「正」という漢字には「権力者が自らを正当化する思惑」が隠されていた!?

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正という漢字の成り立ち

「正」という漢字は、学校で学級委員の投票などで、五つずつ票読みするために板書した記憶があります。これはアルファベットなど他の文字にはできない芸当です。

「正」という漢字は、「正義」「正月」「正確」など良い意味に用いられる場合が多いように思いますが、どういう成り立ちで元々どういう意味があったのでしょうか?

1.「正」という漢字の成り立ち

「正」は「会意文字」(口+止)です。

「国や村」の象形(口)と「立ち止まる足」「人の足跡」の象形から、国にまっすぐ進撃することを意味しました。今「一」と書かれている部分は、古くは「口」という形になっていました。

「正」は「征」の原字(*)です。

それが転じて「ただしい・まっすぐ」を意味する「正」という漢字が成り立ちました。

(*)「原字」とは、漢字「A」に複数の意味がある場合、その意味を明らかにするために、漢字「A」にある文字を加えて漢字「B」が作られた際の、漢字「A」のことを言います。

2.「正」という漢字には「権力者が自らを正当化しようとする思惑」が隠されていた?

「正」という漢字は、もともと血なまぐさい文字でした。

古代中国の国家は、外敵や野獣を防ぐために、土で突き固めた城壁で囲まれていました。そこを山の上などから見ると、口の形に見えたのです。

「正」は、城壁に囲まれた集落に対して攻撃に向かっていることを表す文字だったのです。

「攻めこんで支配し、そこで暮らす人々に重圧を加え、税の負担を強いること」がゆるぎない「正義」です。

「正」という漢字には、権力者が自らを正当化しようとする思惑が隠されているのです。今からおよそ三千年前、中国の殷王朝で生まれた甲骨文字です。

亀の甲羅や牛の骨に現れたひびの形は、国王と神とをつなぐ手段であり、国王の政策が神の意志と一致していることを表すとされていました。

それが民衆を苦しめるものであろうと、他の氏族を服従させることになろうと、すべては神のお墨付きがあるというわけです。政治の舞台に立つ者は「正」という漢字を使い、自らの正当性を示したのです。

「勝てば官軍」、勝った者が正義を獲得するのが世の常です。それでこの字がやがて「ただしい」という意味で使われるようになり、逆に本来の「戦争」の意味が次第に忘れられるようになったのです。

そこで改めて、「道路・行進」を示す「彳」をくっつけた「征」で、元々の意味を示すようになりました。

つまり「正」と「征」は親子関係(「正」は「征」の原字)にあるのです。

反骨精神を貫き通した詩人、金子光晴が記した「人間の悲劇」という詩集に、こんな一節があります。

正しい意見とされてゐるものを、吾人はよくよく警戒しなければならない。

正しい意見はその正しさにもたれる重力でゆがみ、決してくるはずではなかった方角へ外れがちなのだ。

3.「正」を含む言葉

(1)改正(かいせい)

悪い部分を変えて、よりよくすること。

(2)賀正(がしょう/がせい)

新年を祝う言葉。年賀状などに使う言葉。賀春。

(3)校正(こうせい)

印刷したものの文字や文章を元のものと比べて間違いを正し、見た目を整えること。

(4)粛正(しゅくせい)

厳しく取り締まって不正を正すこと。

(5)正客(しょうきゃく)

正面の座席に座る最も重要な客。主賓。

(6)正金(しょうきん)

①現在用いられている貨幣。現金。

金貨や銀貨などの額面と同じ価値のある貨幣。正貨。

4.「正」を含む四字熟語

(1)悪人正機(あくにんしょうき)

罪深い悪人を救済することこそが、阿弥陀仏の本願であるという教えのこと。
「正機」は人が悟りを得るための条件や資質のことで、悪人こそが往生するにふさわしい機根だとする浄土真宗の親鸞の基本的思想のこと

(2)安宅正路(あんたくせいろ)

仁と義のたとえ。
「安宅」は住み心地の良い家のことで、安らかな身の置き場の意から、仁のたとえ。
「正路」は人の歩むべき正しい道という意から、義のたとえ。

(3)改邪帰正(かいじゃきせい)

悪い行いをやめて、正しいことをするように改心すること。

(4)帰正反本(きせいはんぽん)

悪い状態をよい方へ変えて、元のあるべき状態に戻ること。
「正に帰り本に反る」とも読みます。

(5)曲直正邪(きょくちょくせいじゃ)

正しいことと、正しくないこと。
「曲直」と「正邪」は、どちらも正しいことと、正しくないことという意味で、似た意味の言葉を重ねて強調した言葉。「正邪曲直」「是非正邪」とも言います。

(6)形直影正(けいちょくえいせい)

心の善悪が行動に表れること。または、原因と結果が相反することがないことのたとえ。
「形」と「影」はどちらも本体とそれから現れるもののたとえで、原因と結果のたとえ。または、自分と他人のたとえ。まっすぐなものは、影もまっすぐになるという意味から。
「形直ければ影正し」とも読みます。

(7)賢良方正(けんりょうほうせい)

賢くて行いが正しいということ。
または、中国の漢や唐の時代以降に行われた、官吏を登用するときの試験の科目の名前。
「賢良」は賢くて素直なこと。「方正」は行いが正しいという意味。

(8)正笏一揖(しょうしゃくいちゆう)

重々しく礼儀正しい振る舞いをして、相手に敬意を示すこと。
「正笏」は束帯を身に付けた時に右手に持つ笏を正しく持つ振る舞いのこと。または、そこから礼儀正しいことのたとえ。「一揖」は軽くお辞儀をすること。

(9)破邪顕正(はじゃけんしょう/はじゃけんせい)

不正を打破して、正しい行いを示して守ること。
仏教の言葉で、邪説を打破して、正しい仏教の道を指し示すことを言います。

(10)不失正鵠(ふしつせいこく/ふしつせいこう)

物事の一番大切な部分を正確にとらえること。「正鵠」は弓の的にある中心の黒い星のこと。
矢を外すことなく、正確に正鵠を射抜くという意味から。

(11)翻邪帰正(ほんじゃきしょう/ほんじゃきせい)

悪い心を改め正して、正しい道に戻ること。
仏教の言葉で、「邪を翻し正に帰す」とも読みます。

(12)臨終正念(りんじゅうしょうねん)

死に臨む時も心を乱さずに、心を穏やかに保つこと。
仏教の言葉で、心静かに念仏を唱え、極楽往生を願いながら死んでいくことを言います。
「臨終」は死ぬ直前のこと。「正念」は心を正しい状態に保つこと。

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