富士山は言うまでもなく「日本一の山」ですが、全国各地に「〇〇富士」と称する「郷土富士」があります。
今回はこの「郷土富士」の主なものご紹介します。
1.郷土富士
「郷土富士」とは、その多くは山容が富士山によく似たコニーデ(円錐)型成層火山ですが、歴史的に富士山と何らかの関係がある山や、その土地を代表する山にも富士と名付けたものもあります。
(1)北海道
①蝦夷富士(羊蹄山)
羊蹄山は、北海道後志総合振興局ニセコ町、倶知安町、喜茂別町、真狩村、京極町にまたがる標高1898mの成層火山です。山麓はアスパラガス、ジャガイモの産地で、また多くの湧水があります。
②知床富士(羅臼岳)
森繫久彌が作詞・作曲した「知床旅情」の歌詞にも出て来る「ラウス」岳は、「世界自然遺産」の知床半島の火山群の主峰かつ最高峰で標高1661mです。
日本百名山、花の百名山及び新・花の百名山に選定されている山です。
③渡島(おしま)富士(駒ヶ岳)
駒ヶ岳は渡島半島の東部、内浦湾に臨む成層活火山で、最高点の剣ヶ峰は1131mです。なお、「駒ヶ岳」と呼ばれる山は、木曽駒ヶ岳・甲斐駒ヶ岳・会津駒ヶ岳など全国に数多くあります。
「駒ヶ岳」の名前の由来ですが、「駒」は馬のことで、「山体が馬の形をしている」、あるいは「雪形に馬の形が出る」ことから名付けられたようです。
④利尻富士(利尻山)
利尻山は利尻島にある独立峰で標高1721mです。利尻町・利尻富士町にまたがる成層火山で、日本百名山、新日本百名山、花の百名山および新・花の百名山に選定されています。
(2)東北地方
①津軽富士(岩木山)
青森県の津軽富士は、美空ひばりの「リンゴ追分」の歌詞に、「お岩木山のてっぺんを 綿みてえな白い雲が・・・」と出て来ます。私は子供の頃、この「おいわきやま」を「追分山」のことだと勘違いしていました。
岩木山は、広い津軽平野の真ん中に聳える標高1625mの独立峰です。「全国ふるさと富士人気投票」で第一位に輝いています。山岳信仰の山で、山全体がご神体です。頂上には岩木山神社の奥宮があります。
②岩手富士/南部片富士(岩手山)
岩手山は奥羽山脈北部にあり、二つの外輪山から成る標高2038mの成層火山です。岩手県の最高峰で、日本百名山に選定されています。古来から信仰の山として、人々の崇敬を受けて来ました。
石川啄木に「ふるさとの 山に向かひて 言ふことなし ふるさとの山は ありがたきかな」という「一握の砂」に収められた有名な短歌があります。ふるさとの渋民村を石をもて追われるようにして上京した啄木が、東京にあって故郷の岩手山を懐かしんで詠んだ歌です。不遇をかこつ啄木を励まし慰める力が、ふるさとの山には確かにあったということでしょう。
③出羽富士(鳥海山)
鳥海山は秋田県と山形県のまたがる標高2236mの活火山で、出羽富士と呼ばれて親しまれています。秋田県では「秋田富士」、山形県では「庄内富士」とも呼ばれています。日本百名山に選定されています。
④明田(みょうでん)富士、大潟(おおがた)富士
ここで、ちょっと「変わり種」の郷土富士を二つご紹介します。
・明田(みょうでん)富士は秋田県秋田市にある「富士山(ふじやま)」の通称で、標高35mで「日本山岳会」が認定する「日本一低い富士山」です。中腹には明田稲荷大明神、山頂には富士大権現が祀られています。
・大潟(おおがた)富士は、秋田県南秋田郡大潟村にある人工の円錐形の築山で、標高0mです。大潟村は湖を干拓して出来た村なので、村全体が海水面より低い干拓地となっており、山頂が標高0mとなるように造られています。大潟村は「国土地理院」に地形図への掲載を求めましたが、「築山」であるため掲載の要望は却下されています。
⑤吾妻富士(吾妻小富士)
吾妻富士(吾妻小富士)は福島県福島市にある標高1707mの成層火山で吾妻連峰の一つです。早春のころになると、山肌に残る雪がウサギの形のように見えることから、この残雪は「雪うさぎ(吾妻の雪うさぎ)」と呼ばれ、福島市民に春の訪れを知らせる風物詩となっています。
⑥会津富士(磐梯山)
磐梯山は福島県耶麻郡猪苗代町、磐梯町、北塩原村にまたがる成層火山で、標高1816mです。福島県のシンボルの一つで、日本百名山に選定されています。
会津富士は「会津磐梯山」という福島県の民謡で「宝の山」としてあまりにも有名ですね。「宝の山」と歌われる理由は、麓に「檜原金山・銀山」があり、会津藩の財政を支えたからです。
(3)関東地方
①榛名富士(榛名山)
榛名山は群馬県にある「上毛三山」の一つで標高1449mの成層火山です。「上毛三山」とは、「赤城山・榛名山・妙義山」の総称です。古来山岳信仰を受けて来た山で、山の南西麓に榛名神社が祀られています。
②下野富士/日光富士(男体山)
男体山は栃木県日光市にある標高2486mの成層火山です。山体は日光国立公園に属し、日本百名山に選定されています。中禅寺湖北岸にある山で、782年に僧勝道上人が初登頂したという記録が残っています。古くから山岳信仰の対象になって来た山で、山頂に日光二荒山神社の奥宮があります。
③浅間山
浅間山は、長野県北佐久郡軽井沢町および御代田町と群馬県吾妻郡嬬恋村との境にある標高2568mの成層火山です。
「あさま」は火山を示す古語とされ、富士山の神を祀る神社が「浅間神社(せんげんじんじゃ)」と呼ばれるのも同様の理由からです。阿蘇山の「あそ」も同系の言葉だと言われています。古くから山岳信仰の対象となっており、浅間神社が鎮座しています。
1972年2月下旬に、新左翼組織の「連合赤軍」による「あさま山荘事件」という人質立てこもり発砲事件がありましたが、この事件の場所は長野県北佐久郡軽井沢町にあった河合楽器の保養所で浅間山の近くにあります。
なお、この「浅間山」とは別の山ですが、栃木県に「男浅間山(おとこせんげんやま)」という標高112mの低山がありますが、この山は「足利富士」とも呼ばれています。「上浅間山(かみせんげんやま)」とも言います。山頂には上浅間神社が祀られています。
(4)中部地方
①越後富士(妙高山)
妙高山は新潟市にある標高2454mの成層火山です。「北信五岳」の最高峰で、日本百名山に選定されています。なお「北信五岳」とは、妙高山・斑尾山・黒姫山・戸隠山・飯縄山のことです。雪多いことで有名で、7月でも雪渓を見ることができます。
②信濃富士(黒姫山)
黒姫山は新潟県上水内郡信濃町にある標高2053mの成層火山です。古くから信仰の対象とされており、黒姫というお姫様の悲話伝説(黒姫伝説)があります。
「信濃奇勝録」には「岩倉池の龍蛇高梨家の息女に懸想(けそう)して不叶(かなわず)。其の仇(あだ)を報いむ為に水災をなせし」とあります。つまり「岩倉池に住む龍蛇が高梨氏の姫君(黒姫)に思いを寄せますが実らず、仕返しとして水害をもたらした」という伝説です。
③富士ノ折立(ふじのおりたて)
「立山」は飛騨山脈(北アルプス)北部の立山連峰の主峰で、「中部山岳国立公園」を代表する山の一つです。「雄山(おやま)」(標高3003m)・「大汝山(おおなんじやま)」(標高3015m)・「富士ノ折立」(標高2999m)の三つの峰の総称です。
④能登富士(高爪山)
高爪山は石川県羽咋郡志賀町と輪島市の境にある341mの低山ですが、古くから神体山として信仰を集め、山頂には高爪神社の奥宮が鎮座しています。
(5)近畿地方
①近江富士(三上山)
三上山は滋賀県野洲市三上にある標高432mの低山です。しかし、「古事記」「延喜式」にも見える由緒ある山で、紫式部の「うちいでて 三上の山を ながむれば 雪こそなけれ 富士のあけぼの」という和歌もあります。
私は滋賀県のゴルフ場に行く途中に、突然道路の奥に聳える近江富士が現れて、とても大きく感じた記憶があります。
(6)中国地方
①伯耆富士・出雲富士(大山)
大山は鳥取県にある標高1729mの成層火山です。中国地方の最高峰で、日本百名山に選定されています。
周辺の地域では、古くから大山信仰が根強くあります。「出雲国風土記」の「国引き神話」で、三瓶山と同様に縄を引っ掛けて島根半島を引き寄せたとあります。「火神岳(ほのかみだけ)」または「大神岳(おおかみのたけ)」とも呼ばれ、奈良時代の養老年間に山岳信仰の山として開かれたとされています。
(7)四国地方
①讃岐富士(飯野山)
飯野山は香川県の丸亀市と坂出市の境にある標高421mの低山です。山麓には古くから飯依比古を祀る飯神社と坂元神社が鎮座しています。身近な低山として人気を集めており、高齢化社会を迎えた昨今では、体力作りを兼ねた登山者が増加しているそうです。
西行法師作と伝えられる「讃岐には これをば富士と いいの山 朝げ煙 たたぬ日はなし」という和歌が残っています。
②大州富士(冨士山『とみすやま』)
冨士山(とみすやま)は愛媛県大洲市柚木にある標高319mの低山です。大洲市は「伊予の小京都」と呼ばれています。その大洲盆地と肱川を眼下に見下ろせる山頂付近は、「冨士山公園」として整備されています。
(8)九州地方
①筑紫富士(可也山)
可也山(かやさん)は福岡県糸島市にある標高365mの低山です。糸島半島の西部に位置し、唐津湾に接しています。糸島半島の平野部のほぼ全域から望むことができます。
旧制高校寮歌に「筑紫の富士」というものがありました。
②薩摩富士(開聞岳)
開聞岳は薩摩半島南端に位置する標高924mの成層火山で「霧島屋久国立公園」に指定されています。日本百名山、新日本百名山に選定されています。