1.「手」が付くことわざ・慣用句
(1)手に取るな、やはり野に置け蓮華草(れんげそう)
蓮華草は野に咲いていてこそ美しいのだから、摘み取らないでそのまま野に置いてほしいということ。そのものに適したふさわしい環境に置くのがよいというたとえです。
「続俳家奇人談ー中」によれば、遊女を身請けしようとした友人を戒めて、播磨の滝野瓢水という人が作った俳句ということです。初句は「手に取らで」「取らずとも」などとも言いまず。
2019年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」にも登場した政治家で「寝業師」との異名を持つ川島正次郎自民党副総裁(川島派の領袖)が、自派閥の荒船清十郎が深谷駅問題で運輸大臣を辞任した時に「荒船君はやっぱり『野に置けレンゲ草』だったよ」と評したことでも有名です。
(2)手書(てか)きあれども文書(ふみか)きなし
上手に文字を書く人は多いが、巧みに文章を書く人は少ないということ
(3)手習いは坂に車を押す如し
少しでも油断をすると、すぐ後戻りをすることから、絶えず努めなければならないということ
これは「学問」だけでなく、競争相手のある「商売」についても言えることです。
(4)手が入れば足も入る
一度気を許せば、だんだん深入りされて、ついには全て侵されてしまうたとえ
「軒を貸して母屋を取られる」も似たような意味です。
(5)手が空(あ)けば口が開(あ)く
仕事がなければ暮らしが立たないこと。また、暇になれば無駄話が多くなること
近松門左衛門作の浄瑠璃「心中刃は氷の朔日」(1709年)に、「女夫(めおと)の手ばっかりの商売、手があけば口があくで、自づから御無沙汰」と出ています。
(6)手を翻(ひるがえ)せば雲となり、手を覆(くつがえ)せば雨となる
手のひらを上に向けると雲が湧き、手のひらを下に向けると雨が降るということ。人情が軽薄で変わりやすく、頼みがたいことのたとえです。
これは杜甫の「貧交行」に「手を翻せば雲となり、手を覆せば雨となる。粉粉たる軽薄何ぞ数うるを須(もち)いん、君見ずや管鮑貧時の交わりを、此の道今人棄てて土の如し」とあるのに由来します。
(7)得手(えて)に鼻突く
最も得意なことは鼻であしらってするので、かえって失敗すること。得意なことだと、つい気が緩んで注意を払わないので失敗することのたとえです。
「過ちは好む所にあり」「泳ぎ上手は川で死ぬ」「山師山で果てる」「川立ちは川で果てる」も同じような意味です。
2.「手」が付く熟語
(1)手タレ
「手タレ」とは、「パーツモデル」「ハンドモデル」とも呼ばれる手の美しさを売りにしているモデルのことです。
広告やテレビCMなどで、手の部分に注目するシーンで活躍する「手のタレント」です。手の美しい人が多いですが、母親らしい手・逞しい手・気品のある手などニーズによってさまざまな「手タレ」が起用されます。
「手タレ」は手の美しさを保つために、日々のセルフケアはもちろん、日常生活では手袋をつけて外部からの刺激を遮断したり、エステなどにも通う必要があり、苦労と費用も相当なようです。
しかし収入は、1仕事で1万円~10万円程度なので、「手タレ」だけで生計を立てるのは難しく、美容に関する意識の高い人が副業としてやっている場合が多いそうです。
(2)手千両(てせんりょう)
手先が器用だったり、技術を身につけたりしている人は、大変有利であるということ。また、字が上手であるのは、一生の役に立つということ
浄瑠璃の「大和歌五穀色紙」に、「もふ今の間じゃ今の間じゃと誰も褒めざる手千両」と出ています。
(3)眼高手低(がんこうしゅてい)
知識はあり、あれこれ批評するが、それをこなす能力がないこと。また、理想は高いが実力が伴わないことのたとえ
「志大才疎(しだいさいそ)」もよく似た意味で、志は雄大だが、それに見合った才能に欠けることです。