ここ最近の新型コロナは、インド由来のデルタ株が大半を占め、感染力も強いため新規陽性者数(新規感染者数)が急増しています。
子供の感染者が急増し、家庭内感染(「子供から親への感染」「親から子供への感染」「子供同士の感染」)のリスクも増えています。
この急激な新型コロナウイルスの感染拡大で、「大規模イベント会場や体育館を利用した臨時の医療施設の設置」を求める声が上がりました。
「広いスペースにベッドを並べることで、集中的に医療を提供できる場所を確保する」ことを目的としたものですが、これをメディアは「野戦病院」と表現して伝えました。
8月18日には日本医師会の中川俊男会長が記者会見で言及し、同じ日に関西経済連合会の松本正義会長が提言書をまとめたことを公表しました。
閣僚からも関連する発言が相次ぎ、8月25日に緊急事態宣言の対象地域の拡大を決定したあとの記者会見で、菅義偉首相が自ら「今回の感染拡大に際し、いわゆる野戦病院をつくるべきだ、こうした多くの指摘を頂いております」と明言しました。
これに呼応して、大阪府でも「野戦病院」構想が進められており、国際見本市会場である「インテックス大阪」に作られるそうです。
この「野戦病院」はコロナ対応として果たして適切なのでしょうか?うまく機能するのでしょうか?
1.太平洋戦争当時の「野戦病院」の悲惨さ
私は「野戦病院」と聞くと、太平洋戦争中の日本軍の「野戦病院」についての元兵士の話をつい思い出してしまいます。
南方戦線で、敵の砲弾によって負傷し動けなくなった兵士やマラリヤに罹ってベッドに横たわっている瀕死の兵士は、「手榴弾」を手渡されて「自決」(自爆)するように促され、見捨てられた(見殺しにされた)そうです。
ですから私には「傷病者の墓場」のようなイメージがあります。
「野戦病院」という名前に恐怖感や違和感を覚える人も多いのではないかと私は思います。
2.大阪府の「コロナ対応の野戦病院」構想
新型コロナの感染症指定を「2類相当から5類に変更すること」が、まず先決だと私は思っています。
大阪府の吉村洋文知事は8月28日、新型コロナウイルスの感染者急増に対応するため、大阪市住之江区の国際展示場「インテックス大阪」に1千床規模の「野戦病院」を整備する方向で調整していると読売テレビの番組で語りました。
吉村知事は「医療従事者の確保が非常に難しいが、野戦病院をつくる判断をした」と語っています。大阪大学医学部付属病院と、野戦病院運営の中心となる医療従事者の派遣について協議中ということです。開設時期については「できるだけ早く」とし、「課題山積だが、自宅でお亡くなりになる方を一人でも減らすのが最大の目標だ」と語っています。
府内の1日あたりの感染者は連日2千人を超え、府が確保している軽症・中等症病床(2579床)の使用率は7割を超えています。
3.「コロナ対応の野戦病院」はうまく機能するのか疑問がある
(1)医療従事者確保の問題
(2)医療機器確保の問題
(3)治療薬確保の問題
(4)仮設の病院施設の環境の悪さの問題
(5)本来の病院施設でないためクラスター発生や重症化リスク増大の懸念の問題
などの課題があります。
むしろ、新型コロナの感染症指定を「2類相当から5類」に変更した上で、既存の病院が、医院・クリニックと連携し、役割分担した上で、医療従事者(医師や看護師など)が全員一丸となってコロナ対応に当たる体制を確立する方が現実的で効果的だと私は思います。
「野戦病院さえ作れば問題は解決する」という考えは安直な気がしてなりません。
東京都は次のような理由で「野戦病院」設置に消極的ですが、私はこちらの方が正しいと思います。
「東京都には豊富な医療資源があります。役割分担をして、必要な施設を整備しながら体制をつくってきました。宿泊療養施設での抗体カクテル療法をできるようにしたり、酸素ステーションの整備も進めています。いわゆる野戦病院のように患者を1カ所に集めてオペレーションするのが効率的との考え方があるのは承知しています。しかし、医療資源があるのに、わざわざ、医療的に環境の悪い体育館に臨時病床をつくる必要性はない。検討する予定もありません」(感染症対策部)