「蜾蠃乙女(すがるおとめ)」とはどんな乙女?

フォローする



風と共に去りぬ

1.蜾蠃乙女(すがるおとめ)

「蜾蠃乙女」とはどんな乙女でしょうか?

普段はツンツンしていて、二人っきりの時は急にしおらしくなってデレデレといちゃついてくるような「ツンデレ」タイプの女性のことでしょうか?

「悪女の深情け」ということわざにあるような嫉妬深い女性でしょうか、あるいはいつまでも付きまとう「ストーカー」のような女性のことでしょうか?

そうではありません。実は「蜾蠃乙女」とは、「ジガバチのように腰が細い美しい少女」のことです。

「蜾蠃(から)」とは、「ジガバチ(似我蜂」)の中国名です。腹部がくびれていることから、女性の細腰にたとえられます。

万葉集に高橋虫麻呂(生没年不詳)の次のような歌があります。万葉人もくびれのある腰の細い女性が好みだったようです。

しなが鳥 安房(あわ)に継ぎたる 梓弓(あずさゆみ) 末の珠名(たまな)は 胸別(むなわけ)の 広き我妹(わぎも) 腰細の すがる娘子(おとめ)の その姿(かほ)の きらきらしきに 花の如(ごと) 笑(え)みて立てれば 玉桙(たまほこ)の 道行く人は 己(おの)が行く 道は行かずて 呼ばなくに 門(かど)に至りぬ さし並ぶ 隣の君は あらかじめ 己妻(おのづま)離(か)れて 乞(こ)はなくに 鍵さへ奉(まつ)る 人皆の かく迷(まと)へれば かほよきに 寄りてそ妹(いも)は たはれてありける

現代語訳は次のようになります。

安房の国にほど近い周淮(すえ)の郡(こおり)に住む珠名(たまな) 胸の大きないとしい子 ジガバチみたいな細腰のなよやかできれいな女の子 その顔立ちは端正で 花のように微笑んで立っていれば 道を行く人は自分の行く先を忘れて 呼びもしないのに家の前まで来てしまう 隣家の夫はまず先に自分の妻を離縁して 娘が頼みもしないのに鍵まで渡してしまうのだ こんなふうに誰もかも心惑わすものだから そんな中から美男子を選んで娘は身を任せ 浮かれ遊んでいたそうだ

「ジガバチ(似我蜂)」という昆虫の腰は、本当にシャープペンシルの芯のような細さです。ちなみに「ジガバチ」という名前は、このハチが巣穴の中で「ジジジジ」と翅音(羽音)を立てるのを昔の人は「似我似我」(我が形になれ)と呪文をかけているように聞いたのが由来です。

キゴシジガバチジガバチ

映画「風と共に去りぬ」に描かれた南北戦争当時、スカーレット・オハラを始め女性たちはコルセットで強く腰を締め付けて体型を補正していました。

スカーレット・オハラ風と共に去りぬ・オリヴィア・デ・ハヴィランド風と共に去りぬ・コルセットの女性

最近では、「ギネス記録」を目指して「女王蜂のように極端に細い腰」を目指す女性もいるようです。

ウエストが40センチの女性女王蜂

昔の中国には、女性の足を小さくするための「纏足」があり、ミャンマーやタイには首に金輪を何重にも付ける「首長族」がいましたが、健康に害があるのではないかと他人事ながら心配になります。纏足はバレエのトウシューズよりも、はるかにきついと思います。

いずれにしても、国や時代によって「美女」の基準はさまざまに変化するようです。

首長族纏足バレエシューズ

2.「蜾蠃」の用例

「蜾蠃」は、「ジガバチ」の古名(また一般に蜂の異名)であるほか、「鹿」の古名・異名でもあります。この場合は「すがる」と読みます。

(1)「ジガバチ」の古名としての用例

・酒ほがひ蜜蜂(すがる)のごとく酔ひしれて羽な鳴らしそ君もおはすに (吉井勇)

・海神(わたつみ)の殿の蓋(いらか)に飛び翔(かけ)る為軽(すがる)の如き腰細に取り飾らひ (万葉集 竹取翁)

すかる鳴く秋の萩原(はぎはら)朝たちて旅ゆく人をいつとか待たむ(古今集、よみ人しらず)

(2)「鹿」の古名・異名としての用例

すがる伏す木(こ)ぐれが下の葛まきを吹き裏がへす秋の初風 (西行)

「細腰」は万葉時代の女性の容姿の美しさの一つの基準でした。「古今和歌集」以降は、もっぱら「鹿」の意で用いられますが、これも鹿が細身な感じからの呼び名です。

小鹿小鹿奈良公園

3.少子部蜾蠃(ちいさこべのすがる)

「少子部蜾蠃」とは、「日本書紀」「日本霊異記」に見える雄略天皇時代の豪族です。「少子部栖軽」「小子部栖軽」とも書きます。

「少子部」は「子部(児部)」と同様に、天皇(大王)の側近に仕える童子・女孺(少年・少女)らの養育を担当する部署・人的集団だったようです。「少子部」では、彼ら少年・少女を組織して、宮門護衛や宮中での雑務、あるいは宮中での避雷の呪術の祭祀に当たらせました。

現代のビルには「避雷針」がありますが、雷は今でも怖いものの一つです。御所への落雷もあったようで、昔の人にとっては「祟り」や「雷神」の怒りと恐れたのも無理はありません。

「日本書紀」雄略天皇6年3月の条(推定462年)に次のような話があります。

后妃へ養蚕を勧める雄略天皇から日本国内の「蚕(こ)」を集めるよう命令が出ましたが、スガルは誤って「児(嬰児)」を集めてしまった。

雄略天皇は大笑いして、スガルに「お前自身で養え」と言って皇居の垣の近くで養育させることにし、同時に「少子部連(ちいさこべのむらじ)」の姓を賜った。

4.蜾蠃の「蠃」に似た漢字

この「」という漢字は普段滅多に見かけない漢字ですが、これによく似た漢字がいくつかありますのでご紹介します。

(1)(ルイ、つかれる、やせる、よわる、よわい)

部首は「羊」です。意味は「疲れる」「痩せる」「弱る、弱り疲れる」「弱い、弱弱しい」「苦しむ」「覆す」です。

熟語としては「羸兵(るいへい)」(疲れ弱った兵隊)、「羸弱(るいじゃく)」(体が弱い)、「羸痩(るいそう)」(痩せ衰える)などがあります。

(2)(エイ、ヨウ、あまる、かつ、になう、のびる、もうける)

部首は「貝」です。意味は「余る、余り、余す」「勝つ、勝る、勝利」「担う」「緩む、伸びる」「儲ける、儲け」です。

熟語としては「贏財(えいざい)」(余分の財産、「贏利(えいり)」(儲け)、「贏縮(えいしゅく)」(伸び縮み)などがあります。

(3)(ラ、はだか)

部首は「肉月(にくづき)」です。意味は「裸、裸になる」「毛が短い獣」です。

(4)(エイ、みつる)

部首は「女」です。意味は「満ちる」「端」「怠る」「秦王室の姓」です。



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする