前にも「面白い季語」の記事を書きましたが、面白いものがまだありますのでご紹介します。
1.お花畑
「お花畑(はなばたけ)」は「夏」の季語です。「お花畠」とも書きます。
この「お花畑」は、平地にあるチューリップ・コスモス・ラベンダーなどの人工的な花畑のことではなく、自然が作り出した「高い山にある花の多い草原」「高山植物の群落」のことです。白馬・槍・五色ケ原・伊吹山などのお花畑が有名です。
高山の「森林限界」(日本中部では約2,500m)を越えたところでは、植物の生育可能な期間が短くなるので、多年生の極めて小さな草本が密生し、盛夏の頃、色とりどりの可憐なチングルマ・ニッコウキスゲ・キンポウゲなどの高山植物がほぼ一時に開花します。
例句としては、次のようなものがあります。
・雲うすく夏翳にじむお花畠 飯田蛇笏
・お花畑われら老幼影印す 瀧井孝作
・お花畑山霊嶺々に棲み給ふ 福田寥汀
・お花畑見下しつつも峰づたひ 野村泊月
2.麦の秋
「麦の秋」は「夏」の季語です。「麦秋(ばくしゅう)」「むぎあき」とも言います。
麦の穂が成熟する五月から六月頃をいいます。立春後百二十日前後(五月下旬)が麦刈りの時期とされます。初夏の日光と微風の中にそよぐ黄金色に輝くの麦の穂は美しく、麦畑を風が吹きわたる時の乾いた音も耳に心地よいものです。
私の住んでいる高槻市でも、水田や野菜を植えている畑は見かけますが、麦畑はほとんど見なくなりました。
例句としては、次のようなものがあります。
・麦秋や葉書一枚野を流る 山口誓子
・深山路(みやまじ)を出抜けて明けし麦の秋 炭太祇
・麦秋や日出でて霞む如意ケ嶽 日野草城
・麦秋や蛇と戦ふ寺の猫 村上鬼城
3.ぶらんこ
「ぶらんこ」は「春」の季語です。「鞦韆(しゅうせん)」「秋千(しゅうせん)」「半仙戯(はんせんぎ)」「ふらんど」「ふらここ」「ゆさわり」とも言います。
古く中国から渡来したもので、日本では昔は殿上人の遊戯でした。しかし今では大人はあまりブランコには乗りませんね。
寒い間はあまり顧みられませんが、暖かくなるにしたがって子供たちを誘う遊具です。
プレバトでフジモンが「ふらここ」を使った俳句を詠んで話題になったことがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・ふらんどや櫻の花をもちながら 小林一茶
・ふらここの會釋(えしゃく)こぼるや高みより 炭太祇
・鞦韆の月に散じぬ同窓會 芝不器男
・冬に入る砂場ブランコ切れしまま 荻野輝子
4.風光る
「風光る」は「春」の季語です。
春になってだんだん日光が強くなり、そよそよと軟風が吹きわたると、風が何となくきらきらと光り輝くように感じられることをいいます。
陽光の躍るような明るさに、風にゆらぐ景色もまばゆく感じられるもので、春の到来の喜びや希望を、吹く風に託した言葉です。
例句としては、次のようなものがあります。
・装束をつけて端居(はしい)や風光る 高浜虚子
・麦の風光りあつまる藁屋あり 水原秋櫻子
・陽炎のものみな風の光かな 久村暁台
・文鳥の籠白金に風光る 寺田寅彦
5.伊勢参り
「伊勢参り」は「春」の季語です。「伊勢参宮」「伊勢詣」「伊勢講」「参宮講」とも言います。
これは伊勢神宮に参拝することですが、近世には時候が良い春に多く行われました。「伊勢講」を作って講中で参拝することも多かったようです。
「伊勢参り」は江戸時代に「おかげ参り」「抜け参り」としても盛んに行われ、一大ブームとなりました。
例句としては、次のようなものがあります。
・春めくや人さまざまの伊勢参 山本荷兮
・このたびは伊勢詣とて又も留守 高浜虚子
・伊勢参ここより志摩へ抜ける道 稲畑汀子
・伊勢参輪中のみちをひろひけり 阿波野青畝