皆さんは熟語の読み方で、二つの読み方が行われていて、どちらが正しいのか、あるいはどちらも正しいのか迷ったことはありませんか?
前に「熟語の読み方・どちらが正しいか(その1)早急・施行・依存・世論・面目」「熟語の読み方・どちらが正しいか(その2)御用達・発足・博士・幕間・大地震」「熟語の読み方・どちらが正しいか(その3)大安・大舞台・古文書・手数・木の実」「熟語の読み方・どちらが正しいか(その4)判官・代替・寄贈・逆手・登坂」という記事を書きましたが、まだまだありますので、今回も引き続きいくつか具体例をあげて解説したいと思います。
1.遺言
「ゆいごん」と「いごん」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。
一般的には「ゆいごん」と読む場合が多いですが、法律上は「いごん」と読みます。
2.目途
「めど」と「もくと」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。
岸田首相などの政治家や官僚はよく演説や国会答弁で「もくと」と読んでいますが、一般的には「目途がつく」のように「めど」と読みますね。
「毎日新聞校閲センター」の「毎日ことば」の調査によると、「目途」は「めど」と読む人が4分の3と圧倒的だったそうです。
文化庁「言葉に関する問答集 総集編」(1995年)は、数ある「○途」という熟語のうち「~ど」と読むものは「先途(せんど)」「冥途(めいど)」だけだとした上で次のように説明しています。
先途・冥途の場合に「途」を「ド」と使うことは、どちらも字音で読む熟語であり、「途」は連濁して読む習慣になっている語である。しかし、「目途」を「メド」と読む場合は、湯桶(ゆとう)読みとなり、これはそのような読みくせが認められていない以上、不適当であろう。
以上のようなことから言えば、「目途」は「モクト」と読む場合は、前述のとおり、何も問題はないが、「メド」と読む場合は、常用漢字表の音訓欄に掲げてある音訓による使い方からは外れていると見るべきであろう。
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3.共存
「きょうそん」と「きょうぞん」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。本来の読み方は「きょうそん」ですが、最近は「きょうぞん」と読む人も多くなってきています。
「存」を漢音の「そん」と読む言葉には、次のようなものがあります。
存在・残存・既存・存否・現存・存続・存亡・存立など
「存」を呉音の「ぞん」と読む言葉には、次のようなものがあります。
存念・異存・存外・存知・存分・一存・所存など
「そん」と読む場合の漢字のグループは、対象となるものが目の前にあるイメージですが、「ぞん」と読む漢字のグループは、心の内面(think)を表すものが多いようです。
ただし、存命・保存・温存などは「ぞん」と読みますが、心の内面(think)を表すものではありません。
4.副読本
高校の英語の授業で教科書以外に使うテキストを「副読本」(和製英語で「サイドリーダー」)と呼んでいましたね。
この「副読本」には、「ふくどくほん」と「ふくとくほん」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。ただし「発音の揺れている言葉」の一つではあります。
小学館デジタル大辞泉によると、「読本(とくほん)」とは次のような意味です。
(1)太平洋戦争前まで小学校で国語の授業に使用した教科書。また一般に、教科書のこと。
(2)読みやすいようにやさしく書かれた入門書や解説書。
「読本」単独の場合の読み方は「とくほん」のほかに、江戸時代の通俗小説の呼び名としての「よみほん」があります。
5.追従
「ついじゅう」と「ついしょう」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。ただし現代では意味が異なりますので使い分けが必要です。
この「追従」は、今までご紹介して来た言葉が「意味は同じで読み方が複数ある言葉」であるのに対して、「同じ漢字で意味が異なる複数の読みがある言葉」です。これは 「同字異音語(どうじいおんご)」と呼ばれています。
「従」の字音は、呉音「じゅ」、漢音「しょう」、慣用音「じゅう」です。したがって、慣用音によれば「ついじゅう」、漢音によれば「ついしょう」となります。
古くは「ついしょう」という読み方で、「あとに付き従うこと」の意味にも、「媚(こ)び諂(へつら)うこと」の意味にも用いられていました。
現代では「ついじゅう」と読むときは、誰かについて行くこと、または、他人の言うがまま、なすがままに従うことを意味します。
一方「ついしょう」と読むときは、他人の気にいるように振る舞うこと、こびへつらうことを意味します。