種

現役サラリーマンの皆さん!決して頑張り過ぎないでください。「命あっての物種」です。「鬼十則」のようなスローガンを真に受けて、頑張り過ぎて命を落とすような愚は避けて下さい。

私が55歳の時だったと思いますが、会社の「産業医」の先生が「定年退職者」に向けて次のような趣旨の話をされたことが忘れられません。

「今まで、皆さんは会社第一・仕事第一で、自分の生活や家族との旅行や団欒まで犠牲にして頑張って来られたと思いますが、これからは自分第一、家族第二、仕事第三、会社第四で行って下さい」


電通鬼十則の記憶 電通事件の批判の中で [ 信田和宏 ]