日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.雷(いかずち/いかづち)
「いかずち」とは、雷(かみなり)のことです。「鳴る神(なるかみ)」とも言います。
いかずちの「いか」は「猛々しい(たけだけしい)」「荒々しい」「立派」などを意味する形容詞「厳し(いかし)」の語幹で、「ず(づ)」は助詞の「つ」。「ち」は「みずち(水霊)」や「おろち(大蛇)」の「ち」など、霊的な力を持つものを表す言葉で、いかずちは「厳(いか)つ霊(ち)」が語源です。
本来、いかずちは鬼や蛇、恐ろしい神などを表す言葉でした。
雷は自然現象の中でも特に恐ろしく、神と関わりが深いと考えられていたことから、いかずちは雷を意味するようになりました。
2.居候(いそうろう)
「居候」とは、他人の家に世話になり養ってもらうこと、またその人のことです。
「居候三杯目にはそっと出し」(他人の家でただで世話になっている居候は遠慮がちになること)ということわざがあります。
太平洋戦争中に東京や大阪で空襲に遭って焼け出された一家が田舎の親戚の家に一時身を寄せることがありましたが、最初は同情され歓迎されても、月日が経ってくるとだんだん「タダ飯食いの邪魔者」扱いされるようになり、肩身の狭い思いをしたそうです。
最近ではロシアに侵略されたウクライナからの避難民をホームステイのような形で受け入れた家族もありましたが、一般には「居候」をしている人は少なくなったのではないかと思います。
近世の公文書に同居人の肩書きとして、「◯◯方居候」などと記したことから出た語です。
「居」は「存在する」「居る」の意味、「候」は「あり」の謙譲語で「であります」「でございます」を表し、「居ります」が居候の原義でした。
居候は家族制度からあぶれた者を社会的に認知するために用いられた肩書きでしたが、川柳などでは、その肩書きの狭さや独立心の無さを笑いの対象として扱われました。
明治時代以降には、「迷惑な厄介者」という意味合いで用いられるようになりました。
3.命(いのち)
「命」とは、生物が生きていくための源となる力のことです。
命の語源には次のように諸説あります。
①「い」が「生く(いく)」「息吹く(いぶく)」の「い」で「息」を意味し、「ち」は「霊」の意味とした、生存の根源の霊力の意味とする説。
②「息の内(いのうち)」の意味とする説。
③「生内(いきのうち)」の意味とする説。
④「息力(いのち)」が「命」の意味とする説。
4.銀杏/公孫樹(いちょう)
「イチョウ」とは、中国原産のイチョウ科の落葉高木です。実は銀杏(ぎんなん)として食用にされ、葉は血行促進・ボケ予防に良いとされます。
イチョウは、葉がカモの水掻きに似ていることから、中国では「鴨脚」と言い、「イチャオ」「ヤチャオ」「ヤーチャオ」「ヤーチャウ」などと発音されました。
これが日本に入り、「イーチャウ」を経て「イチョウ」になりました。ちなみに「鴨脚」という苗字は「いちょう」と読みます。
イチョウの歴史的仮名遣いは「いてふ」とされてきましたが、これは葉の散るさまが蝶に似ていることから、「寝たる蝶(いたるちょう)」の意味で「イチョウ」になったとする説や、「一葉(いちえふ)」を語源とする説が定説となっていたことによるものです。
これらの説が否定された今日では、「いちゃう」がイチョウの歴史的仮名遣いとなっています。
漢字の「銀杏」と「公孫樹」は、共に中国語から。「銀杏」は、実の形がアンズに似て殻が銀白であることに由来します。「公孫樹」は、植樹した後、孫の代になって実が食べられるという意味によります。
「銀杏(いちょう)」は季語ではありませんが、「銀杏の実」や「銀杏(ぎんなん)」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・青々と 池持つ寺や 銀杏の実(原石鼎)
・松葉杖 突いて銀杏 拾ふ人(高澤良一)
5.いびる
「いびる」とは、弱い立場の人を陰湿にいじめることです。
いびるは、本来「時間をかけて焼く」という意味で、「炙る・焙る(あぶる)」「燻る(いぶる)」などと同源と考えられます。
長い時間をかけて下からじわじわと熱するさまは、弱い立場の者をいじめて苦しめるさまに似ていることから、陰湿にいじめることを「いびる」と言うようになりました。
いびるには対応する漢字がなく、当て字の使用例も見られません。