「ひもじい」は「女房詞」で「文字詞」!?ほかの面白い例もご紹介します。

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ひもじい

現代は食べ物が捨てるほど溢れており、「飽食の時代」と言われています。ですから「ひもじい」という言葉を聞いても実感が湧かない人も多いのではないかと思います。「ひもじい」と感じるのは、せいぜい「人間ドック」の前の「絶食」の時ぐらいでしょうか?

1.「ひもじい」の語源

「ひもじい」とは、「空腹で食べ物が欲しい。ひどく腹が減っている」ことです。終戦直後の「食糧難の時代」は多くの国民がひもじい思いをしたものです。

空腹を表す古い言葉(形容詞)に「ひだるし」というのがありました。この「ひ」に「文字(もじ)」を付けて空腹を表す「ひ文字」という名詞ができ、それが形容詞化して「ひもじい」となったものです。「ひもじい」は、室町時代に宮中の女官たちの間で発生した「女房詞」の一つで、江戸時代にはすでに一般語化していました。

歌舞伎「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」(1777年初演)の千松のセリフに「侍の子といふものは、腹がへってもひもじうない」というのがあります。

2.文字詞(もじことば)

上の「ひ文字」のような言葉を「文字詞」と呼んでいます。これは、「物の名前を直接言うことを避けて、単語の語頭音節だけを残し、それに『文字』という言葉を添えたもの」です。

室町時代の「女房詞」から起こり、「恥ずかし」を「はもじ」と言いました。ほかにも髪(かみ)を「かもじ」、鮨(すし)を「すもじ」、湯巻(ゆまき)を「ゆもじ」、そなたを「そもじ」などと言う例があります。

「しゃもじ」も、「杓子(しゃくし)」の文字詞です。「しゃ」は文字では二字で書き表しますが、「音節」としては一つです。

3.女房詞(にょうぼうことば)

「女房詞」とは、「室町時代、宮中に仕える女官(女房)たちが、衣食に関して多く使った隠語」のことです。「位相語(いそうご)」(ある特定の社会や場面などに特徴的に使われる言葉)の一種です。

型としては、「○○文字」(文字詞)や「御○○」などがあります。

「御○○」の例としては、「おなか」(腹)、「おひや/おひやし」(水)、「おでん」(田楽)、「おみおつけ」(味噌汁)、「おしめり」(雨)、「おかべ」(豆腐)、「おぬめり」(「海鼠(ナマコ)」または「鯉(コイ)」)、「おかぼそ」(杵)、「おいたみ」(塩)、「おひろい」(徒歩)などがあります。