「舟を編む」に見る「辞書の編集」の醍醐味と難しさ

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舟を編む

前に「国語辞典を読む」楽しみ方を紹介する記事を書きましたが、三浦しをんさん原作の「舟を編む」という面白い小説があります。2012年の「本屋大賞」受賞作品です。松田龍平さん主演で映画化もされたので、ご覧になった方もあると思います。アニメ化もされています。

これは辞書編集者の話で、「玄武書房」に勤める変人編集部員の馬締光也が、新しく刊行する辞書「大渡海」の編纂メンバーとして、辞書編集部に迎えられ、個性豊かな編纂者たちと辞書の世界に没頭して行く物語です。

「大渡海」の由来は、「辞書は言葉の海を渡る舟で、編集者はその海を渡る舟を編んで行く」という意味で名付けられたそうです。

この主人公馬締光也のモデルは、1959年に三省堂に入社し、1970年代の倒産を乗り越えて再生三省堂で25年間の歳月をかけて「大辞林」を完成させた倉島節尚氏と言われています。

しかし、私には、「新明解国語辞典」の編集者たちをモデルにしているような気がしてなりません。

と言うのは、馬締が語釈を任された『恋』が、『ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態。/成就すれば、天にものぼる気持ちになる』とあり、「新明解国語辞典」の「恋愛」の語釈と酷似しているからです。「大辞林」も「新明解国語辞典」も三省堂の辞書なので、倉島節尚氏はひょっとすると、「新明解国語辞典」の編集にも携わっていたのかも知れません。

話は変わりますが、以前ある辞書でこんな説明に出くわしたことがあります。「A」と「B」という二つの言葉があり、「A」「B」は同じ意味を持つ言葉です。ところが、「A」の項を見ると、「Bに同じ」とあり、「B」の項を見ると、「Aに同じ」とありました。これでは「堂々巡り」で「A」「B」が同じ意味とわかるだけで、肝心の言葉の意味がわかりません。

詳しいことは忘れましたが、多分「A」も「B」も説明するまでもない簡単な言葉だったのだと思いますが、辞書としては「失格」です。辞書の編集には多くの人が携わり、膨大な言葉を分担して語釈を作成していますので、「A」と「B」を担当した編集者同士の連絡・連携不足(どちらの担当者が、具体的な語釈を書くのか不明確)が原因だと推測できます。

最終的な「校正・校閲」でも見落とされたのでしょう。野球選手同士の「譲り合い」、バレーボール」の「お見合い」のようなものです。逆に「A」と「B」の担当がそれぞれ異なる語釈を書いて、読者が矛盾を感じたり混乱するのもまた問題ですが・・・


舟を編む [ 三浦しをん ]

舟を編む [ 松田龍平 ]

さらに悩ましい国語辞典 辞書編集者を惑わす日本語の不思議! [ 神永暁 ]

辞書編集、三十七年 [ 神永 曉 ]

4辞書・事典の活用術 (辞書・事典のすべてがわかる本) [ 倉島節尚 ]



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