「国語辞典」を「読む楽しみ」

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花筏

「国語辞典を読む」と言うと、「いや、国語辞典は引くものだろう?」という反応を示される方が多いでしょう。確かに「引く」という使い方が基本ですが、「読む」という楽しみ方もあることをご紹介します。

シンガーソングライターの谷村新司さんが、「曲作りの参考にするために、国語辞典を読むことがある」と話していました。その他にも、スポーツ選手だったか俳優だったか忘れましたが、「国語辞典を読むと良い気分転換になる」と話していました。

私も、国語辞典を「読む」派です。たとえば、「花」という言葉があるページを開くと、「花葵(はなあおい)」から始まって、「花嵐(はなあらし)」「花合せ」「花筏(はないかだ)」「花軍(はないくさ)」などと続きます。

花葵は、夏によく見かける「タチアオイ(立葵)」のことです。「花嵐」は桜の花が嵐のように散る様子、「花合せ」は「花がるたを合わせる遊戯」、「花筏」は花が散って水面を流れるのを筏に喩えたもの、「花軍」は「花合せ」のこと等々、自分の知らなかった言葉や美しい日本語に沢山出会えます。「花筏」は、俳句の季語にもなっていますが、大変美しい日本語ですね。

私は、テスト前の勉強中に、国語辞典を読んでいて、つい熱中して長時間を過ごしてしまうことがありました。皆さんの中にも、テスト勉強中に好きな小説を読み出して止まらなくなった経験をお持ちの方がおられるのではないでしょうか?勉強が終わってからゆっくり読めばよいようなものですが、これは多分「テスト勉強から逃げ出したい」という気持ちが底流にあったのではないかと思います。

国語辞典は、複数の出版社から出ていますが、現在日本で最も権威あるのは「広辞苑」でしょう。最近は、新しい言葉や若者言葉、俗語も積極的に取り入れる傾向があります。「第六版」に、「ピーカン」という俗語が載りました。ピーカンは晴天の青空のことですが、語源は「タバコのピーの濃紺色が由来」とか、「晴天の日はピント合わせがへたでも、ントが全だから」とか「太陽の光がピーンと届いてカンカン照りのこと」とか諸説あります。

私が数年前に同期会でこの俗語を使ったところ、知らない人の方が多かったです。せっかく広辞苑に載るようになったのに、今や死語となったのでしょうか?撮影現場では、今でも使われているのかも知れません。ところで「ピース缶」は父がをよく買っていたので、私には馴染み深いのですが最近はこの「ピース缶」をあまり見かけなくなりましたね。

もう一つ、ユニークな語釈や用例の国語辞典として有名なのが、三省堂の「新明解国語辞典」です。他に類を見ない本質を喝破するようなユニークな説明で、毒舌かつ冗長過ぎる嫌いがありますが、とにかく読んで面白い国語辞典です。

たとえば、「動物園」は、第四版では「生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀なくし、飼い殺しにする、人間中心の施設」とありました。最新の第七版では、「捕らえてきた動物を、人工的環境と規則的な給餌とにより野生から遊離し、動く標本として一般に見せる、啓蒙を兼ねた娯楽施設」と過激な表現は影を潜め、トーンダウンしてしまって面白味が半減しています。

「公僕」は、「権力を行使するのではなく国民に奉仕する者としての公務員の称。[実情は、理想とは程遠い]」です。「生意気」は、「それだけの存在でもないのに、一人前の言動をして偉ぶること。ちょっとした知識をひけらかしたり、まわりが黙っているのをいいことにして勝手な事を言ったりするので、機会があれば懲らしめてやりたい感じだ」です。「苦言」は、「相手が不快感をいだくことを承知のうえで受け入れることを期待してあえてする批判」です。

「凡人」は、「自らを高める努力を怠り、功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人」です。「のろける」は、「妻(夫・愛人)との間にあった(つまらない)事を他人にうれしそうに話す」です、「どら猫」は、[飼い主がなかったりなどして]人の家の台所などをねらい、盗み食いをするずうずうしい猫」です。

「人生経験」は、「人生の表街道を順調に歩んで来た人にはとうてい分からない、実人生での波乱に富み、辛酸をなめ尽くした経験。[言外に、真贋の見極めのつく確かさとか、修羅場をくぐり抜けてきた人たちの一大事に対する覚悟の不動とかを含ませて言うことが多い]」です。

「恋愛」という言葉の解釈が、この辞典の面目躍如というか、特徴を最もよく表しているので少し長いですが、ご紹介します。第七版では「特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思いこむような愛情をいだき、常に相手のことを思っては二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと」となっています。なお、第四版ではもっと過激な説明でした。

この「新明解国語辞典」は、国語学者・辞書編纂者で、日本大学名誉教授であった故山田忠雄氏の独特の個性が色濃く反映された辞書です。一度読み出すと、病みつきになりそうですね。ぜひ書店で手に取って、お読みください。

「電子書籍」もありますが、国語辞典を「読む」のは、私はやはり「リアルの本の辞書」のページをめくって楽しみたいものです。アナログ世代ですから・・・



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