「喜」という漢字をじっと見つめていると、「吉のようでもあり、豆のようでもある」などの疑問が湧いてきて、「ゲシュタルト崩壊」を起こしそうな不思議な字のように感じられます。
そこで今回は、「喜」という漢字の成り立ちとさまざまな意味のほか、「よろこぶ」を意味する「悦」「歓」「慶」などほかの漢字についてもあわせてご紹介します。
1.「喜」という漢字の成り立ち
「会意文字」(壴+口)です。「壁に掛けた打楽器」の象形と「口」の象形。
「祈りの言葉」の意味から、楽器(鼓)を打って神を祭り、神を楽しませることを意味し、そこから「よろこぶ」を意味する「喜」という漢字が成り立ちました。
2.「喜」のさまざまな意味
(1)「よろこぶ」
①そのことにあって、うれしいと思う。楽しく快い気持ちになる。
②よいこととして、気持ちよく受け入れる。ありがたく受け入れる。
③よいこと、めでたいことと思う。祝福する。
④(「よろこんで…」の形で)すすんで、気持ちよく受け入れる。
⑤ 《出産を喜ぶ意から》子供を産む。出産する。(*)
(*)私は子供のころ、明治生まれの上品な老婦人が「私が○○(息子の名前)をよろこびました時は・・・」と話すのを実際に聞いたことがあります。
(2)「よろこび」
①「うれしい気持ち」
②「めでたい事」、「幸い(幸せ)」
(3)「好む」、「可愛がり愛する」
3.「よろこぶ」を意味する「喜」「悦」「歓」「慶」のその使い分け
(1)「喜」
常用漢字。一番オーソドックスな漢字です。
・嬉しく思う
・楽しく思う
コンパクトな辞典の項目は、この漢字のみ採用されています。
「喜」を含む熟語としては、次のようなものがあります。
・喜劇(きげき):こっけいみや風刺を交えて観客を笑わせながら、人生の種々相を描こうとする演劇。思わず笑いだすような、こっけいな出来事。
・喜捨(きしゃ):進んで寺社、僧や貧者に金品を寄付すること。
・喜寿(きじゅ):(「喜」の字の草書体「㐂」が七十七に見えるところから) 数え年77歳になった祝い。
・驚喜(きょうき):思いがけない出来事に驚き喜ぶこと。
・喜悦(きえつ)/悦喜(えつき):心からよろこぶこと。大きなよろこび。
・一喜一憂(いっきいちゆう):状況の変化などちょっとしたことで、喜んだり不安になったりすること。また、まわりの状況にふりまわされること。
・喜色満面(きしょくまんめん):喜びの表情が心の中で包みきれず、顔じゅうにあふれ出ているさま。▽「色」は表情や様子の意。「満面」は顔じゅう、顔全体。
・喜怒哀楽(きどあいらく):人間のもつさまざまな感情。喜び・怒り・悲しみ・楽しみの四つの情のこと。
・狂喜乱舞(きょうきらんぶ):思わず小躍りするほど大いに喜ぶこと。▽「狂喜」は狂おしいほどに大喜びすること。「乱舞」は入り乱れて躍ること。
・欣喜雀躍(きんきじゃくやく):小躍りするほど大喜びをすること。▽「欣」「喜」はともに喜ぶ意。「雀躍」は雀がぴょんぴょんと跳ね行くように喜ぶこと。
・随喜渇仰(ずいきかつごう):喜んで仏に帰依し、厚く信仰すること。
・悲喜交々(ひきこもごも):悲しみと喜びを、代わる代わる味わうこと。また、悲しみと喜びが入り交じっていること。▽一般に「交交」は現在ではひらがなで表記することが多い。
(2)「悦」
常用外漢字。昔の小説ではよく見かけすが、普通の文章ではあまり使われません。
・わだかまりが抜け楽しい
どんな意味合いかは「悦に入る」という言葉が端的に表しています。
ひとりでひっそりとよろこんでいる様。
「悦楽」という熟語もあります。女性の名前で「悦子」というのもありますね。
「悦」を含む熟語としては、次のようなものがあります。
・悦楽(えつらく):喜びを得て楽しむこと。喜び満足すること。
・満悦(まんえつ):心が満ち足りてよろこぶこと。
・恐悦/恭悦(きょうえつ):①相手の好意などを、もったいなく思って喜ぶこと。多く、感謝の意を表すときに用いる語。②非常に喜ぶこと。
・愛悦(あいえつ):可愛がって喜ぶこと
・悦玩(えつがん):喜んで大切にすること。喜び弄ぶこと。
・悦目(えつもく):見て快い気持ちになること。目を喜ばすこと
・法悦(ほうえつ):①仏の教えを聞き、それを信じることによって心にわく喜び。法喜。②うっとりとするような喜び。エクスタシー。
・愉悦(ゆえつ):心から喜び楽しむこと。
・恐悦至極/恭悦至極(きょうえつしごく):恐れつつしみながらも大喜びすること。
・心悦誠服(しんえつせいふく):相手の誠意から喜んで従うこと。▽「心悦」は相手の行動や言葉に本心から喜ぶこと。「誠服」は本心から尊敬して従うこと。
・愉快適悦(ゆかいてきえつ):とても楽しくて、気分がよいこと。▽「適悦」は満ち足りていて喜ぶこと。似ている意味の言葉を重ねて強調した言葉。
(3)「歓」
常用外漢字。
・声や動きに表しよろこぶ
「歓声」「歓楽街」という言葉があるように、にぎやかに大勢で喜ぶニュアンスです。
みんなで一緒にいる時に沸き起こった歓喜の渦。
そんな時に「歓ぶ」という字を選びたくなります。
「歓」を含む熟語としては、次のようなものがあります。
・歓声(かんせい):喜びを抑えきれずに叫ぶ声。歓呼の声。
・歓楽街(かんらくがい):娯楽施設、飲食店、宿泊施設などが集まっているエリア
・歓喜(かんき): 非常に喜ぶこと。また、心からの喜び。
・歓迎(かんげい):喜んでむかえること。喜んで受け入れること。
・歓談(かんだん):打ち解けて親しく語り合うこと。
・歓心(かんしん):喜ぶ気持ち。うれしいと思う心。
・歓待(かんたい):手厚くもてなすこと。
・歓呼(かんこ):喜んで、大きな声を上げること。
・交歓(こうかん):ともに打ち解けて楽しむこと。
・合歓(ごうかん):①よろこびを共にすること。いっしょに喜ぶこと。②特に、男女がよろこびを共にすること。
・哀歓(あいかん):悲しみと喜び。
・歓送(かんそう):その人の出発を喜び、励まして送ること。
・活計歓楽(かっけいかんらく):好き勝手に楽しみながら、贅沢な生活をすること。▽「活計」は贅沢をすること。
・歓喜抃舞(かんきべんぶ):思いっきり喜ぶこと。▽「抃舞」は手を打ち鳴らして踊ること。
・歓欣鼓舞(かんきんこぶ):思いっきり喜ぶこと。▽「鼓舞」は鼓を打ち鳴らして踊ること。
・歓言愉色(かんげんゆしょく):楽しげな会話と楽しげな表情。または、お世辞を言って、愛想よく振る舞うこと。▽「歓言」は楽しく話しをする、談笑。「愉色」は楽しげな表情、笑顔。
・誠歓誠喜(せいかんせいき):この上なく喜ばしいという意味。▽臣下が天子に書を奉る時に用いる言葉で、「歓喜」に「誠」を重ねて至上の喜びを表現した言葉。
(4)「慶」
常用外漢字。
・めでたいことを祝いよろこぶ
新年のお慶びやご結婚のお慶びなどに使われています。
ニュアンス的にはめでたい気持ちですね。
慶事・お祝い・祝賀の意味合いが強いです。
女性の名前で「慶子」というのもありますね。歴史上の人物としては「武蔵坊弁慶」がいます。また、元号やそれにちなむ大学名に「慶応(慶應)」があります。
「慶」を含む熟語としては、次のようなものがあります。
・慶事(けいじ):結婚や出産などの喜びごと。祝いごと。
・余慶(よけい):①祖先の善行のおかげで、子孫が受ける幸福。②先人のおかげ。余光。
・落慶(らっけい):神社・仏閣などの建築や修理の落成を祝うこと。また、その祝い。らくぎょう。
・慶雲(けいうん):めでたいことの起こる前兆とされる雲。瑞雲 (ずいうん) 。
・慶賀(けいが):①喜び祝うこと。祝賀。②任官・叙位された者が、お礼を申し上げること。拝賀。奏慶。よろこびもうし。
・慶弔(けいちょう):「慶事」(結婚や出産などの喜ばしいこと)と「弔事」(葬儀などの弔いごと)の両方のこと。
・大慶(たいけい):大きなよろこび。この上なくめでたいこと。
・積善余慶(せきぜんよけい):善い行いを何度も行った家は、子孫にもその恩恵があるということ。▽「積善」は善い行いを積み重ねること。「余慶」は子孫にも幸福が及ぶこと。
「積善の家には必ず余慶あり」を略した言葉。
・大慶至極(たいけいしごく):この上なくめでたくよろこばしいこと。
・和風慶雲(わふうけいうん):穏やかに吹くそよ風と、吉兆を示すめでたい雲。温厚で徳の備わった人格者を形容した語。本来は孔子の高弟の顔回を評した語。▽「和」は穏やかなさま、「慶」は吉兆を表す。