ギリシャ神話の「オリュンポス12神」以外の女神たち(その2)

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ガイア

前にギリシャ神話の「オリュンポス12神」(オリンポス12神)をご紹介しましたが、他にもたくさんの男神・女神たちがいます。

そこで今回はギリシャ神話に登場する女神を50音順にご紹介する2回目です。

原始の神々の系譜

1.カ行の女神たち

①ガイア(ゲー):「大地」の意味。原初の大地母神

ガイア

ガイアは地母神であり、大地の象徴と言われます。ただしガイアは天をも内包した世界そのものであり、文字通りの大地とは違う存在です。

ヘーシオドスの「神統記」によれば、カオスから生まれ、タルタロス、エロースと同じく世界の始まりの時から存在した原初神です。

ギリシャ神話に登場する神々の多くは、ガイアの血筋に連なり、また人類もその血を引いているとされ、母なる女神としてギリシャ各地で篤く崇拝されました。

みらいを予言する能力を持つ女神であり、デルポイの神託所はアポローンの手に渡る前は、元々ガイアのものでした。

さらに、地上のあらゆる事がその上で行われることから、誓言の神でもあり、ローマ神話におけるテルースに相当します。

神々が生まれる以前、宇宙には何もないカオス(混沌)が広がっていました。そこにガイアが生まれたとされています。

ガイアは自らの力だけで天の神ウーラノス、海の神ポントス、山の神ウーレアーを産みました。エロースの働きでウーラノスと親子婚し、夫としました。そのためウーラノスは神々の王となりました。

そしてウーラノスとの間にクロノスをはじめとする男女6柱ずつの子供を産みました。これがティーターン(巨神)族です。

またキュクロープス(一つ目の巨人)やヘカトンケイル(百本の手を持つ巨人)、ギガース(巨人、ギガンテスと呼ばれることが多い)、ピュートーン(牝蛇)、テューポーン(ギリシャ神話史上最大最強の怪物)などの魔神・怪物を産みました。

ウーラノスがクロノスに去勢された(これは子供たちを幽閉されたガイアが怒って命じた)後には、ポントスを夫にしたとも言われています。

②カリス(複数形はカリテス):美と優雅を司る神々

カリス

カリスは、通常ゼウスとエウリュノメー(オーケアノスの娘)の娘たちとされます。

カリスたちは、美や愛嬌・優雅といった美しい若い娘の姿であるとされ、オリュンポス山の山頂に住み、神々の宴ではアポローンの竪琴やムーサたちの歌声とともに演舞しました。

神々や人々に肉体的な美しさを表して喜ばせただけでなく、精神的な部分においても優美を与えたと言われるため、美術だけでなく技術を志す人々にも信仰されました。

本来は春の芽生えの活力を表した神であったと考えられています。しかし愛と美の女神となってからは、アプロディーテーの従者とされるようになり、またその娘とする説も生まれました。

③カリュプソー(カリュプソ、カリプソ):海の女神。オーケアニスもしくはネーレーイスの一柱とされる

カリュプソーカリュプソー

伝説的なオーギュギアー島の洞窟に住み、島に漂着したイタケーの王オデュッセウスを愛したとされています。

ホメーロスはカリュプソーについて、叙事詩「オデュッセイア」で巨人アトラースの娘であると語っています。

彼女の父アトラースについては、残忍な性格で、天と地を隔てている巨大な柱を支えており、彼女自身もまた奸知に長けた女神であると語っています。

④キルケー(キルケ):魔女(ニュンペー)であるが、元来は月、あるいは愛の女神であったとされる

キルケー

キルケーはギリシャ神話に登場する魔女(ニュンペー)ですが、この名前は古代ギリシャ語で「鷹」を意味します。

主にホメーロスの叙事詩「オデュッセイア」やアルゴー船の冒険、海神グラウコスとスキュラの恋物語に登場します。

太陽神へーリオスの血を引き、伝説的なアイアイエー島に住み、薬草学と薬学について膨大な知識を持っている彼女は、キュケオーンと呼ばれる調合飲料や、毒・軟膏・杖・呪文を用いて魔法を使い、人を動物に変身させ、自在に操って家畜とし、あるいは怪物に変えて破滅させました。

ホメーロスは彼女を「秘薬を使う魔女」と呼ぶとともに、「恐るべき女神」「髪麗しい女神」などと呼んでいます。

本来は月の女神ないし愛(ただし不真面目な愛)の女神で、イシュタル(メソポタミア神話における愛と美の女神)に相当する存在だったと考えられています。

キルケーは変身の魔法を使うことで知られています。島を訪れた異国の客を饗応する時、飲み物に故郷のことを忘れさせる薬を混入し、客が飲み終わるのを見計らって彼らを杖で打ちました。すると彼らは動物に変身するだけでなく、おとなしい性格になり、あるいはキルケーに命じられた通りに行動したということです。

キルケーの館の周囲には、このようにして動物に変えられた人間が数多くおり、どんなに体が大きく獰猛な獣であっても人間を襲うことはなく、まるで飼い犬のように親しげについて回ったそうです。

またキルケーは彼らの身体に軟膏を塗ることで、動物の体毛を取り除き、人間の姿に戻してやることができたということです。

⑤グライアイ(単数形はグライア):ゴルゴーンの姉妹。ペムプレードー・エニューオー・デイノーの三柱とされる

グライアイ

グライアイは3姉妹の怪物で、「老婆たち」の意です。

海神ポルキュースとその妻ケートーとの間に生まれた姉妹で、ペムプレードー(「意地悪な」の意)・エニューオー(「戦闘を好む」の意)・デイノー(「恐ろしい」の意)の三柱です。

ゴルゴーンの姉妹にあたり、ポルキュアス、フォルキュアスとも呼ばれます。

グライアイは生まれた時から灰色の髪をしていたために、神々も人間も彼女たちを「グライアイ」(老婆たち)と呼びました。

一つしかない歯と目を姉妹で共用しているとされます。一説では白鳥の翼と胴体を持っていたとされます。

オーケアノスの彼方のゴルゴーンの国の入り口にある岩屋に住んでいるとされます。

⑥ケートー(ケト):海の危険性や恐怖の神格化

ケートー

ケートーという名は、「海の怪物」という意味です。ケートーは、海の危険性や恐怖、海の未知の生物を神格化した女神です。

大地母神ガイアと海神ポントスの娘で、ネーレウス・タウマース・ポルキュース・エウリュビアーと兄弟姉妹です。

兄であるポルキュースを夫とし、ゴルゴーン3姉妹やグライアイ3姉妹の母となりました。子供や孫は全て怪物となりました。

⑦ケール(複数形はケーレス):戦場で死をもたらす悪霊

「イーリアス」では、戦場で死をもたらす悪霊とされます。翼を持ち、黒色で、長い歯と爪が長く、死体の血を吸うということです。

北欧神話のワルキューレと共通点が見られますが、大きな違いはケールは常に悪いイメージで語られることです。

ケールという言葉は、「運命」の意味でも使われます。アキレウスは、武勲に輝く短いケールと、故郷に帰る長く幸せなケールの選択を迫られました。また、死者の魂の意味でも使われます。

2.サ行の女神たち

①ステュクス(ステュイクス、ステイクス、ステッイクス):地下を流れているとされる大河。それを神格化した女神

ステュクスステュクス川を渡るカロン

ステュクスは、オーケアノスの流れの十分の一を割り当てられている支流で、地下の冥界を七重に取り巻いて流れ、生者の領域と死者の領域とを峻別しているということです。

ステュクスの支流には、火の川プレゲトーン、忘却の川レーテー、悲嘆の川コーキュートス、アケローン川があります。

女神としてのステュクスは、オーケアノスとテーテュースの娘で、オーケアニデスの長姉です。またパラス(クレイオスの息子)の妻で、彼との間にニーケー・クラトス・ゼーロス・ビアーをもうけました。

ティーターン神族ですが、ゼウスとの間の10年にわたる大戦争「ティーターノマキアー」の際には、父神オーケアノスの勧めで子供たちとともに、いち早くゼウス側に寝返りました。

その功績によって、彼女はゼウスから「神々を罰する」特別な権限を与えられました。オリュンポス山の神々は、誓言をする際にはイーリスにステュクスの水を汲みに行かせます。

神々はこれを飲んで誓言をしますが、もし誓言に背けば、その者は1年間仮死状態に陥ります。さらにその後9年間オリュンポス山を追放され、10年目にやっと罪を許されるということです。

このように、ステュクスの水には神々さえも支配する特別な力が宿っており、猛毒であるという説や、逆に不死をもたらす神水であるという説が唱えられています。

アキレウスも、母の手によってこの水に浸されて不死の体を手に入れましたが、母に掴まれていた踵の部分(アキレス腱)は浸されずに脆弱なままだったということです。

②セレーネー(セレネ、セレーネ):月の神

セレーネー

セレーネーは月の女神で、ローマ神話のルーナと同一視されます。聖獣は馬、驢馬、白い牡牛です。

ヘーシオドスの「神統記」によると、ティーターン神族のヒュペリーオーンとテイアーの娘で、太陽神へーリオス・曙の女神エーオースと兄妹です。

ゼウスとの間に娘パンディーア、ヘルセー、ネメアがいます。

輝く黄金の冠を戴き、額に月をつけた絶世の美女で、銀の馬車に乗って夜空を馳せ行き、柔らかな月光の矢を放ちます。

「華やかな夜の女王」「星の女王」「全能の女神」などの呼び名があります。

月経と月との関連から動植物の性生活・繁殖に影響を持つとされました。また常に魔法と関係付けられており、「ヘレニズム時代」(*)には霊魂の棲む所とも考えられていました。

(*)「ヘレニズム時代」とは、

アレクサンドロス3世(大王)の遠征~プトレマイオス朝エジプトの滅亡までの時代です。時期としては、紀元前334年頃~紀元前30年の約300年間です。

「ヘレニズム文化」(ギリシャ主義)とは、アレクサンドロス3世の東方遠征によって生じた古代オリエントとギリシアの文化が融合した「ギリシア風の文化」を指します。

後にアルテミスやヘカテーと同一視されました。

「女神自身が3つの顔を持つ」という形で表現されることがあり、新月・半月・輝く満月の3つの月相を永遠に繰り返しました。

そのほか、月は3つの顔を持ち、それは新しく生まれる三日月のアルテミス(処女・乙女)、満ちる豊穣の月のセレーネー(夫人・成熟した女性・母)、欠けていく暗い月のヘカテー(老女)であるとされています。

3.タ行の女神たち

①ダプネー(ダフネ):「月桂樹」の意味。ニュンペー

アポロンとダフネダプネー

テッサリアー地方の河神ペーネイオスの娘、あるいはアルカディア地方の河神ラードーンの娘とされています。

ダプネーはギリシャ語で「月桂樹」という意味で、欧米では女性の名前として名付けられることもあります。

アポローンに求愛されたダプネーが自らの身を月桂樹に変える話は、ギリシャ神話の物語の中でも有名で、この物語に由来する芸術作品や風習が数多く存在します。

ある日アポローンは弓矢で遊んでいるエロースを揶揄します。それに激怒したエロースは相手に恋する金の矢をアポローンに、逆に相手を疎む鉛の矢を近くで川遊びをしていたダプネーに放ちました。

金の矢で射られたアポローンはダプネーに求愛し続ける一方、鉛の矢を射られたダプネーはアポローンを頑なに拒絶しました。

追うアポローンと逃げるダプネー、ついにアポローンはペーネイオス河畔までダプネーを追い詰めました。ダプネーはアポローンの求愛から逃れるために、父である河の神に自らの身を変えるよう強く望みました。

その望みを聞き届けた父は、ダプネーの体を月桂樹に変えました。月桂樹に変えられたダプネーの姿を見てアポローンはひどく悲しみました。そして彼は愛の永遠の証として月桂樹の枝から月桂冠を作り、永遠に身に着けることにしました。

②ダミアー(ダミア):繁栄・多産・豊穣の女神

ダミアーは、古代ギリシャ語の「大地を守る者」を象徴する女神です。

ダミアーは秋と豊穣を司る女神で、アウクセシアー(春と成長を司る女神)とともに季節女神・ホーラの1柱です。

尚、一説ではアウクセシアーがペルセポネーと同一視され、ダミアーはデーメーテール(ペルセポネーの母)と同一視されています。

③タラッサ(タラッタ):原初の神。海の神格化

タラッサ

タラッサは海を神格化した原初神で、ポントスの女性版です。地中海を擬人化したと考える人もおり、アムピトリーテーやテーテュースのような海の女神と同一視されることもあります。

ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスによると、タラッサはアイテールとヘーメラーの娘で、ポントスとの間に魚の一族を産んだということです。

④テイアー(テイア):ティーターン神族の一柱

テイアーは、ウーラノスとガイアの娘で、オーケアノス・コイオス・クレイオス・ヒュペリーオーン・イーアペトス・クロノス・レアー・テミス・ムネーモシュネー・ポイベー・テーテュースと兄弟姉妹です。

また、ヒュペリーオーンの妻で、へーリオス(太陽)・セレーネー(月)・エーオース(暁)たちの母です。

⑤ディオーネー(ディオネ):ティーターン神族の一柱、もしくはアトラースの娘

ディオーネー

古くは天空の女神であったと推測されています。ディオーネーと呼ばれる女神は二人います。

「ティーターン神族の一柱」というディオーネーは、ウーラノスとガイアの娘です。

神話によるとディオーネーは、レアー・テミス・アムピトリーテーとともに、レートーのアポローン出産に立ち会っています。

またトロイア戦争で娘のアプロディーテーがディオメーデースに傷つけられた時、アプロディーテーを慰め、アレースがアローアダイに苦しめられた話や、ヘーラーやハーデースがへーラクレースに傷つけられた話を語ったということです。エーペイロスス

エーペイロスのドードーナの神託所では、ディオーネーはゼウスとともに祭祀され、ディオーネーの女祭司たちとゼウスの祭司たちが神託を司りました。

「アトラースの娘」というディオーネーは、タンタロスとの間にペロプス・ニオベーを産んだということです。

⑥テーテュース(テテュス):ティーターン神族の一柱

テーテュース

テーテュースはウーラノスとガイアの娘です。また、オーケアノスの妻で、3000人の河神の息子と、オーケアニデスと総称される3000人の海や泉、地下水の女神の母です。

ホメーロスによれば、彼女の住まいは大地の果てにあるとされます。またテーテュースとオーケアノスは、ヘーラーをクロノスから匿って育てましたが、オーケアノスと喧嘩して以来、両者は離れて暮らしたと言われています。

ヒュギーヌスはテーテュースを「ヘーラーの乳母」と呼んでいます。ヒュギーヌスによると、星座になったカリストー(おおぐま座)が海に沈むのを禁じたのはテーテュースです。

⑦テティス:海の女神。ネーレーイスの一柱。アキレウスの母

テティスユピテルとテティス

海神ネーレウスとドーリスの娘たち(ネーレーイス)の一人です。一説ではケンタウロス族の賢者ケイローンの娘と言われています。

テッサリアー地方のプティーアの王ペーレウスと結婚し、トロイア戦争の英雄アキレウスの母となりました。

ホメーロスとヘーシオドスからは、「銀の足のテティス」と呼ばれています。

ギリシャ神話の他の水域の神々と同様に、あらゆるものに変身する能力を持ち、預言の才能に長けていました。

叙事詩「キュプリア」では、テティスとペーレウスとの結婚がトロイア戦争のきっかけになったことが語られています。

⑧テミス:「掟」の神格化

テミス

ウーラノスとガイアの娘で、ティーターン神族の一柱です。テミスとは古代ギリシャ語で「不変なる掟」という意味です。

テミスは「正義の女神」とみなされることが多いですが、近代・現代的な意味での「正義」ではありません。むしろ、古代ギリシャ語で正義に該当する女神はディケーです。

ギリシャ神話においては、ティーターン神族とオリュンポス神との戦いである「ティタノマキア」の後、敗れたティーターン神族は主要な神の地位を失い、神話においても多くの神が言及されなくなり、また地位が低下しました。

オリュンポスの時代になって、なおその地位と威勢を変わりなく維持した神はテミスだけです。

⑨テュケー(テュケ):「運」を意味する

テュケー

テュケーは、都市の財産と繁栄、そしてその運命を司る中心的な女神です。テュケーという名は、「運」を意味するギリシャ語で、ローマ神話のフォルトゥーナに対応します。

ヘレニズム時代、次第に各々の都市はそれぞれの城壁を模した「城壁冠」を被ったテュケーを祀るようになりました。

ヘレニズム時代、キリスト教化までの3世紀間の硬貨には、テュケーが刻まれたものが多く見られ、エーゲ海の都市で顕著です。

中世美術では、彼女はコルヌコピアや舵を持ち、運命の輪とともに描かれ、運命の輪の全てを統括していました。

また、ガンダーラのギリシャ仏教芸術ではハーリティー(鬼子母神)と密接に関連します。

⑩デュスノミアー(デュスノミア、デイスノミア):不法の女神

デュスノミアーは、争いと不和の女神エリスの娘です。

ギリシャ神話では、詩や文学などでこの女神について言及されることは稀で、ヘーシオドスの哲学的思索あるいは教訓的な意味で「不法」を擬人化して神としたものと言えます。

しかしギリシャ哲学においては、倫理概念の神格化として大きな意味を持ち、プラトーンは「法律」においてこの神に言及しています。

⑪トリーアイ(トリアイ):占いを司る三柱のニュンペー

ゼウスの娘で、パルナッソス山に住み、アポローンの養母となりました。

予言者であり、小石による占術を発見しました。

蜜を好み、彼女たちに予言をうかがう際には多くの蜜を献じたと言われています。

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