古来日本人は、中国から「漢語」を輸入して日本語化したのをはじめ、室町時代から江戸時代にかけてはポルトガル語やオランダ語由来の「外来語」がたくさん出来ました。
幕末から明治維新にかけては、鉄道用語はイギリス英語、医学用語はドイツ語、芸術・料理・服飾用語はフランス語由来の「外来語」がたくさん使われるようになりました。
日本語に翻訳した「和製漢語」も多く作られましたが、そのまま日本語として定着した言葉もあります。たとえば「科学」「郵便」「自由」「観念」「福祉」「革命」「意識」「右翼」「運動」「階級」「共産主義」「共和」「左翼」「失恋」「進化」「接吻」「唯物論」「人民」などです。
江戸時代の日本はヨーロッパで唯一オランダとは交易を持っていたため、オランダ語経由で様々な西洋の学問や知識を取り入れて来ました。現在では、オランダ語由来の言葉だとは分からないほど日本語として定着しています。
そこで今回は、日本語として定着した(日本語になった)オランダ語由来の「外来語」(その1:ア行)をご紹介します。
1.アパルトヘイト(Apartheid)
「アパルトヘイト」は、南アフリカ共和国における白人と非白人を差別的に規定した人種隔離政策で、1948年から1991年6月まで続きました。
「アパルトヘイト」は、アフリカーンス語で分離・隔離(apartheid)という意味があります。アフリカーンス語はオランダ語から派生した言語で、クレオール言語に位置付けられることもあります。
2.アジア(Azië)
日本語の「アジア」という発音はオランダ語のAziëに由来します。
江戸時代の蘭学者・宇田川榕菴(うだがわようあん)が1822~25年に書いた『遠西医方名物考』という書物に「アジア」という発音の記録が残っています。
ヨーロッパ言語に関してはラテン語や古代ギリシャ語のAsiaに由来します。それ以前については、古代メソポタミアのアッカド語で「日の出、東」を意味するasuが語源と言われていますが定説はありません。
少なくとも古代ローマや古代ギリシャから見て東方を指す言葉ではあったようで、当時はトルコにあるアナトリア(Anatolia)を指していました。アナトリアは小アジア(Asia Minor)とも呼ばれています。
地理的見解が拡大するとともにアジアの定義も拡張され、現在ではヨーロッパを除くユーラシア大陸全般を指すようになりました。
3.アスベスト(Asbest)
「アスベスト」は、蛇紋石や角閃石が繊維状に変形した天然の鉱石で、無機繊維状鉱物の総称です。蛇紋石系(クリソタイル)と角閃石系(クロシドライト、アモサイトなど)に大別されます。鉱物繊維なので、「石綿(いしわた、せきめん)」とも呼ばれています。
日本では1975年(昭和50年)9月に、吹き付けアスベストの使用が禁止されました。また、2004年(平成16年)に石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止され、2006年(平成18年)には同基準が0.1%以上へと改定されています。
「アスベスト」はオランダ語やドイツ語のasbestに由来します。
語源をさかのぼると、ギリシャ語で「消すことが出来ない(ásbestos)」という言葉に由来します。ギリシャ語でaは「ない」、sbestosは「消火出来る」を意味する言葉で、火をつけても消えることがなかったことから名付けられました。
4.アムステルダム(Amsterdam)
「アムステルダム」は、アムステル川(Amstel)とダム(dam)が合わさった言葉です。
海抜が低いオランダでは水位を調整するためにダムがよく利用され、そこから街が発展して都市名や地名になることがよくあります。ダムが名前になっている街は他にも、ロッテ川のダムから発展したロッテルダム(Rotterdam)や、スヒー川のスヒーダム(Schiedam)、エー川のエダム(Edam)などがあげられます。
5.アルカリ(Alkali)
「アルカリ」とは、一般に水に溶解して塩基性(水素イオン指数 (pH) が7より大きい)を示し、酸と中和する物質の総称で、オランダ語のalkaliに由来します。
語源をさかのぼると、ラテン語のalcali、更にはアラビア語の「植物の灰(al-qiliy)」に由来します。この語はカリウム(kalium)と同じ語源です。
「アルカリ」は8~9世紀頃にイスラムの錬金術師ジャービル(Jābir ibn Hayyān)によって発見され、日本では江戸時代の蘭学書『厚生新編』で「アルカリ」という語が初めて確認されました。
6.アルコール(Alcohol)
「アルコール」は、炭化水素の水素原子をヒドロキシ基 (-OH) で置き換えた物質の総称で、オランダ語のalcoholに由来します。
狭義では酒類の成分であるエタノール(エチルアルコール)を指しますが、一般には広くアルコール類の総称として用いられます。
語源には諸説ありますが、アラビア語で「粉状物質、さらさらしたもの」を意味するal-khwlという言葉に由来するそうです。alがアラビア語で定冠詞を意味することから、この説が有力になりました。
7.アロエ(Aloë)
「アロエ」は、ユリ科アロエ属の多肉植物の総称です。アフリカ原産。葉は剣状で、多く縁にとげがあり、互生または根生します。花は橙赤色の筒形で、総状または散形につきます。葉を健胃・緩下・傷薬とします。観賞用・薬用に栽培され、「医者いらず」「蘆薈(ろかい)」とも呼ばれています。
「アロエ」は、オランダ語のaloëに由来します。紀元前からエジプトやギリシャなどで利用され、日本には鎌倉時代に伝わりました。
8.エーテル(Ether)
「エーテル」は、有機化合物の分類の一つで、構造式を R−O−R’(R, R’ はアルキル基、アリール基などの有機基、O は酸素原子)の形で表される化合物を指す言葉で、オランダ語のetherに由来します。
語源をさかのぼるとギリシャ語で「明るい空気、上空、大空」を意味するaitherという語に由来します。
化学ではエチルエーテルの総称のことを指しますが、神学ではアリストテレスの「四元素説」(火風水土)を拡張した「第五元素」(天体世界)として考えられていました。 また、19世紀以前の物理学では、光を伝える媒質を表す術語でした。
9.エキス(Extract)
「エキス」とは、動物や植物などの成分を水、エタノールあるいは水とエタノールの混合液に浸出させた液体を濃縮したもので、医薬品や、加工食品の材料などに使われます。
オランダ語で「抽出」を意味するextract(エキストラクト)の略称に由来します。
exは「外」、tractは「引き出す」という意味があります。語源をさかのぼるとラテン語のextractusという語に由来し、英語のextract、フランス語のextrait、スペイン語のextractoなどと同じ語源になります。
栄養成分を凝縮した液体(エキス)という意味以外にも、抜粋や要約という意味でも使われています。
10.エレキテル(Elektriciteit)
「エレキテル」はオランダ語で「電気、電流」を意味するelektriciteitが訛った語です。
「エレキテル」は医療などで使われる静電気の発生装置のことで、簡略化してエレキとも言います。1751年頃にオランダ人が幕府に献上した記録が残っています。1776年には蘭学者の平賀源内が復元・自製したことでも知られています。
11.お転婆(Ontembear)
「お転婆」とは、恥じらいや慎み、淑やかさといった 女性 らしい要素に欠け、いつも活発に振る舞っている男勝りの活発な女の子(娘)のことです。
なお、「お」を頭に付けずに「転婆」と書いたり、お転婆な 女の子 を 指 して「お転婆 娘(おてんば娘 )」と呼ぶこともあります。 男の子に対する「やんちゃ」「わんぱく」等といった言葉と同義で用いられる傾向にあります。
「お転婆」は、オランダ語で「手に負えない」を意味する動詞ontembear(オテンバール)に由来します。
語源には諸説あり、江戸時代に運送を担った卸伝馬(ごてんま)に由来するとする説もあります。以前は「天馬」という表記も用いられたそうですが、明治時代以降に「転婆」という表記が定着しました。