「卯の花腐し」「青葉潮」「筍流し」「あいの風」などの面白い季語

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卯の花腐し

今回は「卯の花腐し」「青葉潮」「筍流し」「あいの風」「底幽霊」などの面白い「夏」の季語をいくつかご紹介したいと思います。

1.卯の花腐し(うのはなくたし)

卯の花腐し

「卯の花腐し」とは、「陰暦四月に降り続く長雨のこと」です。この頃の長雨が美しく咲く卯の花を腐(くだ)す、つまり腐らせるのではないかとの気遣いからこう呼ばれます。

「子季語」には、「卯の花降(くだ)し」「卯の花くだし」などがあります。

この季語は、普段我々が日常使用する「生活語」ではなく、元々和歌から来た「歌言葉」です。

万葉集に大伴家持の次のような歌があります。

卯の花を腐(くた)す霖雨(ながめ)の始水(はみづ)逝(ゆ)き縁(よ)る木糞(こづみ)なす縁(よ)らむ児(こ)もがも

意味は、「卯の花を腐らせるような長雨で流れた水に寄せられる木屑のように、私に寄り添う娘がいたらなあ」ということです。

例句としては、次のようなものがあります。

・塀合に 卯の花腐し 流れけり(小林一茶

・大仏の 卯の花腐し 美しや(高木晴子)

・谷川に 卯の花腐し ほとばしる(高浜虚子)

・さす傘も 卯の花腐し もちおもり(久保田万太郎)

2.青葉潮(あおばじお)

青葉潮

「青葉潮」とは、「青葉の頃の黒潮のこと」です。黒潮は日本の南岸を北上し、房総半島沖を東に流れる海流です。「目には青葉山ほととぎす初鰹」という山口素堂(1642年~1716年)の俳句にあるように、この「青葉潮」に乗って鰹が北上します。

冬の間澄んでいた海の水は、三月なかばごろから濁って、いわゆる「赤潮」という現象が起きます。爆発的にプランクトンが繁殖するからで、この現象が起きると魚が取れなくなり、海藻は腐り、養殖貝などは死ぬので揚げてしまいます。

やがて新緑の候になると、この濁った海水の中へ明るく澄んだ紺青の潮が沖合から差し込み、湾内深く入り込んできて赤潮を駆逐してしまいます。これが黒潮で、「上紺水(じょうこんすい)」とも「桔梗水(ききょうみず)」とも言います。

「子季語」には、「青潮」「青山潮」「鰹潮」などがあります。

例句としては、次のようなものがあります。

・時は魔物の ように過ぎゆく 青葉潮(金子兜太)

・青葉潮 岬の鼻を 北上す(金國久子)

・青葉潮 ジョン万次郎 育ちし江(品川鈴子)

・江ノ島を あやしてをりぬ 青葉潮(渡部節郎)

3.筍流し(たけのこながし)

筍流し

「筍流し」とは、「筍の生える頃に吹き渡る南風のこと」です。「流し」は雨の気配を含んだ南風です。

「菜種梅雨(なたねづゆ)」という春の季語がありますが、その後に来る「五月雨」(梅雨)の前の長雨を指す言葉が「筍梅雨(たけのこづゆ)」です。

「子季語」には、「筍梅雨」「筍黴雨」などがあります。

例句としては、次のようなものがあります。

・雲ふかき 筍黴雨の 後架かな(飯田蛇笏)

・蛾が来るや 筍ながし 吹くからに(岡本松濱)

・筍流し いつから蔵の 傾けり(三井孝子)

・荒々と 筍流し 放哉忌(南うみを)

4.あいの風(あいのかぜ)

あいの風

「あいの風」とは、「春から夏(4月から8月ごろ)にかけて日本海沿岸で、北又は東から吹く穏やかな海風のこと」です。

大伴家持が越中に赴任した時の歌に次のようなものがあります。

東風(あゆのかぜ)いたく吹くらし奈吾(なご)の海人(あま)の釣する小舟榜(こ)ぎ隠る見ゆ

「子季語」には、「あえの風」「あゆの風」などがあります。

例句としては、次のようなものがあります。

・海川や 藍風わたる 袖の浦(河合曾良)

・あいの風 松は枯れても 歌枕(角川源義)

5.底幽霊(そこゆうれい)

底幽霊(苦潮)

川水の多量に混じった塩分の薄い軽い水が、塩分の濃い重い海水と混じり合うことなく、海水の表面を数メートルの層をなして包んでいることがあります。

これは夏の沿岸水域によく見られることで、この塩分の薄い上層にはおびただしい夜光虫が繁殖します。そして波の動揺につれて発光します。これは「赤潮」の一種で「苦潮」とも言います。

「底幽霊」とは、「苦潮」による現象で、「苦潮に船を乗り入れると船が一向に進まなくなる不思議な現象のこと」です。

これは科学的には「デッド・ウォーター」という現象です。航海用語で「死水(しすい/しにみず)」と言い、「海や河口付近で、密度の高い海水の上に密度の低い淡水または汽水の層が混合することなく存在する場合、振幅する波によって船の推進力が大きく削がれ、全く進むことができなくなる現象」です。

昔の人はこれを「しき幽霊」「しき仏」「底幽霊」などと呼んで恐れました。暗夜の海面が光ることを、「シキガタツ」「シキカケテクル」などと言いますが、夜光虫の光ることです。

「シキ」とは「海のあやかし(妖怪)」で、海で死んだ亡霊の仕業だと信じていたのです。謡曲の「船弁慶」に出てくる平知盛の幽霊は、このあやかしです。

梅雨が明けると、海の色は一気に深みを増します。日本列島沿いに太平洋を北上する黒潮の鮮烈な色(青葉潮)がイメージされます。「苦潮」は海面にできる酸素の少ない層で、硫化水素などを大量に発生させ、養殖の魚介類に甚大な被害をもたらします。

一般に使用される「季語」には、「苦潮」「夏潮」「夏の潮」などがあります。

「底幽霊」を使った俳句は見つかりませんでしたが、「苦潮」の例句としては、次のようなものがあります。

・苦潮に うつそみ濡れて 泳ぐなり(森川暁水)

・苦潮や 真珠筏の 浮き沈み(西村英子)

・苦潮や ざくろの赤き 花殖ゆる(角川春樹)

・苦潮や 浜木綿の花 色を変ふ(長尾正樹)



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