日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.鼾(いびき)
「いびき」とは、睡眠中、呼吸に伴って軟口蓋などが振動し口や鼻から出る雑音のことです。「いびきをかく」「いびきを立てる」と使われます。
いびきは、平安時代の漢和字書『新撰字鏡』にも見られる古い言葉です。
「息吹(いぶき)」という語があるため、いびきの語源には、「息」を「い」と読み、「息引き」「息響き」からとする説が有力です。
『万葉集』には「寝も寝ずに(いもねずに)」と、「寝」の字を「い」と読む例があるため、「寝響き(いひびき)」が転じたとする説もあります。
いびきの漢字「鼾」の由来は、鼻から出る干声(大きな音)の意味からといわれています。
余談ですが、「鼾」とよく似た漢字の「嬶/嚊」は「かか/かかあ」と読みます。庶民階層で妻(女房)を言う語、また母親を親しんで呼ぶ語です。
2.一世風靡(いっせいふうび)
一世風靡と言えば、1980年代に活躍した「一世風靡セピア」(哀川翔や柳葉敏郎などがメンバー)を思い出す方も多いことでしょう。
「一世風靡」とは、ある時代に広く知られ流行することです。
一世風靡の「一世」は、その時代という意味。「風靡」は、風が草木を靡(なび)かせるように、多くの者をなびき従わせることを意味します。
「一世を風靡する」の形で使われることが多く、「一世風靡」という四字熟語での使用はあまりなかったのですが、1984年から1989年に活躍した「劇男一世風靡」及び「一世風靡セピア」の影響によって、四字熟語での使用が多くなりました。
3.インチキ(いんちき)
「インチキ」とは、不正やごまかしのことです。
インチキは明治時代の賭博仲間の隠語で、不正手段を使った詐欺的賭博のことを意味しました。
この語が一般に普及したのは昭和に入ってからで、それまでは「イカサマ」の語が広く使われていました。
そのため、インチキの「イン」は、イカサマの「イカ」から変化しものと考えられます。
「チキ」は「高慢ちき」や「とんちき」など、人の状態を表す接尾語「ちき」でしょう。
インチキの語源には、福井の方言で人を騙すことをいう「いんつく」から転じたという説もありますが、あまり有力な説ではありません。
4.一期一会(いちごいちえ)
「一期一会」とは、一生に一度限りの機会のことです。
一期一会の語源は、「茶会に臨む際は、その機会を一生に一度のものと心得て、主客ともに互いに誠意を尽くせ」といった、茶会の心得からです。
千利休の弟子の山上宗二の『山上宗ニ記』に「一期に一度の会」とあり、ここから「一期一会」の語は茶道の言葉となりました。
一般にも広く使われるようになったのは、江戸時代末期、井伊直弼が『茶湯一会集』において、自身の茶道の一番の心得として「一期一会」を用いたことからです。
「一期」と「一会」の由来をそれぞれ辿ると、「一期」は仏教用語で、人が生まれてから死ぬまでの間を意味します。
「一会」は主に法要などで、ひとつの集まりや会合を意味しており、ともに仏教と関係の深い言葉です。
5.色男(いろおとこ)
「色男」とは、女性にモテる男、美男子、好色な男のことです。
色男は、歌舞伎で男女の濡れ場を演じる「濡事師(ぬれごとし)」のことです。
濡事師は、色白の美男子に見せるために顔を白く塗っていたことから、「色男」とも呼ばれるようになりました。
そこから、美男子を「色男」と呼ぶようになったと言われます。
ただし、「色女」という言葉も古くからあるため、美しさや艶、好色なさまを表す「色」に由来するとも考えられます。
6.色(いろ)
「色」とは、視覚のうち、光波のスペクトル組成の差異によって視神経の刺激が脳の視覚中枢に伝えられて生ずる感覚のことです。色相・明度・彩度の三属性によって表されます。特に白や黒を除いていう場合もあります。
社会的・慣習的に定まった色(禁色・鈍色など)や、おしろい・化粧の意味もあります。
このほか、華やかな様子・姿や、表に現れる様子・趣・けはい、愛情・情事・その相手など男女の情愛に関する物事を指す場合もあります。
色の語源は、血の繋がりがあることを表す「いろ」で、兄を意味する「いろせ」、姉を意味する「いろね」などの「いろ」です。
のちに、男女の交遊や女性の美しさを称える言葉となりました。
さらに、美しいものの一般的名称となり、その美しさが色鮮やかさとなって、色彩そのものを表すようになりました。