古来日本人は、中国から「漢語」を輸入して日本語化したのをはじめ、室町時代から江戸時代にかけてはポルトガル語やオランダ語由来の「外来語」がたくさん出来ました。
幕末から明治維新にかけては、鉄道用語はイギリス英語、医学用語はドイツ語、芸術・料理・服飾用語はフランス語由来の「外来語」がたくさん使われるようになりました。
日本語に翻訳した「和製漢語」も多く作られましたが、そのまま日本語として定着した言葉もあります。たとえば「科学」「郵便」「自由」「観念」「福祉」「革命」「意識」「右翼」「運動」「階級」「共産主義」「共和」「左翼」「失恋」「進化」「接吻」「唯物論」「人民」などです。
ポルトガル語は、日本語と最も付き合いが長いヨーロッパの言語です。日本とポルトガルの交流は約500年前の室町時代から始まり、現在ではポルトガル語由来とは忘れてしまうくらい沢山の言葉が日本語として定着しました。
そこで今回は、日本語として定着した(日本語になった)ポルトガル語由来の「外来語」(その2:サ行~タ行)をご紹介します。
1.シャボン玉(Sabão)
シャボン玉は「石鹸」を意味するポルトガル語のsabão(サボン)もしくは中世スペイン語のxabón(シャボン)に由来します。
現在のスペイン語で石鹸はjabón(ハボン)と言いますが、16世紀頃の中世スペイン語ではxabón(シャボン)と言いました。そのため発音的にはスペイン語由来の方が有力かもしれません。
ちなみにシャボン玉はポルトガル語では「bolha de sabão」、スペイン語では「pompa de jabón」です。bolhaとpompaは泡のことです。
2.サラダ(Salada)
「サラダ」は、ポルトガル語のsalada、オランダ語やフランス語のsalade、英語のsaladなどに由来するとされています。
ポルトガル語由来の外来語が日本に伝わったのは主に室町時代から安土桃山時代でしたが、江戸時代以前の日本は生野菜を食べる習慣がなかったので、幕末から明治時代に影響が高くなったフランス語や英語に由来するかもしれません。
サラダは元々ラテン語で「塩」を意味するsal(サル)、「塩を加える」を意味するsalare(サラーレ)が語源です。これは古代ギリシャや古代ローマで生野菜に塩をかけて食べる習慣があったことに由来します。
3.ジョウロ (Jorro)
「ジョウロ」はポルトガル語で「噴出」を意味するjorroが語源です。
語源をさかのぼるとポルトガル語で「噴出する」を意味するjorrar、スペイン語で「流れ、噴射」を意味するchorro(チョロ)に由来します。スペイン語のchorroはオノマトペ(擬態語)で、自然の音から形成された単語です。英語でジョウロはwatering canです
日本語でも水が少しずつ流れることをチョロチョロと言いますが、スペイン語やポルトガル語のオノマトペと似ていますね。
4.タバコ(Tabaco)
「タバコ」は、ポルトガル語やスペイン語のtabacoに由来します。
タバコは南北アメリカやカリブ地域で古くから利用されていて、一説によると、カリブ海のタイノ族の言語で「タバコの葉を巻いたもの」や「タバコを吸うパイプ」を指した語が語源だそうです。
ただ、語源には諸説あり、アラビア語で「薬草」の一種を指す「tabāq」に由来するという説もあります。
ヨーロッパに伝わったのは1560年頃で、フランスの外交官ジャン・ニコ(Jean Nicot)が「不思議な薬」としてフランスに持ち帰ったのが最初だそうです。始めは観賞用でしたが万能薬としてアフリカやヨーロッパに広がり、16世紀にはアフリカやアジア、そして日本へ伝わりました。
5.タピオカ(Tapioca)
「タピオカ」、はブラジル先住民の言語のトゥピ語で「澱粉(でんぷん)の沈殿物のことをtapi’okaと呼んでいたことに由来します。
1500年頃にこの地を訪れたポルトガル人がキャッサバの根から製造したデンプンをtapiocaと呼んだことから広まりました。現在ではタピオカで作られるお菓子のことも指しますね。
6.チャルメラ(Charamela)
「チャルメラ」は、ポルトガル語のcharamelaに由来します。
チャルメラの起源はイスラム諸国で使われた楽器スルナイで、16世紀頃に中国から日本に伝わりました。この楽器を江戸時代に来日したポルトガル人が木管楽器のショームを意味するcharamelaと呼んだことから、チャルメラと呼ばれるようになりました。ショームはオーボエの祖先にあたる木管楽器です。
語源をさかのぼると古代ギリシャ語のkálamos(菖蒲、葦、杖)という言葉に由来します。この語はcaramel(キャラメル)やcaramelo(カラメル)とも同じ語源です。葦という語は食べ物や楽器など色々な言葉に派生しているんですね。
7.チョッキ(Jaqueta)
「チョッキ」は、ポルトガル語のjaqueta(ジャケット)、フランス語のjaque、英語のjackなどに由来します。
一説によると「直接着る」ことから日本語で直着(ちょくぎ)と呼ぶようになったとも言われています。チョッキは明治時代に定着した言葉ですが、1960~70年代頃から殆ど使われなくなり、現在では英語由来のvest(ベスト)が一般的です。
ちなみに、イギリスではwaistcoat(ウェストコート)、フランスではgilet(ジレ)とも呼ばれます。
8.天ぷら (Tempero)
てんぷらの語源は諸説あり、ポルトガル語の寺院(templo)や調味料(tempero)などに由来するとされています。
一説には、てんぷらがお肉を使わない精進料理だったため、「寺院のような料理」ということから「テンプロ」と呼ばれるようになったのだそうです。諸説が多く定説はありませんが外来語(特にポルトガル語)である説が有力です。
9.トタン(Tutanaga)
「トタン」は、ポルトガル語で「亜鉛」を意味するtutanaga(ツタンナガ)が語源といわれています。
トタンは屋根などの建築資材として使用されている「亜鉛めっき鋼板」のことで、江戸時代の1712年に完成された百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』に「亜鉛」の語が初めて記載されました。当時は亜鉛のことをトタンと呼んでいたそうです。ちなみに現在のポルトガル語で亜鉛のことはzincoとそうです。
10.ドトール(Doutor)
ドトールコーヒーの「ドトール」は、ポルトガル語で「医者、博士」を意味するdoutor(ドトール)に由来するそうです。創業者の鳥羽博道氏が、ブラジルのコーヒー農園で働いていた時の下宿先の住所名に因むそうです。
11.トルコ(Turco)
「トルコ」は、ポルトガル語で「トルコ人、トルコの」を意味するturcoに由来します。
トルコ語ではTürkiye(テュルキイェ)、英語ではTurkey(ターキー)といいますが、16世紀頃にイギリスやオランダなどの国名とともにポルトガルから伝わりました。
トルコ語のTürkiyeは元々トルコに住んでいた「トルコ人」のことを指した語で、最終的にはテュルク祖語のtüri-(系統、祖先)という言葉に由来します。テゥルク人やチュルク人は中央アジアに住んでいたトルコ人の祖先です。
ちなみに七面鳥も英語でturkeyと言いますが、トルコ経由でヨーロッパに輸入されたことに由来するそうです。