前に「亀鳴く」や「山笑う」という面白い季語を紹介する記事を書きましたが、ほかにもまだ季語がたくさんあります。
そこで今回は「猫の恋」「猿酒」「神の旅」「花盗人」などの面白い季語をいくつかご紹介したいと思います。
1.猫の恋
「猫の恋」は「春」の季語です。
恋に憂き身をやつす猫のことです。春の夜となく昼となく、時には毛を逆立て、時には奇声を発して恋の狂態を演じます。雄猫は雌を求めて、二月ごろからそわそわし始め、雌を巡って時には雄同士が喧嘩をしたりします。
「子季語」には、「猫の妻恋」「恋猫」「猫交(さか)る」「浮かれ猫」「猫の夫」「猫の妻」「猫の契(ちぎり)」「春の猫」「戯れ猫」「通ふ猫」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・おそろしや石垣崩す猫の恋 正岡子規
・恋猫の眼(まなこ)ばかりに痩せにけり 夏目漱石
・身を舐めて戀の猫ゐる海の濱 山口誓子
・猫の戀やむとき閨(ねや)の朧月 松尾芭蕉
2.猿酒
「猿酒(さるざけ)」は「秋」の季語です。
猿が貯えておいた木の実が、木の洞や岩の窪みの中に雨や露がたまって、自然に発酵して酒のようになったものです。狩人や樵(きこり)が霊薬として味わったということですが、空想的な季語でもあり、山深い暮らしぶりの雰囲気があります。
「子季語」には、「猴酒(ましらざけ)」があります。
例句としては、次のようなものがあります。
・猿酒や炉灰に埋る壺の底 河東碧梧桐
・猿酒に消ゆる小雪もありぬべし 秋元不死男
・猿酒は夜毎の月に澄みぬらん 佐藤紅緑
・猿酒にさも似し酒を醸しけむ 水原秋櫻子
3.神の旅
「神の旅」は「冬」の季語です。
陰暦十月、諸国の神々が出雲大社へ集まるために旅立つことです。翌年の男女の結婚を予め定めるという伝説に基づくものです。相談を終えた神々は十月晦日(みそか)にそれぞれの国に帰ります。
もともとあった田の神が秋の収穫をもたらした後に山に帰るという
例句としては、次のようなものがあります。
・蘆の葉も笛仕る神の旅 高浜虚子
・都出て神も旅寝の日数哉 松尾芭蕉
・旅じたく神の御身をせはしなや 小林一茶
・かつらぎの神もおたちか小夜しぐれ 露川
4.花盗人
「花盗人」は「春」の季語です。
桜の美しさに惹かれて、その枝を折り盗むことです。風流な盗人で、狂言の演目などにこの題名が見られます。
例句としては、次のようなものがあります。
・問ひたきは花盗人のこゝろかな 士朗
5.遍路
「遍路」は「春」の季語です。
「四国遍路」のことで、弘法大師が巡錫(じゅんしゃく)した四国内の八十八カ所の霊場を巡拝するものです。
四月の桜の頃を中心に三月から五月にかけて、白装束で納経箱、金剛杖、数珠、鈴を持ち、「同行二人(どうこうににん)」と書いた笠を被ります。これはいつも弘法大師と一緒に巡礼しているという意味です。
「子季語」には、「遍路宿」「善根宿」「遍路道」「遍路笠」「遍路杖」「四国巡」「一国巡」「島四国」「花遍路」などがあります。
なお、秋の遍路には「秋遍路」という季語を用います。
例句としては、次のようなものがあります。
・布浅黄女人遍路の髪掩ふ 中村草田男
・谷水をゆたかに引けり遍路宿 高野素十
・お遍路をかくして過ぎし埃かな 高浜虚子
・ひろびろと灯を入れて待つ遍路宿 阿波野青畝