<2021/2/9追記>平山郁夫や東山魁夷、片岡球子の「贋作版画」流通事件が発生
「日本画の大家の平山郁夫や東山魁夷、片岡球子の絵画を基にした版画の贋作が大量に流通していることがわかった」とのニュースがありました。
大阪・梅田で画廊を営む画商が約8年前から奈良県の工房に作らせていたようで、警視庁が「著作権法違反容疑」で関係先を捜索し、贋作と見られる複数の版画を押収しました。
贋作が確認されたのは、平山郁夫の「流沙朝陽(りゅうさちょうよう)」や東山魁夷の「草青む(くさあおむ)」、片岡球子の「桜咲く富士」など10作品です。
なお「版画」というのは、「原画」をもとに職人が制作し、画家本人や遺族の許可を得た上で、数を制限して販売されます。
そごう・西武百貨店でも販売されていたということで、流通量は約800点に上るそうです。1964年に起きた「北大路魯山人贋作事件」にも匹敵する「贋作事件」です。
1.「開運!何でも鑑定団」
私は、かつて島田紳助さんがMCを務めていたテレビ東京(テレビ大阪)の「開運!何でも鑑定団」という骨董品や絵画などの鑑定番組が好きでよく見ていました。
現在は、今田耕司さんと福澤朗さんがMCで番組は続いています。
焼き物・茶道具、特に古伊万里磁器の専門家である「骨董屋からくさ店主」中島誠之助氏が、一番印象に残っています。
値打ちのある本物についての「いい仕事してますねえ」という決めセリフと、価値の低いものだった場合に最後に言う「どうぞ大事になすって下さい」いうコメントは特に印象的でした。
自信満々で出場したアマチュアの骨董品マニアが、「偽物」と鑑定されショックを受ける姿も、気の毒ではありますが、とても面白く感じたものです。特に鑑定の前に「蘊蓄を傾けた話」をした後に、「偽物」と決めつけられた時のショックは想像を絶するものがあったと思いますが、その反応が人それぞれで面白いものでした。
あと印象に残っている鑑定士に、レトロのおもちゃ、特にブリキのおもちゃ専門の「ブリキのおもちゃ博物館館長」北原照久氏と、日本画・古文書専門の「思文閣」社長である田中 大氏がいます。
北原照久氏は、いかにもブリキのおもちゃ愛好家らしく「少年の心を持ち続けている」ような印象を受けました。田中 大氏は、掛軸などを鑑定する時、ハンカチで口元を抑えるのを常としていたので、一時「京都のハンカチ王子」と呼ばれていました。
京都の「思文閣」は、美術品・古書古典籍の買取・販売の大手業者で、とても有名です。私が家を新築した時、掛軸を買おうと京都に出掛けましたが、どこで買ってよいのか分からず、四条通りの美術商を訪ねたところ、「思文閣」を紹介されました。
2.鑑定士の鑑定は絶対に正しいのか?
中島誠之助氏は1960年から骨董商として古美術鑑定に従事していたそうですから、約40年のキャリアがあるわけです。
しかし、彼の鑑定が絶対に正しいのかと言うと、断言は出来ないと思います。古い時代の作品の場合、専門家の意見に頼る以外に真贋の「検証」をする客観的な方法がないからです。
中島誠之助氏が、「間違いなく本物」として2,500万円の鑑定をした「曜変天目茶碗」が偽物ではないかとの「異議申し立て」が陶芸家の九代目長江惣吉氏から出されて話題になったことがあります。
中島誠之助氏はそんな人ではないと思いますが、世間に沢山いる「信用のおけない骨董屋」は、「詐欺師」のようなもので、自分でも「偽物」とわかっていながら、「掘り出し物」とか称して高く売りつけることが多いものです。
一方で、「押し買い」のように、本当は値打ちのある「本物」を「偽物」だと鑑定して安く買い取り、それを別の客に高く売りつけるというケースも考えられます。
「骨董好き」の人は、くれぐれも用心する必要があります。
3.専門家も騙された「ルグロ事件」
1964年に、国立西洋美術館はドラン作「ロンドンの橋」を2,232万円で、デュフィ作の「アンジュ湾」を228万円で購入しました。翌年にもモディリアーニ作の「女の顔」を129万円で購入しました。
しかし、「贋作説」が浮上し、国会で追及されます。その結果1971年に、文化庁と国立西洋美術館は、「3点とも真作とするには疑わしい。今後一切展示しない」と発表しました。
この事件の加害者(犯人)は、フェルナン・ルグロという画商で、贋作者のエミール・ド・ホーリーと共謀して、世界各国の美術館やコレクターに偽の近代絵画を売りさばいていたのです。
1967年に国際逮捕状が出されるまでに、偽の鑑定書と本物の認定書を巧みに組み合わせて500点以上の贋作を世界にばらまいていたそうです。
この贋作事件で、当時の富永惣一館長は真贋に懐疑的でしたが、画家の未亡人などに「鑑定書の追認」を頼んだところ「全く疑う余地がない」と返答されたこと、および当時来日していたフランスの文化大臣だったアンドレ・マルローに2枚の絵を見せたところ「これらの作品は並みはずれた質のものです。これが国外に流出するのをフランス美術界が黙って見守っていたことに驚いています」と述べたため、すっかり信用したようです。
しかし、作家・政治家のアンドレ・マルローに「鑑定眼」があったのかはなはだ疑問ですし、単なる「リップサービス」のようなものだったのかも知れません。しかし専門家集団であるはずの国立西洋美術館の人々は、これにすっかり騙された訳です。
なお、近代絵画や版画についての贋作事件は、ほかにもまだまだたくさんあるようです。もし皆さんの中に近代絵画や版画のコレクターがおられましたら、十分にご注意ください。
購入する場合は、必ず「信用のおける画商」や百貨店のような「信用のおける店」でお買いになることをお勧めします。
4.百貨店も騙された「北大路魯山人贋作事件」
しかし、百貨店で買ったら絶対大丈夫とも言い切れない事件もありました。
1964年に、東京日本橋の白木屋で開催された「魯山人陶器書画遺作即売展」でのことです。大変な盛況で108点が売れましたが、その後それらの作品は「偽物」ではないかという声が高まりました。これに驚いた白木屋は、「専門家3人による鑑定会を開いて真贋を明らかにし、贋作は買い戻す」と発表しました。そして「鑑定」の結果、書画は90%が贋作、陶器は20%~30%が贋作と断定されました。
5.贋作上位ランキング
骨董品や絵画には、贋作が多いのはよく知られていますが、特に贋作が多いのは次のような画家や作品です。
画家では、谷 文晁、円山応挙、狩野探幽、伊東深水、横山大観、東郷青児、草間彌生など、陶芸作家では野々村仁清、作品では唐三彩です。
「開運!何でも鑑定団」でも、円山応挙の掛け軸や屏風が出ていましたが95%以上が偽物だったように思います。私が見ていた時、思文閣の田中社長が、「円山応挙は偽物がとても多いのですが、これは真筆です」と鑑定したのが1回だけありました。「奇跡的」のような感じでおっしゃったので、いかに偽物が多いかよくわかりました。
骨董品好きな方や絵画コレクターの方は、悪質な骨董店や画商にまんまと騙されて財産をなくさないよう、くれぐれもご用心ください。